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とある日、とぼとぼと登校したいつも通りの私の肩がポンッと叩かれた。


「おはよう、なまえちゃん。」

『....あっ、水戸く....洋平くん、おはよう....!』


言い直した私にニコッと笑った洋平くんは「教室までお供しますぜ」だなんて相変わらず爽やかである。今日もバッチリ決まったリーゼントが綺麗でジッと見つめていたら「あれ?崩れた?」と自身の髪の毛を触り始めた。


『ううん、綺麗に纏まってるなぁって....。』

「ハハハ、照れるなぁ。そんなに見られちゃうと。」


慌てて「ごめん」と目を逸らせば「ハハッ」と洋平くんの笑い声が聞こえて余計に顔が熱くなった。あぁもう、楓以外の男の子と並んで歩くことなんてなかったから...全然わかんないんだよ...。


「なまえちゃんは部活とか入ってねぇんだ?」

『うん、帰宅部だよ。』

「そっか。俺らたまに花道の練習観に行くんだけどさ、今度よかったら一緒に行こうぜ。」


「体育館に、花道を観に」と強調した洋平くんの言葉に私はちょっとだけ驚きながらも「うん」と呟いた。楓ではなく、桜木花道くんのための応援...。そう言ってくれた洋平くんが私に気を遣ってくれたことは確かなんだけど、なんていうか...バスケ部と私を完全に遠ざけて、バスケ部や楓の話に全く触れないようにするっていう気遣いよりも、自分たちの仲間に入れてくれて、桜木くんの為の応援で楓との関わりもなくなるわけじゃないっていうその微妙な距離感がとても嬉しくて私はジッと洋平くんを見つめてしまった。


「...どうした?俺なんか変?」

『あ、いやっ....すごく、優しい人なんだなぁって...』


口にしてからハッとする。なんだか恥ずかしいことを言ってしまった気がして慌てて「いや、あの!」と手をぶんぶん横に振れば洋平くんはポカンとした顔で一間置いた後に「ありがとな」と笑ってくれた。


『ご、ごめん、なんか....できたことないタイプの友達で...』

「なまえちゃんってめちゃくちゃ正直者なんだな。」


クスクスと笑う洋平くんがなんだかすごく綺麗で、楓とはまた違った綺麗な雰囲気があって、見惚れるのを防ぐために意図的に目を逸らしてみた。あっという間に教室に着いたようで「着きましたよ」なんて落ち着いた口調での声が聞こえて私は無言で教室へと入った。


「昼飯、一緒に食おうぜ。」


背後からそんな声が聞こえて振り向けば「迎えに来るよ」とだけ言い残した洋平くんが去り際にニコッと笑って廊下を歩いていく。何の返事もできずにその場に固まった私。


『迎えに、来るって.....』


二人きりじゃないということはわかっている。あの四人は「桜木軍団」と呼ばれて桜木花道くんを筆頭に喧嘩は強いが心の優しい集団だということを知ったのだから。でもどうしてか、爽やかなあの雰囲気や穏やかな綺麗な笑顔に見惚れてしまう自分がいて、あの四人の中でも格段に「水戸洋平」という男の子にはドキドキさせられている。















「おーい、なまえちゃん!」

『大楠くん!今行くね!』


お弁当を持ってバタバタと教室を出ればそこには「中庭集合だって」と私を迎えに来てくれた大楠くんがいた。手にはコンビニの袋をぶら下げて今日も綺麗な金髪頭が眩しい。


『大楠くんいつもコンビニでお昼買うの?』

「んー、まぁそんな感じが多いかな?」

『そっか。』


あんまり体に良くないのかもなぁ...なんてぼやぼや考える私に「何?体に悪いなとか思った?」だなんて悪戯っ子のような表情で聞いてくる大楠くん。私が素直に「うん」と呟けば大楠くんは途端に「あー...」と声を出す。


『お弁当、作ってあげようかなとか思っちゃった。』

「....やっぱり.....。」

『助けてくれたお礼もまだしてないし....』


楽しそうな表情はどこへやら、大楠くんは「でもそしたら俺ら四人分作る羽目になるよ」と苦笑いでそう言ってくる。さすがに一日に四人分っていうのは無理かもしれないけれど、日替わりでなら...と考えを馳せる私に大楠くんは「だったら」と口を開いた。


「だったら、洋平に作ってやってくれる?」

『どうして、洋平くんなの...?』

「あー...俺らのリーダー的存在だし?それに...、」


モゴモゴと言葉を発し煮えきらない大楠くんを覗き込むようにして見ていれば「あー」とか「うーん」とかそんなハッキリしないものをたくさん使って大楠くんは「あれだよ、あれ」だとかよくわからないことを言ってくる。そのうち「大楠」と彼を呼ぶ声が聞こえて振り向けばそこには洋平くんが立っていた。


「余計なこと言うんじゃねぇよ。」

「痛っ....いや、悪い....。」


二人のやりとりの意味がわからなくてボケッと隣で見ていたら、大楠くんと同じようにコンビニの袋を片手に持った洋平くんが「よっ」と声をかけてくれた。


「腹減ったし早く食おうぜ。」

『うん....!』


四人揃えばみんなしてコンビニの袋から菓子パンやおにぎりを取り出すものだから、彼らの世界ではそれが当たり前なのかなぁ...なんてお弁当を持参した自分が恥ずかしくなるくらいだった。


「うわ、美味そう.....」

『これ今朝時間なくて失敗しちゃったから...あんまり美味しくないかもしれないの...』


私のお弁当のおかずをジッと見つめてそう言ってくれた高宮くんにそう答えれば隣で洋平くんが「え?自分で作ってんの?」と聞いてくる。


『あ、うん。そうなの。』

「....マジかぁ、」


そう言うと何故だかジッと高宮くんに視線を向けた洋平くん。見つめられるなり「ヒィッ」と声を上げた高宮くんが「なまえちゃんの分だもんな、ごめん」と謝ってきた。


『ううん、もっと美味しく作った時にあげるね。』


いつか必ずみんなにお弁当を作ってこよう。そのためには好きなおかずをリサーチせねば....。


一人で勝手にそう意気込んだ私。高宮くんが何故だかひとりじわじわと汗をかき焦っている様子であることに私が気付くことはなかった。






ジッと感じる視線の先


(わ、悪かったって、洋平!)
(...........)
(頼むからそんな目で睨むな!)










Modoru Susumu
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