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まただ。放課後になるなり楓は足早に廊下を歩いていった。親衛隊が好奇の目で見つめていることなど気付かずにスタスタと長い脚で歩みを進めていく。自然と後を追うようになった私が玄関先に着く頃にはだいぶ前をマネージャーの先輩と並んで歩く楓がいて、そのまま体育館へと入っていった。


「....ねぇ、幼馴染さん。」

「そこを開けたら....ねぇ?」


上履きからローファーへ着替えようとした時、下駄箱を開けるなり勢いよく出てきた紙くず。そこになんて書かれてるのかなんて考えたくもない。後ろから聞こえる笑い声は完全に無視だ。相手にするだけ無駄だってわかってるんだから。


「....ねぇ、話しかけてるんだけど?」

『痛っ........』


紙くずを拾い集める私の腕は思いっきり後ろから掴まれて後ろへと引っ張られた。楓の親衛隊がこんなにも嫌な女で溢れてるなんて本当に信じたくない。


「....ちょっと来いよ。」


ずるずると引きずられて人目のないところへと連れてこられた。なんというタイミングなのだろうか、周りには誰もいなくて.....。


『...何すんのっ!』

「身の程を知れってことだよ、ねぇ?」


持っていた通学鞄を取られると思いっきり遠くへと投げられてしまった。中には財布や携帯など大切なものが入っているっていうのに.....


『やめて......、』


慌てて取りに行くために追いかければ、私の鞄を拾い上げる誰かが現れて。「よいしょ」と言いながらそれを拾ったのは学ランを着た男の子であった。


「....見逃すわけには、いかねぇなぁ。」


ひとり、前に立つ男の子が鞄を拾うと、その後ろにも何人か男の子たちがいて。「見たからには、このままってわけにもね」と後ろの金髪の男の子が続けて口を開いた。


確か....、水戸洋平くんと.......


「何よ、言いたければ言えばいいじゃない。」

「周りのみんなは貴方達と私達、どちらの言い分を信じるでしょうね?」


私を差し置いて、親衛隊の中心メンバーの女の子と水戸洋平くんは二人で向かい合って立っている。


「....別に、誰かに言いふらすつもりなんてねぇよ。」

「そう?だったら何しに来たの?正義のヒーロー気取り?」


水戸くんはフッと笑うと「どうだかな」と言った。


「コソコソしたやり方が、気に入らねぇだけだよ。」


そう言うと水戸くんは後ろを向いて「高宮」と呟いた。呼ばれた眼鏡の男の子は「おぉ」と返事をするなり手に持っていたカメラを差し出す。


「ここに、証拠が全部入ってるぜ、親衛隊さんよ。」

「ついでにこっちには、今までの全てがね。」


高宮と呼ばれた男の子の次に、紙袋を持った髭の男の子がそう言った。見せてくれた紙袋の中には、先ほども私の下駄箱に入っていたような赤いペンで「消えろ」などと書かれた紙くずがまとめて入っていて、気付くたびにこそこそとゴミ箱へ捨てたはずのものであった。


『それ.......っ、』

「余計な真似してごめんな。でも見過ごすにはあまりにもひでぇ話だと思ってさ。」


水戸くんは私に向かってそう言うと鋭い目つきに変えて親衛隊をキッと睨んだ。その目は簡単に人を殺せそうなほど冷め切っていて、見つめられてもないのに私がゾッとしてしまった。


「....さぁ、どうする?お前らの大好きな流川くんに、全部見せてやろうか?」

「.......っ、」

「それとも....二度とみょうじさんに近付かないって、ここで約束してくれるか?」


水戸くんの低く放たれた声に親衛隊の皆は顔を強張らせた。チッと舌打ちしてその場を去ろうとする親衛隊に「....テメェらが、」と水戸くんは口を開く。


「テメェらが流川に見向きもされねぇのは、そういうところなんじゃねぇの?」

「....っ!」

「幼馴染に生まれなくともアイツと仲良くなれる女はいるんだよ。」


ほら、あの有名なマネージャーさんみたいに。


水戸くんはそう言って親衛隊の方を向いた。ピタッと止まり水戸くんの言葉に拳を握りしめている親衛隊。


「あの人はたまたま同じ中学だったってだけで流川に気に入られたんだろ?こんなことする暇があるんなら、少しは見習ったらどうだよ。」


少なくとも今よりは、流川に近づける可能性が出てくるんじゃねぇの?


水戸くんがそう言うと親衛隊は駆け足でその場を去っていった。中には泣いているような雰囲気の子もいていかに水戸くんの言葉が彼女たちに突き刺さったか物語っている。


「.....余計なことしてごめんな。ほら。」


彼女たちがこぞっていなくなり、水戸くんは私の鞄をパンパンと二回払った後にそっと差し出してくれた。


『ど、どうも...ありがとう...!』


ゆっくりとそれを受け取れば「怪我はなかった?」と金髪の子に聞かれる。コクッと頷けば「よかったよかった」と安心されてしまう。


『あの....、どうしてこんな、証拠まで集めて.....』


途切れ途切れになりながらもそう聞けば眼鏡をかけた高宮くんが「俺ら正義の味方なんだよ」と笑ってくれた。確か、バスケ部が誰かに襲撃された時もこの人たちが助けた上に罪を被って謹慎したとかなんとか...そんな噂もあったからか、気付いたら私は「本当にヒーローなんだね」とそう返していた。


「ハハハ、よかったら仲良くしようよ。」

『....そんな、気を遣ってもらって悪いよ....。』


私とこの四人だなんてどう見たって縁がなさそうだ。至って平凡な私と、いわゆる不良でありながらもとても良い人たちで本当に正義の味方みたいなこの四人とが仲良くするだなんてそんな世界あるわけが....


「いいや、そんな器用なことできねぇから。」


水戸くんはそう言うと私に向かって手を差し出した。


「水戸洋平、よろしく。」

『....みょうじなまえです....よろしくお願いします... っ。』


恐る恐る自分の手を重ねてみた。水戸くんはニカッとした爽やかな笑顔で「おう」と答えてくれた。






君を守る正義のヒーロー


(洋平って呼んでいいよ)
(洋平くん.....)
(よろしく、なまえちゃん)















Modoru Susumu
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