彼女視点







私は確実に生まれてくる家を間違えた。


「なまえ朝だぞ、起きろ。」


コツンと頭を叩かれて布団から目だけ出せば、目の前には相変わらず綺麗な顔して制服までバッチリ着こなしてもう朝練に出発するだけの幼馴染が立っているわけだ。


「ほら、起きろって。二度寝すんなよ。」

『わっ......』


強引にも掛け布団を剥がすと私の腕を引っ張りベッドに座らせる藤真。いくら「幼馴染」とはいえさすがに超寝起きの姿を見られるのは高校生となった今あまり良い気はしないし、バッチリ準備が整った完璧な藤真と比べてパジャマの私って...最高に恥ずかしいのだけれど...。「おはよう」と言えばそんな私を見るなり「おはよう。よく寝れたみたいだな」と髪を触ってくる。


その意味がわかり瞬時に眼鏡をかけて確認すれば案の定ピョンと跳ねた髪の毛が視界に入りガックリ項垂れるわけだ。


「髪もいいけどちゃんと朝飯食ってこいよ?遅刻もしねぇように。わかった?」

『わかってる...朝練、遅れるよ。』

「あっ、じゃあ俺行くわ。また後でな。」


藤真はそう言うと私の部屋を出て行こうとする。毎朝のことだっていうのにその後ろ姿を見るとなんだかやけに落ち着きがなくなって、無意識に「藤真、」と声をかけてしまう私。


「...ん?」

『頑張ってね、朝練....』

「....おう、ありがとう。」


藤真はそう言うとニコッと笑って我が家を出ていった。お母さんとのやりとりもちゃんと忘れていない藤真はきっちり「お邪魔しました」と挨拶をしていく。こういうところ昔から変わっていない。












生まれた家は間違えていないのかもしれない。神奈川のごく普通の平凡の家庭に生まれ、両親のごく普通のDNAを普通に遺伝子として受け継いだ私は見た目も中身もごく普通で、幼馴染として幼い頃から共に過ごしてきたこの「藤真健司」という美形モンスターと比べたら雲泥の差だ。


そう、この藤真健司のせい。藤真健司の幼馴染として生まれてきたのは絶対何かの間違いであった。


生まれてきた家はあっていた。けれども、生まれてくる「場所」は間違えたように思う。私が間違えたのか藤真が間違えたのかさだかではないが、私たちが幼馴染というこの世の中は絶対に間違っている。


「藤真くんおはよう!」

「藤真くん、朝練お疲れ様!」

「おはよう、ありがとう。」


登校するなり女子に囲まれてワーキャー言われている幼馴染を横目に教室へと急ぐ。藤真と違い、私に「おはよう」と声をかけてくるのはごく一部の女友達のみであるし、今までの人生の中であんなにも誰かに注目された経験はない。


「藤真くん、朝ごはん食べた?これよかったら...」

「...いいの?ありがとう。」


別に注目される人生だけが幸せなわけじゃないし、実際見ている限りでは注目されてる藤真が果たして幸せかどうか私にはわからないままなのだ。とても大変そうな姿を何度も目にしてきたし、人気者故の苦労が存在することもなんとなくわかっている。


私にとっての不幸中の幸いは、藤真健司と幼馴染だということを誰にも口外していないことだ。


小学生の頃こそ、幼馴染という立場から藤真とは学校や外でもよく話し共に帰ることもあった。けれども高学年になるにつれ、藤真は美しさに磨きをかけ、背も高くなりメキメキと成長していき、あっという間にモテ男になってしまった。それでも変わらず「幼馴染」として接してくる藤真の隣にいることは極めて危険で、私はいつからか彼と距離を取るようになっていた。そんな私の心情を察してくれたのか、藤真は外では一切私に話しかけなくなり、私と藤真が幼馴染だという事実は今のところ翔陽においては花形くんぐらいしか知らないだろう。


藤真の周りにいる派手な女の子たちみたいにメイクやオシャレに興味がないわけじゃないけれど、超平凡な容姿の私が何からどう磨けばいいのかわからないままときは流れて気付けば高校も二年生になった。小学生の頃から愛用している黒縁メガネは今も手離せないままだ。藤真の頭の中はよくわからないけれど17歳となった今も毎朝変わらず起こしに来るのだから今のところ「幼馴染」という関係性は変わっていないらしい。


「高野。お前これ、忘れもの。」


噂をすれば何とやら。私の席のごく近くに座っていた高野くんはホームルーム前だというのに既にぐったり疲れていて。そんな彼を廊下から呼ぶのは藤真で、呼ばれた高野くんは「....あ」と声を上げて立ち上がりスタスタと藤真の元へ向かっていた。


「ありがとう、藤真。」

「どういたしまして。何?席替えでもしたの?」


他クラスの藤真の登場により、教室の女子たちはザワザワと騒ぎ出す。まさかこんな有名人が毎朝私の部屋へ起こしに来てくれるとは絶対に誰にも言えない墓場へ持っていく冥土の土産だ。藤真は高野くんにそう聞いては「そうだよ」と返事を返されている。


「へぇ....いい席座ってんな、高野。羨ましい。」

「どこが....よく見たか?前から二番目だぞ?」


高野くんの席のどこが「いい席」なのか、相変わらずおかしなことを言う藤真に心の中で「変なやつ...」と呟きながら私はホームルームに行われる小テストの勉強を始めたのだった。










幼馴染は今日も人気者

(俺とクラス変わってくんねぇ?高野)
(...んなことできるわけ...やめろっ、睨むな藤真っ...)







Modoru Susumu
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