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『....こんな日まで....よく飽きませんね....。』

「馬鹿!見るんじゃねーよ!みょうじ!」


向こうへ行ってろ!と続けた松本の声に「はいはい」と呆れたなまえがそう返事をする。松本の隣で相変わらず鼻血を垂らした野辺は「体育着姿のみょうじ...」と呟きやながらクラクラしていた。体育祭だもん。体操着くらい着るだろ...と遠ざかるなまえは心の中で舌打ちした。


「みょうじ、お前何か競技出るのか?」

『出ますよ。この次かな?』

「何に出るんだ?」

『二人三脚。』


近くにいた河田に聞かれそう答えたなまえ。答えるなりどこからか「俺めちゃくちゃ応援する!」と聞きなれた声が聞こえてうんざりする。またどこからか湧いてきたな...


『栄治。頼むから静かに見てて。』

「いや俺マジで、これ借りてきたから!」

『ふざけんな....。』


沢北の手に握られたのは黄色のボンボンで、首にぶら下げたメガホン片手に「完璧だろ」とキメ顔をしてくる。この野郎.......なまえの心は物騒な言葉で溢れている。


『お願いしますよ、河田さん!頼むから栄治押さえ込んでくださいね!』

「任せとけ。行ってこい!」

「なまえー!転ぶなよー?」


河田さんがいれば栄治が私の名前を叫び倒して恥ずかしい思いをすることもないだろう。なまえはそう確信し二人三脚へ参加するため集合場所へと駆けて行った。












「みょうじー!やるからには1位だ!お前も山王バスケ部!負けは許さねーべ!」

「なまえー!頑張れー!可愛いぞー!」

『あの野郎ども........』


競技が始まるなりなんと河田は沢北と共にメガホン片手に大声でなまえの応援をし始めたのだ。しかもかなりのノリ気らしく遠目からでも美紀男を招集しているのが確認できた。おいおい...仲間を増やすんじゃねぇ...


「なまえさーん!!」

『美紀男....無邪気に手振らないで....』


ワーワー騒ぐ河田兄弟と沢北の元に続々とバスケ部員が集まりそこ一帯は何故だか坊主頭の群れが出来ている。坊主の大群は不釣り合いな黄色いボンボンを持つとみんな揃って「みょうじー!」と声を上げている。


『やめて....お願い....恥ずかしいよ....』


縮こまり隠れるようにして体育座りをするなまえだが坊主頭の群れの応援の的になっていることは周りの人々にバレていて。好機の目で見られる事に恥ずかしさは最高潮だ。勘弁してくれ....


「みょうじ!しっかり走れピョン!」

『走ってるでしょ...っ、深津め....!』


なまえは友人と走っている最中、スッと耳に入ってきた深津の声にキレながらも返事をする。


「なまえ!いいぞ!行け!!」

「なまえさん、頑張ってください!もう少し!」

「みょうじー!そのまま突っ走れー!」

『う、うるさいんだよ、馬鹿ども.....!』


バスケ部という名の坊主の群れからの声援の甲斐あってなまえは友人と息の合った走りを見せるとダントツ1位で次の組へバトンを渡した。そのままなまえのクラスは1位をキープし2位と差をつけゴールテープを切った。


『やった....!』


クラスメイトと喜びを分かち合うなまえがふと部員がいる方へと視線を向ける。そこには自分たちのことのように喜び合い、なまえの視線に気づくなり「やったなぁー!」「おめでとうー!」と声をかけてくれる仲間たちがいるわけだ。


『......馬鹿どもめ.......。』


なまえは言葉とは裏腹に笑いながらクラスメイトの輪の中から抜けた。ゆっくりと部員の元へ近付き「みょうじやるじゃん!」と声をかけてきた一之倉に「ありがとうございます」と返事をする。


『もう.....恥ずかしいじゃないですか、みんな....!』


よく見れば深津、河田、一之倉を始め先輩である三年生たちもスタメン控え分け隔てなく集まっているではないか。真ん中に立ち「俺の声援届いてた?」とニコニコで聞いてくる沢北がいて「沢北さんに負けないように応援してました」と報告してくれる美紀男がいる。


『.......だいすき、みんな。』


なまえのその言葉にその場にいた坊主の群れはハッと固まった。みんなしてなまえを見つめるなりぼうっとして沢北に至っては魚のように口をパクパク動かしている。


『応援ありがとうございました!部活対抗リレーでは私も全力で応援しますね!』


なまえはそう言って輪の中を抜けた。なまえがクラスメイトの元へと駆けていく後ろ姿を、坊主の群れはジッと眺め誰かがポツリと「可愛い...」と呟いたのをきっかけに「うちのマネージャーは間違いなく日本一の美女だ」とマネージャーが可愛すぎる議論が始まったのだ。












『松本さん、頼みますよ。絶対1位で栄治に繋いでくださいね。』

「任せておけ。みょうじ、俺がいない間野辺に近付くなよ。」

『近付かないですよ......抜かりないなぁ.....』


体育祭の最終種目、部活対抗リレーが始まろうとしている。最大の敵は陸上部とサッカー部であり、去年は僅差でバスケ部が勝利したものの今年も油断ならない。勝利したからといって褒美があるわけではないがやるからには絶対に負けないという無敗記録を持つ山王バスケ部魂が叫ぶのであった。


『栄治.....信じてるね......』

「あぁ.....俺に任せろ、なまえ。」


ひとりひとり走者に激励しにいくなまえ。アンカーである深津の前に行くなりなまえはそっと手を差し出した。


『深津さん.....』

「みょうじ......」


二人は名前を呼び合いガッチリと握手を交わす。言葉が無くとも分かり合える関係である。坊主が群れをなす応援席へと向かおうとしたなまえに深津がそっと声をかけた。


「....お前の為に1位になる。」

『....っ、!!』


深津はそう言うと何もなかったかのようにアンカーの待機場所へと去って行った。


『.....ずるいなぁ、ピョンちゃんは.....』









スタートするなり接戦を見せた松本だったがバトンが沢北に渡る頃には徐々に差が開き始め、二走の沢北の激走によりバスケ部はリードし始めた。中盤サッカー部の追い上げに苦しみ勝敗はアンカーに託された。


『深津さん!!頼みますよ!!』

「深津さん!行けー!!」


僅差でバトンをもらった深津は部員からの声援を力にメキメキと群を抜いて1位を突っ走る。そのままゴールテープを切るなり寄ってたかって彼の元へ集まる部員たちに揉みくちゃにされながらも「みょうじ!」と声を上げた。


『深津さん....凄かった....!』


なまえがそう言うと部員たちの輪から抜けた深津はなまえの前に立ち彼女の頭を優しく撫でた。


「約束、守ったピョン。」

『....うん。』


なまえが照れたような顔を見せ、敬語では無く「うん」と呟いたこともあり、二人の間には甘いピンク色のオーラが漂った。そしてなんといってもキャプテンとマネージャー。三年と二年という、最高にして最強の組み合わせだ。一瞬にして汗臭さから甘いオーラに包まれたその場でひとり、沢北だけは「やめろ!」と叫んでいた。







来年は俺がキャプテンなのに!!


(そのポジションは俺になるんですよ!深津さんは引っ込んでろ!!)
(....沢北、シメるピョン)
(うわあぁぁ!何すんだぁぁ!!)

(........ぐすっ、ひでぇや........)



栄治のアメリカ留学は無しということでお願いします(笑)








Modoru Susumu
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