B
みょうじなまえはモンスターだ。
『栄治?何ぼうっとしてるの?働いてくれる?』
「あ、ごめん.......」
入学早々隣のクラスであったなまえに一目惚れした俺が休み時間ごとに教室を覗きに行った。部活が始まるなりマネージャーとして男子バスケ部に入部してきた時は心の底から驚いたしラッキーもいいとこだって上機嫌に部室の中を走り回って深津さんにマジな感じで殴られた。聞くところによると女子マネはとらないと決まり事があったらしいのに、堂本監督の元に直談判しに行き、自分をマネージャーとして入部させることのメリットをプレゼンした驚異のメンタルの持ち主らしい。なまえのそういう桁外れな言動と、圧倒的すぎる美貌、それに一切浮かれないサッパリとした中身が俺にはどストライクすぎて日に日に惚れていくわけだ。
『栄治、これ三年生の分ね。これが深津さんと河田さんの分。』
「わかった。」
山王の体育祭は秋ではなく夏前に行われる為、インターハイ予選と被ったりして面倒だ。部活対抗リレーに着用するユニフォームは何故だか手作りで、マネージャーのなまえと有志で集まった部員たちで作成することになっていた。背番号の下に名前入りでなまえはミシンを器用に使いながら松本さんの「M」を縫っている最中だ。
「なまえさ、マジでなんでも出来るよな。出来ないことある?ってくらい。」
『あるよ。たくさん。美化しすぎなんだよ。』
そう言ってため息を吐くなまえがやっぱり綺麗で俺にとっちゃ圧倒的ナンバーワンで。自慢じゃねーけどわりと女子生徒にモテたりTシャツプレゼントされたりするんだよ。ま、山王のバスケ部ってだけで注目度高い上に俺他のゴリラ達と比べて顔もいい方じゃん?
『栄治はいっつもそんなことばっかり言うけど。私そんなに超人じゃないよ。凡人。』
なまえはそう言ってミシンを使いながら笑っている。
入学早々なまえに惚れた俺はインターハイ予選が始まるか始まらないかの瀬戸際でなまえに告白したのだった。かれこれ一年前だ。
バスケで山王に入った上女子生徒からの人気も高く完全に浮かれていた俺は調子に乗って「好きなんだけど」とストレートに伝えた。あまり人を好きになったことがなかったから自分が結構勇気のあるタイプなんだな、って驚いたりもしたんだけど。不思議と自信があったし、なまえも俺のこと良く思ってくれてるだろうなって、どこからか謎の期待感があって。
ごめんね。部活忙しいし、誰かと付き合うつもりないから。
だからこそ、あっさり振られた時は衝撃的で度肝を抜かれたんだ。もちろん部活が忙しいのは俺も同じで、休みの日にデートをしたりとかそういう付き合いを望むわけではなかった。ただ俺がなまえを好きだということを知っていて欲しかったし、なまえも俺のことを好きでいてくれたらいいって、それだけでよかったのにそれすらも叶わなくて。
「なまえは凡人なんかじゃないよ。」
『スーパースターの栄治に言われてもなぁ。説得力がない。』
そう言って困ったように笑う。なまえに呆気なく振られた俺はしばらく立ち直れなかったけど、なまえは前述したとおりサッパリとした性格故、なにかを引きずるようなことはなく、次の日には「栄治、おはよう」と普段通り声をかけてくれたから今もこうして友達や仲間として隣に居させてくれる。
『よし、出来た。それ貸して。深津さんの名前縫うから。』
「はい。お願いします。」
俺が名前を縫う位置に印をつけたユニフォーム。なまえの手に渡りひとつひとつローマ字が縫われていく。
それでもいつかなんとか出来る気がして、自分なりに積極的に気持ちは伝えてるつもりだ。伝わっているかどうかはわからないけれど....生憎俺は諦めるつもりもないし、どんな形でもいいからいつかどこかでなまえと結ばれたいと思ってる。いや、結ばれるなら俺しか居ないだろう。絶対そうだ。俺しかいない。だって俺、山王のエースだから!
『....なに変な顔してんの。余計なこと考えてたな?』
「あれ、バレた?なんでもお見通しだなぁ....」
『栄治わかりやすいんだよ。』
みょうじなまえはモンスターだ。未だに攻略法のひとつもわからない、難攻不落の高嶺の花。時に冷たく時に小悪魔で容易に俺の胸を高鳴らせ、俺に期待させるようなことを言ってきたりする。
「じゃあ、俺がなまえのこと好きなのもバレてる?」
『....そんなのとっくにバレてるでしょ。』
告白してきたのそっちじゃん、と俺のことなんてノールックでミシンに語りかけるようになまえはそう言った。
「そうだった、そうだった。」
『なんなの。変な栄治。』
忘れられてはいなかったようだ。無かった扱いにされたと思っていた告白だったけれど、なまえの記憶には残っていたらしい。
『入学式の時からバレてるからね。』
「えっ?俺告ったのもっと後じゃん.....」
『あんなにガン見されたらわかるよ。』
....一目惚れすら見破られてたってか。何回でも言う。みょうじなまえはモンスターだ。攻略法のわからない、圧倒的すぎる高嶺の花にして、俺の大好きな女の子だ。
夢を見るなら君と一緒がいい(....好きって何回言ったら付き合ってくれる?)
(何回言っても付き合わない)
(....ちえっ)