08






夏は過ぎるのが早かったように思う。季節はすっかり秋になり、朝晩は少しだけ肌寒く感じる日も増えた。


流川くんとの席は相変わらず離れたままで会話もない。もはや私のことなど忘れてしまったのだろう。それでも、流川くんが久しぶりに学ランの上を着てきたー!と親衛隊が騒いだ時には私ももれなくテンションが上がったし、たまーに体育館へ部活を覗きにいっては「今日も素晴らしい」と心の中で拍手を送ったりしていた。


元々遠い存在。元に戻るだけだ。なんてことはない。そう言い聞かせて毎日を繰り返すうちにあっという間に学園祭の準備期間に入ってしまった。


「えぇ〜?!絶対に嫌だ却下!」
「いいじゃん!ウチには流川くんがいるからさ!それを全面に売り出したいの!」
「お願い水戸くん!協力して!」


水戸くんは隣の席から「助けてよなまえちゃん」なんてヘルプを出してくる。


『ホストクラブなんてなかなかやれるもんじゃないよ。不良のついでにやってみなって。』
「おい、なまえちゃん..........!!!!」


私の答えにクラスの女子たちはキャッキャ騒いで「決定ねー」と何処かへ消えていった。


「なまえちゃんマジで信じらんねぇ...!!なんで俺がホストなんか...!!」
『周り見てみなって。ホスト出来るの流川くんと水戸くんくらいだよ。クラスの為と思ってさ。』


所謂顔がいいんだよ、君は。
流川くんがいるだけで売り上げ優勝間違いなしだね、なんて騒いでたでしょう、みんな。でもひとりぼっちじゃさすがにかわいそうだから水戸くんも!ってなったんだよ、わかる?


「マジで嫌だ............!!」
『顔がいいから仕方ない。頑張ってね!』
「なまえちゃんはウェイトレスだからな!絶対!」


ホストクラブにウェイトレスいるかなぁ?

はいはい、と適当に返事をしていた私が後々フリフリの制服を着せられて本当にウェイトレスをやるなんていう地獄を見るのはもう少し先なのだけれど。


「流川くーん、お願い、こんな感じの服着てほしいんだけど!」
「.........断る」


あらっ。
遠くで女子たちがワーキャー騒いでいると思えば中心には飛び抜けて背が高い流川くんがいて。何を言われてもだるそうに首を横に振っていた。あらま、大変だわこりゃ。


「嫌だ。やらねー」
「でもでもでも!絶対優勝出来るから!」
「んなもん知らねー」


それでも女子は引き下がらない。
流川くんのチャラめな乱れたスーツの着こなし姿を想像するとやはり私もやってほしい、と思ってしまう。いや、これ女子ならみんな見たいよ。うん。


「んぁ〜流川がやんねーなら俺もやらなくて済むし。」
『いや、ダメだよ。本気で見たいもん。』
「えぇっ..........。」


結局攻防戦は長く続いたようで、終いには3年マネージャーの彩子さんが出てくる始末。結局有無を言わさずやることに決まり流川くんは盛大なため息を吐いたような。













『いや.......すごい、イケメン........』


私の本音に水戸くんは「マジ?」なんて笑った。なにその悪そうな感じ...リーゼント以外も似合うし、なんならそっちの方がいいかもしれないよ。前髪少し下ろしめでふわっとしてる.......よい。


学園祭当日、ホスト2人じゃ寂しいからと何故か突然ウェイトレスに着替えさせられたのは私以外に3人ほどいたと思う。


「なまえちゃんちょっと丈が短すぎねー?」
『私もそう思うけど......今更長くできないよ多分......』


水戸くんは「そうかぁ」なんて少しシュンとしている。何故。そんなに私の生脚が気持ち悪いのか。ったく。


流川くんの姿を探すもののちっとも見当たらなくて、さっきも遠くの方でとんでもない数の女子に囲まれていたから永遠と戻って来れないんだろう。お気の毒に.........と思えばドタドタドタ、と勢いよく走ってくる音が聞こえて、何事かと廊下を見やれば女子を振り切ってきたのか息が荒い流川くんが入ってきた。


『............うっ、..........!!』


思わずそんな声が出てしまった。

いやいやいや、荒い息に乱れた髪に第二までボタンを開けた黒いワイシャツに肩がずり落ちてるスーツにふわっと上げられた前髪が少しだけ崩れてて.......


な、なんという、、破壊力..........!!


いや、これもうこの流川楓だけで優勝もらえるんじゃないの?売り上げ関係ある?2年6組、優勝じゃない?


「流川大丈夫か?なんか飲む?」
「...水、女子振り切ってきた...」


水戸くんが慌てて近寄れば水を要求する流川くん。水、といえば前の頭痛薬のことを思い出してしまい頭が爆発しそうになった。うわ、もう.......


「すげぇ人気だな。こりゃ売り上げに期待しよう。」
「......もう疲れた」


流川くんはハァ、とため息をついている。水をゴクッと飲むその姿すら絵になる気がして目が離せない。周りを見れば女子だけじゃなく男子までもが流川くんに釘付けで。これはもう人間なら見てしまうよ、この人はそれほどかっこいいんだ。






校内放送が流れて、あと数分で学園祭がスタートするらしく慌てて最後の準備に入る。自分の持ち場へつこうと思ったその時、私は低い声で名前を呼ばれた。


「......みょうじ」


何故だか途端にドキッと肩が跳ね上がる。これ程までにいい声で私を名字で呼ぶ男子がいただろうか。


まさか、まさか、とは思いながらゆっくりと振り返る。


「みょうじ」
『は、はい.......!』


そこにはやっぱり流川くんがいて。二度目のそれに私は急いで返事をした。流川くんから名前を呼ばれるのなんて初めてだ。私の名字...ちゃんと知ってたんだ......。


「、飴くれ」
『.......えっ?!』


ぬっと差し出された手は開かれて、私の目の前に流川くんの掌がある。


『.......っ、えっと、.......?』
「リンゴの飴、みょうじのだろ」


それを聞いた瞬間、私はこの前自主練を頑張る流川くんに何かしてあげたいとリンゴの飴ちゃんをタオルの上に置いたことを思い出し瞬時に全身が熱くなった。な、なんでバレたんだろう...!!自分でしたことなのに凄く恥ずかしくて戸惑っていたら流川くんはチョイチョイと掌を動かした。


「早く」
『あっ.......』


急いで鞄に取りに行って、ひとつ、掌に乗せてあげれば満足そうに受け取ってくれた。


「ありがと、美味いなこれ」


ホストの格好した流川くん。今までの「サンキュ」が「ありがと」に変わった。美味いなったことはこの間も食べたんだ。私があげたとわかって、食べたんだ。







私はもうこの日を最後にしぬんだと思った。











流川くんはもう意味不明です


(...むり、無理無理無理!!!もう無理!!)






Modoru Susumu
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