B








「...なんでテメェがなまえとこんな時間まで一緒に居たんだよ?!あぁ?!まずこの状況を説明しろ!!」

「...海に一人でいるのを見つけて送ってきた。」

「海に...ひとりで....?!」


花道はそう言うとギロッとなまえを見る。目が合ったなまえは父親である花道のものすごい形相に一瞬たじろいだが隣にいる流川にギュッと手を握られピンと背筋を伸ばした。花道にはバレないよう二人は流川の背中で手を握り合い花道に立ち向かう。


「こんな暗い時間まで....海にひとり....なまえ....お前....!!」

「....どあほう、感謝しろ。」

「ぬっ....なんだ流川....!テメェには関係....っ、」


そう言いかけて花道は黙り込んだ。確かに...と思わずにいられなかったのだ。流川と共に帰ってきたこともひとりで海にいたこともとにかく気が狂うほど怒りが込み上げてくるのだが、海にひとりでいたなまえを連れて帰ってきてくれたのなら、それは流川に感謝するのが当然だと思ったからだ。


「....助かった。ウチの娘が世話になったな....。」

「....じゃ、代わりにひとつ。頼みがある。」


流川は交換条件のように花道にそう切り出す。「なんだ」と不機嫌そうな花道に対して流川は口を開くと同時になまえと繋いでいる手に力を込めた。


「....夢、応援してやれよ。」


受けさせてやれ、オーディション


流川はそう言うと後ろからパタパタと駆けてきた晴子に目を向けた。玄関先で娘と並んで立つ流川を見るなり晴子は「えっ?!」と声を上げる。心なしか頬が赤く染まっているではないか。


「る、流川くんっ?!どうして....うちに....?!」


晴子は驚きながらもなまえに目を向けて「帰ってきたのね」と声をかける。うん、と頷いたなまえの横で晴子をジッと見つめる流川。


「....ハルコさん、なまえが海にひとりでいたところをコイツ....じゃなかった、流川が見つけてウチまで送ってくれたらしいんすよ....。」

「えぇっ?!そうなの?!」


ジッと見つめられ多少照れながらも晴子は「娘がお世話になりました...」と流川に頭を下げた。


「....うす。」

『二人とも...っ!私、モデルになりたいの!どうしても....なりたいの....。絶対なる!だから....、』


なまえがそう言いかけた時、それに被さるようにして声が響いた。


「....ダメだ。」


花道だ。一言力強くそう言うと真剣な表情でなまえを見た。


「なまえ、芸能界なんてやめておけ。あんなところに夢を見るな。安定した職に就け。普通の暮らしが何よりも幸せなんだ。」


花道の言葉にはやけに説得力があった。何を隠そう自分自身がバスケット選手という怪我や成績不振が常に付き纏う安定しない職業に就いていた。運よく引退するまでの約二十年を第一線で活躍することができ、生活に困ることなく晴子となまえを養うことができたのだが....。それに付き合わせた晴子には、時には寿命が縮まるような思いをさせたこともあったし、彼女にはアメリカについて来てもらい、遠征などで外出しがちな自分に変わって常に家にいて子育てを中心にやってもらってばかりいた。自分と晴子は割と特殊な生活であった。なまえにはそうなってほしくない。大変な思いをして、何度も甘くない現実を見て、人生に疲れるような思いはさせたくはない。


普通の、普通の幸せを、掴んでほしい。


『.....だったら、もうここには帰らない。』


しかしそんな花道の思いは、まだ17歳のなまえには伝わらなかった。自分の願いを受け入れてくれない、なまえが受け止めたのはただそれだけであった。


「....なまえ、何言ってんだ。いいからとりあえず部屋に入って....」


彼女に手を伸ばした花道だったがその手は宙を舞う。なまえをサッと自分の背中に隠したのは隣に立っていた流川であった。


「流川、貴様.....!」

「預かる。」

「....は?!」

「俺んとこで預かる。じゃあな。」


流川はそう言うとなまえの手を引いて桜木家の玄関を開けた。出て行こうとする二人を花道は慌てて追う。


「待ちやがれ!!人の娘に何しやがる.....!!」

「....どあほう、」


流川はそう言うとジロッと桜木を睨んだ。


「....自分の理想を押し付けんのが親なら....、俺はそんなもんなりたくねー。」

「なっ.......?!」

「テメェだって散々....好きなことしてきたんじゃねーのか。」


怯んだ桜木を置いて流川は強引になまえを助手席に乗せると車を発進させた。


「流川くん!なまえ...!」

「....ハルコさん....すみません....こんなことになって....」


残された花道は晴子に謝り続けた。幸い流川のマンションの場所は知っているから、そこにいると思えばまだなんとか安心できる....けれども、いくら歳が離れてるとはいえ、自分の知ってる流川とはいえ、年頃の娘が「男」と二人でいるだなんて、そんな現実受け入れられない花道であった。








親の心、子知らず


(流川くんなら大丈夫よう!任せましょう...)
(そのうち帰ってくるわよう!そんな落ち込まないで?)
(.....ハルコさん............)











Modoru Susumu
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