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『深津さ〜ん、堂本監督からで〜す。』


山王工業高校の休み時間。三年六組の一番前の席で名前を呼ばれた深津一成は自分を呼んだ人物を睨みつけた。


「だから.....それは俺じゃなくて野辺の仕事だピョン。」

『そんなの私だってわかってますよ。もう。』


そう言って廊下を指さした二年マネージャーのみょうじなまえについていくようにして深津は席を立つなり廊下へと出た。


「大丈夫か、野辺!気をしっかり持て!」

「ダメだ、松本....鼻血が止まらん....。」

「野辺!いい加減みょうじに慣れろ!そのうち出血多量で死ぬぞ!」


廊下のど真ん中で繰り広げられる鼻血を出してクラクラする野辺とそんな彼を必死で支える松本。廊下を通る誰しもが変な目で見ている安定のいつもの出来事に深津は「使えないにも程があるピョン」と言い捨てた。


「みょうじ、お前が悪いピョン。そんな顔で生まれてくるからだピョン。」

『うわぁ、ひどいや.....。私は何もしてないっていうのに.....。』


山王工業男子バスケ部マネージャー、二年のみょうじなまえは沢北曰く「間違いなく東北1の美女」であり、野辺曰く「目が合った途端脳がクラッシュしてあまりの眩しさに鼻血が止まらない」らしく、深津曰く「綺麗に生まれすぎるのも周りに害を与えるピョン」とのことだ。


つまり彼女は「美人」であり、その美貌が何故だか仇となり、本来なら副キャプテンの野辺の担当である仕事をお願いしようと三年の教室に来るたびに野辺に鼻血を出させてしまい、使い物にならない野辺の代わりに仕事が回ってきた深津に「お前は綺麗すぎるのがダメなんだピョン」と怒られるのがいつもの流れなのだった。


『ほんっと使えない...。今日なんか何も話してないですよ?野辺さんの「の」の字も出してないってのに、チラッと目が合っただけであーだもん。』


そう言ってなまえは廊下でティッシュを鼻に詰め替えている野辺に視線をやる。その視線に気付いた松本が途端に慌てて野辺の目を手で覆った。


「見るな!野辺!あそこに奴がいる!」

『奴って....どんな扱いだよ!』

「やめろみょうじ!こっち見るな!野辺を殺すつもりか!」


鼻にティッシュを詰めこんだ野辺を自分の手で目隠ししながら「深津!みょうじを連れてけ!」だなんて廊下のど真ん中で叫ぶ松本。相変わらずうるさい松本のせいで隣のクラスからは「またやってんの...」だなんて迷惑そうな顔をした一之倉が出てきた。


『イチノさん...あのトーテムポールなんとかしてください。』

「俺には無理だね。みょうじが可愛すぎるのが悪いんだって、それしか言わないもん、ポール。」


やれやれ、とため息を吐いた一之倉に続きなまえも「ハァ」とため息を吐く。相変わらず「早く二年の教室に戻れ!」とうるさい松本はなまえを野辺に見せまいと目隠しをし続けているし、見てもないっていうのに野辺の鼻につまったティッシュはどんどん赤く染まっていく。本当に出血多量だ。


『血、出過ぎでしょ....。深津さん頼みましたよ。堂本監督から今日中にって言われてますからね。』

「俺の仕事を増やすなピョン......。」


心底嫌そうな顔をした深津に「それじゃ、また部活で。」と挨拶をしたなまえはその場を去ろうとするなり立ち止まる。遠くからドドドド.....とかなり大きな足音が聞こえ次第に近付いてくる。その音の主を察したなまえは「またうるさいのが来た...」と呟いて肩をガックリと落とした。


『はぁ....どこから湧いてくるんだろう。』


なまえが呟いた言葉の意味を瞬時に理解した深津と一之倉は「確かに...」と声をそろえる。途端に「なまえー!」とそれはそれは大きな叫び声が聞こえ廊下の端からこちらへと駆け寄ってくる人物がいるではないか。


「なまえー!お前また野辺さん出血させたのかー!」

『人聞き悪いこと言うなっての....。』


今日も相変わらず元気モリモリな声の主、沢北栄治は到着するなり「野辺さんに迷惑かけんなよー戻るぞー」となまえの腕を引っ張って来た道を戻って行く。


「来たな、なまえ回収。」

「.....本当に騒がしいピョン。」


足早に去っていくなまえと沢北の後ろ姿を見て一之倉と深津はそう呟くとため息をついてからそれぞれの教室へと戻っていった。


「野辺、みょうじはもういない。いい加減その鼻血を止めろ!」

「無理だ....あの眩しすぎる綺麗な顔が....脳裏に焼きついている....。」

「野辺!思い出すな!」













相変わらずハードな練習に加え、さらに自主練まで終えた山王バスケ部の部員たちは片付けに励んでいた。フロアにモップをかけ、ボールを磨き、体育館の戸締りも行う。疲れ果ててクタクタなはずなのに部員たちはやけにいきいきとしており、その視線の先にはドリンクや諸道具の片付けに勤しむなまえがいた。


「いやぁ〜、疲れた後のなまえってマジでエネルギーチャージだよなぁ。」


全部員を代表するかのような発言をしたのは沢北で、なまえの目の前に立つなりその綺麗な顔をジッと見つめ「可愛いなぁ、本当に」とデレデレした顔を見せる。部員と同じとはいかないが、それでもこんな遅くまでマネージャー業をひとりでこなしたなまえは心底疲れており、自分の目の前に立ちはだかる沢北をギロッと睨むと「邪魔だよ。どいて。」と冷たく言い放った。


「なんだよー、冷たいなぁー。でも、そんなとこも可愛いんだよなぁ、なまえは。」


冷たくあしらわれてもめげない沢北は「本当に宇宙レベルで可愛いわ」ともはや意味不明なことを言い出す始末。不意に野辺と目が合うとたとえ練習中でも鼻血を出させてしまうなまえは基本部活中はあまり部員と目を合わせないよう心がけているため、ドリンクを洗いに水道へ行く際もなるべく下を向いて歩く。


『....うわっ、と.....。すみません......。』


なのでこうして誰かとぶつかるのなんて日常茶飯事である。とりあえず謝れば目の前からは「怪我なかったか?悪かったピョン」と聞こえてきた。


ぶつかったのが深津だとわかり、いくら仲の良い先輩とはいえ、今日も大変な練習をこなしたキャプテンにぶつかるだなんて申し訳ないと礼儀を兼ね備えたなまえがもう一度謝ろうとすれば、深津はそれを遮るようにしてなまえが腕いっぱいに抱えたドリンクを強引に奪い取っていった。


『あ、あぁ....っ。深津さん.....!』

「洗い物くらい俺もできるピョン。」


そう言って水道で勝手に洗い始める深津に「大丈夫です、私がやります」となまえが口にすれば、深津はそれを断り「たまには頼れピョン」と言った。


「マネージャーはひとりだけどみょうじはひとりじゃないピョン。」


サラッと言ってのけた深津になまえはフリーズした。そしてじわじわと今のセリフを頭の中で復唱する。


かっこいい.....なんとかっこいいんだうちのキャプテンは.....。なまえは震えた。やっぱりこの人すごいな、なんて、疲れも吹っ飛ぶほど深津一成を見つめ続けた。そして口を開く。


『かっこいい.......結婚してください。』


それはなまえにとって最大級の褒め言葉でありそれを知っている深津は「仕方ねーからもらってやるピョン」なんて面倒くさそうに返事をした。深津の返事に満足気に鼻歌を歌い始めるなまえ。終始こっそり見守っていた一之倉と沢北。耐えられなくなった沢北が「なに今の!なまえ!変なこと言うな!なにが結婚だ!」と騒げば、洗い物途中だった深津は顔を上げないままほんの少しだけニッと口角をあげたのだった。













僕らのお姫様は東北1の美人で、ほんの少しだけ深津推しなのです


(結婚は俺としなよ!ね?なまえ!)
(えぇ〜、エイジうるさいからなぁ)
(毎日ピョンピョン言われたら頭おかしくなっちゃうよ?)
(じゃあ言わせなくするから平気。)
(言わせなくするって....男前....ますます好き!なまえ!)
(エイジ本当にうるさい。そういうとこ。)





始まった〜〜☆美人マネージャーシリーズ第二弾!山王の美人マネシリーズは人気が高くて「続き読みたいです」という声も多かったのでカムバックしました〜〜!







Modoru Susumu
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