■ A






リハビリ中の花道以外スタメンの4人で国体に選ばれたことは非常にありがたかった。大学で推薦を狙う俺にとって貴重な見せ場が増えたわけだ。しっかしまぁ、神奈川!なんて全面に書かれてるとなんかもう少しかっこよくならなかったのかよと思ってしまうユニフォームだが、まぁそこはいいとする。

「あれ?山王のマネージャーじゃないすか?」
「お?...あ、ホントだ」

隣を歩く宮城の声に振り向けば秋田!と書かれたジャージを着て1人で忙しそうに歩いているなまえがいた。今年の夏に会って以来のその姿は相変わらず誰もが振り向く美人で俺はふと思い出したわけだ。

確かこの美人マネージャー、山王の一之倉に惚れてたような...

一之倉といえば今年の夏、すっぽんディフェンスとやらに苦しめられた。マンツーでつかれたのは紛れもないこの俺だ。アイツはしぶとくて持久力、忍耐力のある男だった。ちぇっ、思い出すだけで寒気がするぜ...

「よぉ山王のマネージャー」
『...(ビクッ!)』

近寄って声をかければあからさまに動揺し始めてついには俺と目を合わせたままふるふる震え出した。なんだよ?どうしたんだ?

『しょっ、湘北...!』
「んだよそんな...おい、大丈夫かよ?!」

ぶるぶるしながら宮城と俺を交互に見てその後突然目に涙をためたから俺たちは2人して驚いたわけだ。なにっ?!なんで泣くんだよオイ?!

「どっ、どうしたんすかなまえさん...?」
『...ごっごめんね...あのね...大変だったの...』
「なにがっすか?!」
『湘北に負けた後...私達すごく大変だったの...』

大粒の涙をこぼしながらポツリポツリ話し始めた。

“王者山王は絶対的な存在だったから負けることなんて許されないのに、まだまだ若い無名のチームに負けた。選手の気持ちなんて考えてもらえなくて周りは好き放題言ってくるから秋田に戻ってから散々な目にあったの...“

『もうあんな日々に戻りたくないよ...』
「そうだったんすか...何か申し訳ないっす...」
『謝らないで勝負だもん。でも今思い出しちゃって...』

あぁぁ...ってまたボロボロ泣き出したから宮城は慌てながらなまえの背中をさすっている。なんだよそれ俺もやりたかった...

「...ウチのマネージャーを泣かせたピョン」

そんな時後ろから聞いたこともないような低い声が聞こえてきた。しかしそんな威圧感に似つかわしくない語尾も聞こえて一瞬で誰かわかったわけだ。

「ゲッ...ピョン吉!」
「湘北の宮城...誰がピョン吉だピョン」
「おい深津、これは誤解だ!」

今にも食ってかかりそうな勢いの深津に俺が必死に説得したけれどそんな努力もむなしく宮城は一発肩を殴られて悶絶していた。その後泣きじゃくって言葉にならない声を発しているなまえの頭をそっと撫でる深津。

「...何で泣いてるピョン」
『...思い出したの、負けた時のこと』
「もう忘れろピョン、2度と負けないピョン」

国体は秋田が優勝するピョン
ジロッと睨まれてそう言う深津に俺は思わず後ずさりしそうになった。なんだよこの圧は...!相変わらず悶絶中の宮城は肩をさすりながらグッと目をつぶっている...よっぽど痛かったんだな...

「なまえ、イチノが来たピョン」
「...おいなまえどうしたんだよ?!」
『イチノ私は大丈夫だよ、行こう?』

遠くから駆け寄ってきた噂の一之倉が泣いてるなまえを見てギョッとしたわけだがすぐさま笑顔を見せて一之倉を引っ張って去って行った。...結局話せなかったどころか無駄に泣かせちまったし...ハァ。

「イチノがずっと自分を責めていたピョン」
「一之倉が?」
「三井を抑えられなかった自分のせいだって泣いてたピョン」

そんなイチノをなまえはずっと見てたピョン

その後深津からなまえの気持ちが落ち着くまで会っても話しかけないでやってほしいとのお願いをされた。なんだよそれ...まるで悪者じゃねぇかよ。でもきっと俺らが想像している何倍も、王者で居続けるのは大変なんだと思った。プレッシャーや期待に必ず応えなきゃいけないってのはどんなもんなんだろうか?勝っても喜ばれないなんてそんなことあるのだろうか?凡人な俺には到底理解できなかった。





つーか相変わらずイチノにゾッコンかよ

(...ピョン吉の野郎馬鹿力で殴りやがって!)
(大丈夫かよ宮城...)
(これで試合出れなかったらどうしてくれんだよ!)
(いやお前ベンチじゃね?)
(...エッ)








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