■ 諸星





「じゃあタピオカは?流行りだろ」
『先輩マジで帰ってください...』

休み時間1年の教室に顔を覗かせるのなんてとうの昔から俺の日課になっていた。また来たのかなんて顔されてもちっとも気にならない。別にいいだろそんな顔されたって可愛いとしか思えないしなんつったって会えるだけで幸せなんだからよ。

「あーパンケーキにしよう放課後迎え来るからな」
『行かないですってば!』
「教室で待ってろよ!」

大きな声で否定されたけど無視無視。以前こうやって強引に約束したら律儀に教室で待っててくれたからな。この手が1番だ。ま、結局そん時もデートはしてくれなかったけど帰り家まで送り届けることには成功したわけだ。

愛知の星なんて騒がれてるけど実際俺は普通の男子高校生だ。バスケは得意な方だけどそれ以外これといって取り柄もない。モテはするけど好きだと思える女じゃないと付き合おうと思わない。

(ぬぁっ?!なんだあの子は...!)

だから今年の入学式、新入生として入ってきたなまえを見て俺は一瞬で恋に落ちたのだ。好きだ可愛い触れたい...女を見て一目でこんなに好きだと思ったことはない。なんなんだ...何者なんだ!バスケしかしてこなかった俺にとってなまえという存在は衝撃でしかなかった。

押してダメなら引くとかなんかもうよくわからん。恋なんてしたことないからな、とにかく俺は先手必勝!グイグイ押しに押してそれでダメでも諦めない。実際しっかりと告白したことはないもののなんだかんだウザがられている。でもその程度だ。何も問題ねぇよ。

**

放課後になりさっさと引退したバスケ部には顔出さず一目散に1年の教室へと向かった。ホームルームが終わって帰る奴らもいる中でしっかり自分の席に座って俺を待っている。...グッと来るなぁこの光景は!!

「いい子で待ってたか〜」
『あ、先輩、私...帰りますね』
「あ?おいどうしたんだよ?!」

いえ大丈夫ですすみませんなんて早口で言われてさっさと教室を出て行ったなまえ。いつもならギャンギャン噛み付いてくるのに静かに呟いて出て行ったけど...なんか様子おかしいよな?!

「おい待てよ、どうしんだよ?!」
『...先輩、私病院へ行かないといけなくて』
「病院?!どっか悪いのかよ?」
『母が倒れたんです』

...?!?!

「ハァ?!そんな大事な用事あんのに俺のこと待ってたのかよ?」
『...先輩私が帰ってたら心配するかと思って』
「バカなのかよ!早く来い!」

ったく何なんだよお前は変に律儀なとこあんだからよ!文句が止まらない俺は強引になまえをチャリの後ろに乗せると病院へ向かった。まったく...さっさと学校なんて早退して行けよ、俺のことなんてどうでもいいだろうが...!

『お母さん!大丈夫!?』

病室の前で待ってるからと伝えればなまえは青白い顔で母親の元へ駆けて行った。中から大丈夫だよ来てくれたのねなんて柔らかい声が聞こえてひとまず安心した。よかった、命に別状はねぇんだな...

チャリに乗ってる間も必要最低限何も話してくれないから母親の病状とかも教えてくれないし何だよもしかしたらもう手遅れか?!なんてハンドルを握る手に力が入ったりした。ふぅ、焦った。

1人でぐるぐる考えを巡らせていれば不意に病室からなまえが出てきてあれ、早いなもう帰るのかとその場を立ったら突然腕を掴まれた。

「えっ?なんだよ...?」
『来てください』
「はっ?!」

そのままずりずり引きずられて気がつけばなまえに超そっくりな美人が目の前で俺を見つめていた。うわっ?!そっくり...!

「あ、はじめまして愛和学院3年の諸星です...」
「なまえのことここまで乗せてきてくれたんだってね?」

ありがとうね、なんて微笑まれて俺はどうしていいかわからずコクンと頷いた。なんだよ好きな相手の親に会うなんて意味わからんくらい緊張すんだな...手汗が止まらん...

「愛知の星でしょう?知ってるわよ」
「えっ...あ、ありがとうございます...」
「いい男の子と出会えたのねぇなまえ」

そう言ってなまえを見る母親につられて俺も隣を見ればなまえは目を丸くして母親を見つめ返していた。

『お母さんなにか勘違いしてない?』
「してないわよ諸星くんこれからもなまえを頼むわね」
「えっ...?!」
『ほらやっぱり勘違いしてる』

別にそういうんじゃないって一生懸命説明するなまえの言葉を無視してなまえの母さんは俺の手を優しく握るとふつつかな娘ですが、なんてまるでドラマのようなセリフを言ってきたわけである。

「これからもよろしくお願いしますね」
「...は、ハイッ!」

...いい、なんといい気分だ!!これはとても良いぞ。いい勘違いだ!勝手になまえを頼まれて婿にでもなった気分の俺にドカッと足蹴りを決めてくるなまえだったが痛くも痒くもねぇ!!

『ちょっと!調子に乗らないで!』
「何が?別に?乗ってないけど?」
『何鼻の下伸ばしてるんですか先輩...!』


**


「迎えに来たぞーなまえー」
『...ハァ』

それ以来何故か俺が彼氏なんだという噂が広まりついに付き合いだしたんだと学校中の注目の的となった。放課後迎えに行けばため息をつくなまえの周りで彼氏が来たぞーなんて声が聞こえてくる。いいぞ、もっと言え!

「帰るぞ」
『もう!いい気にならないで!』
「はいはい、わかりましたー」

ベッと舌を出せばフンッと鼻を鳴らされた。でもなんだかんだ毎日一緒に帰ってくれるところがありがたいけど。タピオカもパンケーキも行ってくれないけど充分だ。

『...あぁ、そうだ、これ』
「ん?何だこれ?」
『誕生日だったでしょ、おめでとう』

雑に渡された包み。俺は一瞬で胸がときめいた。やっば!何?やっぱり俺のこと好きなの?!えぇ?!嬉しいんだけど...

「マジで?ヤバ...サンキュ」
『...いつも恥ずかしくて伝えられてないけど、本当は感謝してます』
「...え?」
『病院連れてってくれたことも...いつも隣にいてくれることも...』

なっ?!?!

『...これからもよろしくお願いします』




ついに正真正銘の彼氏になりました!

(告白ってことでいいんだよな?)
(まぁ、そんな感じで...ハイ)
(...おおおおっしゃぁぁあああ!)
(ちょっと!ここ外!抱きしめないでっ!)



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