■ 三井
可愛いなとは思っていた。1年の時からその容姿が注目の的になっていたし実際俺も美人だと思ってたし、でもまさか3年になってこんなに彼女に惹かれることになるとは思ってもいなかった。
バスケ部に復帰してから同じクラスにみょうじがいることを知って胸が高鳴った。しかも俺の記憶に残っている1年の頃よりこれまた随分と美人に磨きがかかってるじゃねぇかよ。
相変わらず湘北のマドンナ的存在で俺にとっちゃ高嶺の花だが勝手に想っている分には許されるだろうと思っていたわけだ。
インターハイが終わり推薦欲しさに部に残った俺だが大学に行くにしても学力が足りなさすぎて話にならなかった。こんなとこでもブランクを感じて情けねぇ...練習が早く終わった為家で勉強でもしようと教室へ参考書を取りに行った時だった。
「...おっ?!ビックリした...」
『あれ...三井くん?』
だよね?って念を押されて頷けば良かった合ってたなんて安心した声が聞こえてきた。なんでここにみょうじがいるんだよ...外は薄暗くなってるってのに教室に1人残って勉強かよ、立派だななんて思いながらぼうっとその場に立ってたらどうしたの?なんて質問された。
「あぁ、忘れ物を...」
『そっか、部活お疲れ様』
すぐ出て行くと思われたらしくフリフリ手を振られた。俺はその時こんなチャンスはこの先2度と来ないんじゃないかという謎の焦りに支配され拳をグッと握りしめたわけだ。男、三井。今だ!
「なっなぁ、あのよ...みょうじ...」
『うん?どうしたの?』
「べっ勉強、教えてくんねぇかなぁ...」
キョトンとしたまん丸い目に見つめられて俺は全身が燃え上がるほど熱くなった。その後みょうじは俺の手に握られた参考書を一瞬見てやる気があると判断したのかうん、いいよと微笑んだ。...グッ、可愛いなおい...
「サンキュ」
『いいよいいよ!ここおいで』
トントンと隣の席を叩かれて少し躊躇いながらも座ればふわっといい匂いが鼻をかすめていよいよ俺は蒸発してしまいそうになった。うっ、女子特有のいい香り...!
『どれどれ、あーこれはね...』
丁寧に問題を解説してくれるみょうじを見つめながら俺はぼうっと頬杖をついていた。無理だ、集中できねぇよ...
『そういえば三井くんは大学進学するの?』
「あぁ、今のところそんな感じ...」
『そっか、バスケットで?』
「あぁ、まぁ...」
そっか、すごいねぇなんて褒められて悪い気はしない。私もバスケ好きなんだよねって言われてガッと顔を上げれば夏の予選も見に行ったよと微笑まれた。クソ、可愛い奴め...つーかそんなん先に言ってくれよ...!!
「バスケやってた...とか?」
『ううん、前ね付き合ってた人がバスケ部で...アッ』
余計なこと言っちゃいました...って顔を赤く染められて俺はきっと対称的に青白い顔をしていただろう。その一言で一気に胸がグッと苦しくなる感覚に陥った。ヤベェ...痛ぇな...
「へぇ...神奈川の奴?」
『うん...三井くんも知ってると思うよ』
「どこの高校だよ?」
『海南大附属の...神くんってわかる?』
なっ...?!よりによって神かよマジかぁ...
あぁ、なんて頷けばこの間まで付き合ってたんだけどねぇなんて悲しそうに笑うもんだから俺の胸の痛みはいよいよ最高地点に達しそうだ。
「よく見に行ってたのか?」
『うん、それでスリーポイントとかすごい好きでさぁ』
三井くんのスリー見てかっこいいなぁって思ってたよって微笑むからおいおい勘弁してくれよと思ったわけである。そんな風に笑いかけるなよ、まぁでも別れたってことだもんな?別に何も問題にないってわけだ。
「冬も見に来い、今度は湘北だけ見てろ」
『...あぁ、うん...』
「ついでに湘北の中でも俺だけ見てほしい」
最後の方は少しどもっちまったけどなかなか勇気を出して言った方だ。やるじゃん俺、意外と度胸あるかも...なんて思って蒸発しそうな頭でチラッとみょうじを見やれば少し顔を赤くしながら俯いていた。コクッと頭が下に動いて俺はホッと肩を下ろした。よかった、断られるかと...
『あ...勉強、続けようか』
「あぁ、頼むよ」
先程よりもどこかぎこちない表情で問題を解説し始めたみょうじに俺は少し嬉しさを感じていた。少しでもいいから俺を気にしてくれたらそれでいい。スリーポイントは誰よりも得意だから、バスケに関してはみょうじを落とす自信もあるっちゃある。あとは少しでも冬までに距離を縮めて...根拠のないどことなく湧き出る自信に勇気付けられて俺は小さくガッツポーズを決めたのだ。
君を手に入れるまでのカウントダウン
(みっ、三井くん!聞いてるの?)
(あぁみょうじの声はスッと入ってくる)
(...それはどうも)
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