■ 藤真





「うわぁ...本気で潰してやりたい...」
「やめておけ藤真、冗談に聞こえん」
「ま、数秒だったから許してやるか」

中庭で中の上くらいの男子に告白されてものの数秒でその場を立ち去った翔陽のシンデレラことみょうじなまえ。その様子をジトッと影から見つめるのが翔陽の王子様ことこの藤真だ。

たった数秒であってもみょうじを独り占めするなんて許せないらしいこの藤真はブツブツ潰すだの物騒なことを呟いて様子を見守っていたわけだ。さっさと自分も気持ち伝えたらいいのにそれは出来ないらしい。王子がフられるなんてあってはならないだろとかなんとかほざいてた。

「花形、みょうじはどんな奴がタイプなんだろうな」
「まぁ見た感じそこらの男じゃ無理だろうな」

だよなぁって納得してる藤真だけど自分のことを俺がさす”そこらの男”に部類されてると思ってるのだろうか?逆に言いたいけど藤真がダメなら全世界の男がダメなんじゃないか?もはやそんな気もするけど...

「伝えてみればいいのに」
「フられたら立ち直れねーもん」
「でも案外いい返事が来るかもしれん」

みょうじはふわふわっとしている見た目に反して中身は意外とサバサバしているらしい。今の告白だってほんの数秒でバッサリ切ってたし”ごめん”と3文字呟いただけだった。なるほどなんと潔い男前の性格なんだ...

「だって興味ないらしいぜ俺のことなんか」
「ハ?どこ情報だよそれ」
「高野が本人に聞いたって」

いや、それ高野がでっち上げた嘘なんじゃないか...?そもそも高野が藤真ならどう?とか聞いたってことか?あのみょうじに?...まぁアイツならやりかねないけどその結果を藤真に報告したのか、興味ないって答えたって?もうどこからつっこめばいいのやら。

「本人に直接聞いてみないとわからん」
「いやぁ、無駄に傷つきたくねーよ俺」

なんだかんだ藤真は1年の頃からみょうじに惚れていた。もう丸2年以上経ったのか?長い片想いだな...ったく。翔陽の王子とシンデレラなんて呼ばれる者同士でなにかとセットで扱われることが多いように思えるんだがそこの交流はないらしい。藤真はいっそのこと周りで俺らをくっつけてくれなんて無茶なお願いをしてきたが丁寧にお断りした。なぜ俺らが囃し立てて2人をくっつけようとしなきゃいけないんだ。

「王子と姫は結ばれるんじゃねーのかよ」
「必ずしもハッピーエンドとは限らない」
「つまんねー童話になっちまうぜ」

ケッと言いながら教室へ戻る途中、藤真は隣で”あ...”と声を出した。

「どうした?」
「...見ろよ、電話してる」

コソッと俺に耳打ちしてきたからなんだと思って藤真と同じ方へ目を向ければ廊下の隅の死角になっている部分で携帯電話片手に楽しそうに話すみょうじの姿があった。随分笑顔で話すんだな...見たことないぞあんな顔。

「誰と話してんだよ...」
「おい藤真、バレるぞ」
「平気だよ」

ソソッとバレないように近付いてすぐ近くで聞き耳をたてる俺たち。いけないことだとわかってはいるがあんな顔して電話するなんて...どんどん悪い方へと想像は膨らんでいって...

『わかってるよ、うん、はいはい』
「...随分楽しそうだな」
「もしかして、彼氏か...?」

コソコソッと話していると藤真は随分と悲しそうな顔をしていた。そりゃこれで彼氏がいたとなれば大ショックだろうな。

『うん、今日もバスケ頑張ってね、うん、待ってるから』

...バ、バスケ?!
その言葉に俺らは目を合わせて驚いたわけだ。なに?!もしやバスケ部の彼氏か?!

『うん、それじゃあね、またね寿くん』












「三井寿はいるか」
「?!は?!翔陽の藤真?!」

その日の放課後、俺らは湘北へとやってきた。ずかずか体育館へ踏み入ると練習開始前の準備中である三井寿を見つけ藤真は容赦なく近付いていったわけだ。

「なっ、なんだよ突然!」
「お前の彼女はみょうじなまえか?」
「ハァッ?!何だよ意味わかんねぇ...」
「聞いてんだよ答えろ、付き合ってんのかよ!」

胸倉つかんでそう問いかける藤真に三井は観念したのかアァ、と呟いた。

「そうだけど、それが何か?」
「...嘘だろぉぉお...やっぱりお前だったのか...」

さっきまでの勢いは何処へやら、その場にペタンと座り込んだ藤真に三井はギョッとしていた。あぁ、告白する前にフられるなんてしょうがない男だ藤真め。

「んだよ、お前なまえのこと好きなのか?」
「うるせーな彼氏ヅラすんなよ体力ないくせに」
「はあぁ?!お前王子とか言われてるくせにマジで全然王子じゃねぇよな!」

女は騙されてんだよ!なんて叫ばれて藤真はキッと三井を睨み返したがなにも言い返せないのか泣きそうな顔で体育館を出て行った。

「...お騒がせしてすまなかった」
「いいけどよ、アイツなまえにマジなのかよ?」
「あぁ、でもいいんだ、ちっとも脈なしだったから」

そりゃそうだ。三井と付き合ってるのなら脈があっては困るんだから。トボトボ悲しさが溢れてる藤真の背中に駆け寄るとどんよりとした空気に包まれた。あぁ、ドンマイ藤真。お前なら大丈夫だ、きっとな。




王子と姫が必ずしも結ばれるとは限らない

(ああいう少し悪い感じがモテるのかな)
(藤真、変な気起こすなよ)





[ prev / next ]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -