理不尽なお巡りさん
「お姉さん、大丈夫です?」
『あ、すみません……』
ぶつぶつ独り言を言いながら歩くなんて側から見たら変な人だろう。声をかけられ冷静になって我に返ると目の前にはシワひとつない制服を着たお巡りさん。
「なにか探し物?」
『あ、はい…指輪、落としたみたいで…』
そんなちっさいもの見つかるかよって私なら思うけど。でもお巡りさんはニッコリ笑って、それなら見つけなきゃと下を向いて辺りを歩いてくれる。よく見ればなかなかの顔の整い方、そしてかなりの長身。
「……あ、あったよ!」
『あ!それです!』
すごい、一瞬で見つけた…
なんといっていいかわからないほどのお礼を言い続ける私に変わらず笑顔を向けてくれるお巡りさん。あぁ、なんていい人に出会えたんだ。よかったぁ…
『本当にありがとうございました!』
「いいよいいよ、見つかってよかった。」
『助かりました。あの……お仕事、頑張ってください!』
「はい。ありがとう。」
『…それでは、失礼します…!』
ここら辺の交番勤務ならいつかお礼でも持って伺いたい所だけど。お巡りさんってそういうの受け取らないのかな?
ぼやぼや考えながら歩き出す私の背中に先ほどの優しい声がかけられた。
「…ねぇ、お姉さん。」
『…え、あ、はい?』
「その指輪、彼氏とお揃いとか?」
ん……?
一瞬、そんなこと聞いて何になるんだとかそんなことまで答えなきゃいけないのかとか思ってしまった私は恩人に対して超無礼な女なのだろうか。それとも…正論?
『違いますけど…』
「じゃあ、なんの指輪?」
『自分で買った指輪です。』
かといって見栄を張る気にもなれず。懐かしの初任給で自分の為に買った初めてのブランドのアクセサリーがこれです。嘘はつきません。
「そっか、じゃあさ…」
『……えっ、?!?』
「逮捕するね。」
じゃら、と見せられたのが手錠で。その手錠を持ってニッコリ微笑むのがお巡りさんで。驚いて後ずさりをするのが私で。
『な、なぜで、しょうか…?!』
「お姉さんを窃盗罪で逮捕します。」
『?!窃盗…いや、ちゃんと買いましたけど!』
「いいえ、俺の心を盗みました。」
署まで連行します!
(ちょっと!お巡りさん!)
(すっごくタイプです、お姉さん)