ありのままに、 | ナノ




06



「昨日の約束、忘れたわけじゃないよなっ!」

「約束…?」


俺と立花の間に、何か約束したことなんてあったか?
いくらこいつ相手でも何か約束したのであれば、それは守らなきゃいけない。
逆を言えば守れない約束は絶対に口にしないのが俺のモットーでもある。
何を約束したのか思い出せず、首を傾げるとそれを見た立花が大きな声でその"約束"内容を教えてくれた。


「なんだよ、今日の昼一緒に昼飯食べるっていっただろ!?」


は…?
待て待て、それがお前の言う約束なのか?
確かに昨日、そんなようなこと言われたような気もするが、俺は絶対に頷いていないはず
それを勝手に約束扱いされても、ハッキリ言って困るし、ウザい。


「俺、別に約束した覚えはないんだけど…」

「な!?俺が食べようなって言ったら笑ってくれただろ!?」


あれは苦笑いだ。勘違いすんなっての。
だがここで追い払っても毎日こう詰め寄られても困るよな…
もうそろそろここで1回嫌々でも一緒に食べて、当分逃げ切るってのも…いいかも。
というかもうそれしかないよな。


「…わかった」

「朔夜!?」


信じられないとばかりに椎名に名前を呼ばれた。
だがしょうがないだろ?ここでムカつくが1回折れておくことで次回からの平穏が得られるんだ。


「ただし、今回だけだ。今回だけ俺が折れる。2回目はないから、そのつもりで」

「そんなのってありかよ!なんで1回だけ…っ」

「俺、基本的に大人数って嫌いなんだ。だからせっかくだけど…ごめんね」


だいたい何でお前は俺にそんなに執着する?
ただ話しかけられた最初の生徒ってだけじゃないはずだ。
自分を好いてくれてるとハッキリ分かる倉持や生徒会の連中でも十分のはず。
なぜ"距離を置かれている"と分かる俺に、構う?
…まさか、それすら気づいていないのか?


「……立花だけズルい。俺だって朔夜と昼飯なんて数える程しかないのに」

「…そういえばそうだな」


すっかりむくれてしまった椎名の顔を見て頷く。
夜は同室で自炊派の俺達は自分たちの部屋で食べているから気にしたことなかったが、そう言われればそうだ。
俺が言ったことは殆どが事実。
昼は一人で屋上の隅っこで食べるのが俺の基本スタイルだ。
それなりに仲がいい椎名にだってそのスタイルは崩させない。
…昼飯ぐらい好きにしたっていいだろ?別に


「つーわけで俺も朔夜と食べる」

「はぁ?」

「食べるったら食べる」

「あのなぁ…」


これ以上煩そうな奴が増えたら俺の胃に穴が空く……いや、その前にキレるな。
だがコイツがこんなに強く言ってくる時は頑固だから、俺が折れるしかないののが今までの経験上分かっている俺はため息をつく。
まぁ馬鹿だしKYなところがあるが、境界線みたいなものを越えることは決してない椎名だから、俺がしょうがないと許せる範囲を分かって言っているのだろうが。


「分かった。ただし、今日だけだぞ」

「了解でーす」


渋々許可を出すと、椎名は嬉しそうに笑った
…何がそんなに嬉しいのかは理解できないけどな。

こうして、避けに避け続けていた食堂行きが、決定した瞬間だった。



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