ありのままに、 | ナノ




03


言い忘れていたが、この学校はアイツ曰くおうどう…王道?の塊らしい。

アイツ、というのは俺の腐れ縁的なやつで、同じこの学校に通っている……いや、今はそんなことどうでもいい。

全寮制の金持ちのご子息ばかりを集めた、同性愛の巣窟だ。
俺は高校からの外部生だからノーマルだが、思春期をこの見渡す限り男で埋め尽くされた空間に押し込められた少年たちの性の対象は同じ男にへと向けられるのだ、嘆かわしいことに。
もちろん一時的なものだと俺は信じている。
見目麗しい奴らは紙…間違えた神の如く崇められ、ファンクラブみたいなの…親衛隊がその脇を固めている。
美形に無暗に近づくと制裁が待っており、陰湿なイジメ…リンチなんて当たり前、時には強姦っつーこともやるらしい。

生徒会なんてその象徴的なものだ。
俺様としか考えれない会長を始め、絶対に関わりたくない奴らにも顔だけはいいから親衛隊はつくし、皆放置してるから親衛隊はやりたい放題だった。
そう、"だった"…過去形だ。
あの下手な変装ではあるもののパッと見オタクにしか見えない立花に恋愛感情を抱き、彼らは立花を親衛隊のイジメから守ろうとそれなりに頑張っている。
それがむしろ親衛隊の逆鱗に触れるものだとは気付かずに、な。

俺に散々八つ当たりされて凹んでいるこの椎名にも、親衛隊はいる。
関わり始めた当初はメンドイことになりそうだなーと他人事のように思っていたが、思いのほか彼らがいい奴で、何故か気があってしまった。
背のちっこい奴ら(といっても俺より少し小さいだけ)には八城様をどうか宜しくお願い致しますとまで言われた。
その言葉の中に"留年させないようにしてください"という意味も含まれていると俺は思っている。
椎名の親衛隊は頭のいい奴が多く、今でも時々隊長とマンツーマンで二次方程式を教えてもらっているのを見る。

まぁそんな椎名のところのような穏健派は案外少なく、生徒会のはみんな過激派だ。
立花を生徒会から離れさせたい…だけどその生徒会に守られていて中々手が出せない。
そんなジレンマの中で白羽の矢がたったのは俺だった。
立花にひっついて生徒会に近づこうとしているドロボウ猫。それが今俺に抱いている彼らの印象だ。
まったくもって事実とは違うだろと言いたい。非常に言いたい。
ひっつかれているのはむしろ俺だし、生徒会室なんか死んでも行きたくないから毎回何だかんだ断ってるし、食堂にも行かないようにしているだろ?この俺の涙ぐましい努力に気づけ!
面倒くさくて切っていない前髪のせいで根暗だと思われているらしい俺は、もちろん生徒会の連中に守られてなんかいない。
むしろ早くリンチなり強姦なりされて退学しろと思っているな、アイツら。
だが俺はそう簡単に逃げ出す程ヤワにはできてねェ。
親衛隊の奴らもまだリンチとかはしてきてないってのもあるしな。


「まじ立花どっか消えろ…」

「大変だなァ真面目くんの仮面かぶってると」

「立花さえ転入してこなきゃ俺はこんなストレスを感じることなく生きていけてたんだ」


弱っちい奴に喧嘩を売られることもなくなったし、歩いていると突然殴りかかられるということもなくなったのだから快適だった。
別に喧嘩が嫌いというわけではないが、好きでもない。
手が痛くなるし、血がつくし。
かといって殴られたいっていうMでもないから、もちろん勝つのは俺。
自分から売った喧嘩と買って負けた喧嘩がないのが俺のささやかな自慢だ。
だがこの状況が続くと自分から喧嘩を売ってしまいそうな気がする。


「あ、そういえばゆーちゃんがこれ2人で食べてってもらったんだけど、食べる?」

「ゆーちゃんの?もらうに決まってんじゃん」


思い出したようにカバンから綺麗にラッピングされた袋を受け取り、思わず顔がにやける。
ゆーちゃん、というのは椎名の親衛隊隊長のあだ名で、本名は神木雄之助(かみきゆうのすけ)。
男らしい名前とは裏腹に小柄で整った顔立ちの可愛らしい奴で、俺らとタメ。
学年トップの頭脳をフル活用して学年最下位の椎名に数学を教えている、その根気に俺はいつも尊敬する。
空気の読める奴だし、気をつかえるし、頭の回転も早く、俺との勉強トークにもしっかりついてこられる貴重な奴でもある。
ちなみに俺、勉強は嫌いだけどバカではないのであしからず。
平均点あたりをうろうろするような冴えない点数しかとらないのは、平凡を愛するが故の手抜きですから。
立花にゆーちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだ。


「お、うまそー」

「お前の親衛隊にはもったいない奴だよな、本当」


どっかの有名らしい料亭の跡取りらしく、料理の腕はピカイチ。
本人も作るのが好きらしく、こうやってと時々差し入れをしてくれるのだ。

ん、やっぱりうまい。

絶妙な甘みのハーモニーを醸し出す生チョコに大満足の俺らだった。



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