ありのままに、 | ナノ




02



「うざいうざいうざいうざい…」

「何かの呪詛のように聞こえるからやめろっ!」

「俺の苦労を考えれば呪詛ぐらい何十個かけてもまだ足りん」

「はは…」


呆れたような笑みを浮かべたのは、俺の同じ部屋の八城椎名(やしろしいな)だ。

そう言えばこの私立晃央(こうおう)高校は辺鄙な田舎にある、全寮制の所謂お坊ちゃま学校である。
俺も香月っつー財閥の跡取りだし、椎名もそこそこ大きな会社の次期社長の椅子を約束されている(と言っていた)。
俺が染めて手に入れた真っ黒な髪で真面目風なのに対し、椎名は茶髪の長めの髪をワックスでゆるーく固め、アクセ類も嫌味にならない程度につけられている。
その顔は整ってるが、俺からすればチャラい遊び人だ。
そんな顔が整っている椎名だったが、頭が壊滅的に悪く1年の時にたまたま勉強を教えてやったのが始まりだった。


「なぁ朔夜ー。俺次赤取ったら問答無用で2年を最初からやり直させるってヅラに言われちゃったんだけどー!」

「俺が先輩と呼ばれる日を楽しみに待ってるから安心してダブれ」

「ひでぇって!!お願いだから助けてください朔夜様!!」


ヅラ、とは数学教師の通称だ。
その名の通りわかりやすーいヅラをしているからついたのだったが、今となっては俺はヅラの名前は覚えていない。
ま、その程度の奴なのだから仕方が無い。


「無理。めんどい。お前に教えるくらいなら猿に算数教えるほうがまだマシだ」


「おい!俺は猿以下かっ!」


「つい最近まで三角形の面積の求め方が分かんなかった高校生がよく言うっつーの」


「うぐっ」


「ふん。この俺に口で勝とうなんざ100万年早ェんだよ。首洗って出直してきな!」


普段かぶっている何十枚もの猫の皮を脱ぎ去った俺がこんなにものびのびと自分の部屋でくつろげる理由が、2つある。

一つは俺がいないと留年するであろう椎名の勉強を手伝ってやっていること。
そしてもう1つは…


「カッコだけ見れば真面目くんだから余計中学ん時のギャップが…」


「だーまーれ。一言でも中学ん時の俺のこと言ってみろよ。生き地獄ってのを味あわせてやる」


「…お前が言うと冗談に思えないからヤメロ」


「冗談じゃねーし」


「……」


全然知らなかったが、椎名と俺は同じ中学を卒業してたのだ。

だからコイツは俺が金髪だったのも知ってるし、優等生キャラじゃないのももちろん知っている。

だが基本興味がないことは全く触れようとしない俺は椎名の存在も知らず、そして姿形が全く変わっていた俺に椎名が気づくわけもなく、ある意味あの勉強を教えた時が初対面も同然だった。
ある意味有名だったらしい俺を椎名が知っていても俺は椎名のことなんか欠片も知らなかったのだから、どっちみち初対面だったわけだが。

なんだかんだ気があい、時々勉強を教えていたらいつのまにか同じクラス同じ部屋になっていたというわけだ。



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