ありのままに、 | ナノ




10



キャーっと一段と悲鳴が大きくなった。

「お、奏(かなで)じゃん」

突然現れて有里の首に手を回したのは、杉岡奏。3年生。
……ほぼ人気投票化した選挙で選ばれた、この高校の生徒会副会長。
顔は綺麗系で、女顔が嫌味なほど似合っている男でもある。
なんでも偽りの笑みに立花が気づいてくれたらしく、それで気に入っている…らしい。
ゴッツイ男から人気の高い副会長の名前を呼んだ(それも呼び捨て)立花にいくつもの視線が突き刺さる。


「なんで今日はこんなところで食べてるの?いつも生徒会専用の階で食べるのに…」

「あぁ、今日は朔夜たちと食べるからさ!だから今日は別々になるけど…」

「ふぅん…友達、ねぇ」


ジロリと品定めするように俺たちを上から下まで見下ろし…なんと、フンと鼻で笑いやがった。
まるで取るに足らんとでも言うように…どす黒い笑みを俺達にだけ向けた。


「有里は僕の何だからね」

「おいっ!いつ有里がお前のものになったんだ!!」

「君…確か倉持くんだっけ?目上の人に対する言葉使い知らないのかい?」


バチバチと倉持と副会長の間に火花が飛び散る。
立つタイミングを完全に逃してしまった俺たちはもうひたすら空気に徹するしかない。
早く、早く定食よ来てくれ。
そんな俺の思いも届かず、立花は美形ホイホイという有り難くない能力を遺憾なく発揮する。


「あー副会長ずるーい」

「僕らも有里に会いたかったのにー!」


遅れてやってきたのは、この高校の名物双子である新美愁(にいみしゅう)と龍。こいつらは俺らと同じ2年。
こいつらも生徒会のメンバーで会計。
有名な理由はもちろん美形なことと、そのイタズラ好きなところの2点があげられる。
髪型も一緒、顔も一緒、行動パターンも一緒で全く見分けがつかない双子は、それを利用してよく入れ替わってたりしているのだ。
今まで彼らを個人として認識できる人は誰もいなかったらしいが、あっさり立花が見破り、それが理由で気に入った…らしい。


「お待たせ致しました、ランチのA定食4つでございます」

「あぁ、ありがとうございます」


やっと来てくれたウェイトレス(いつもこの人が運んでくれるからちょっとした知り合いになっている)に礼を言うと、一目散に食べ始めた。
つーか立花と倉持も俺達と同じもん頼んでたのかよ。


「ごゆっくりどうぞ」


優しげな笑みを浮かべてくれたウェイトレスさんには悪いが、今日はその味を味わう余裕はない。
副会長と会計が現れたということは、他のメンバーも来る確率が高い。
これ以上とばっちりを受ける前に退散したいところだ。


「何々ーこいつら」

「何で有里はコイツらと食べてるのさ」


双子が邪魔なんだけどアンタらオーラをバンバン出してくるが、全部スルー。


「朔夜と椎名って言うんだ!俺の友達なんだから、仲良くしてやってな!」


しかし立花はそんな俺の儚い願いを粉々に打ち砕く。



[ 11/108 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -