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09


無駄に金かかっているこの学校は当然の如く食堂も豪華そのもので、全校生徒がたぶん一度に入れるぐらいの広さを誇り、注文方法はタッチパネルで料理は各地から集められた1流シェフが作り上げた1級品料理はウェイターによって各テーブルに運ばれるという徹底ぶり。
最初は一般人だった俺は驚いたが、今ではもう慣れてしまった。
普段昼飯はコンビニパンだった俺は久しぶりにタッチパネルを操作することになる。


「椎名、今日お前の奢りだから」

「なぁ!?勘弁しろって!ここの昼飯どんなけすると思ってんだよ」

「じゃあもう夜作らん。勉強も教えたらん。飢え死にして留年するか、ここで俺に昼を奢るか選ばせてやる」


勉強だけでなく料理が壊滅的にできない椎名の胃袋は俺が握っているも同然。ついでに勉強も教えているのだから、椎名が俺に逆らえるわけがない。
案の定、椎名は少し迷っただけでため息とともに了承の意を示した。


「分かった…分かったから。安いやつなら奢ってやるから」

「ゴチになりまーす。んじゃ俺このランチA定食で」


比較的良心的な値段になっている定食を選び、タッチパネルで注文する。
その途中で俺と同じものでって言ってきた椎名の分を入れて、2つ。


「あ、何だよもう決めちゃったんか!?」


あのくさいコントはいつの間にか終わっていたらしく、立花がズリ落ちそうになっていた分厚い眼鏡を直しながら聞いてきた。
つーか眼鏡キャラかぶってんですけどー。俺のはそんなダサいのではないが。
もう俺たちが注文を終えたのが不満なのか、口がへの字になっている。


「うん、そうだけど…何かマズかった?」

「いや…そういうわけじゃないけどさ…」

「じゃあ大丈夫だろ?ほら、立花たちも早く注文しなきゃ」


話を変えるように仕向けると、あっさりと立花の興味は俺からタッチパネルへと移っていった。
また安い三流ドラマ並の会話をしている立花と倉持を呆れたように見ながら俺は小さくため息をつく。
まだ食べてすらないのにもう帰りたい。
どうやら2人も注文し終わったらしく、楽しそうに(表情が分らないからたぶんだけど)立花が話しかけてきた。


「ここの食堂の飯ってほんと美味いよなー!」

「まぁ…一流の人たちが集まってるって聞いてるしね」

「つーかそんぐらいのレベルじゃないと味に煩いお坊ちゃまたちが納得しないんでしょ」


俺がそれなりに波風立たないように返事を返したというのに、椎名はそんな俺の努力を鼻で笑うような適当なものだ。
ほら見ろ、立花大好き倉持が今にも殺しそうな目でお前と何故か俺のこと睨んでるんですけど。
いやいや、俺睨みつけるのおかしくない?
お前が俺の話を聞けばむしろお前と立花くっつけるの手伝いたいんですけど?
そうすれば俺は平凡な毎日を、お前は大好きな立花を手に入れれるんだからいいと思うんだけどねー。
つーかお前も立派な"お坊ちゃん"だぞ、椎名


「俺最近いっつもアイツらと一緒だったから今日は朔夜たちと一緒に食べてすっごく嬉しい!」

「アイツら…?」


何だか嫌な予感がする。
見ればなんだか多くの生徒たちが先ほどよりも興奮している。
チラリと椎名を見れば、こいつにしては珍しく冷や汗を流していた。
俺の視線に気づいた椎名と目があい、2人同時に頷く。
――ここから出よう。


「やぁ有里」


しかし、それはタイミングを逃したせいで不可能となった。



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