18
――ガンッという鋭い音と共に、一護の斬魄刀が主の手を離れて地面に突き刺さった
「ハァ、ハァ、…っ」
一護が息をきらせているのに対し、亜希は最初と全く変わらぬ表情で静かに立っている
少女を傷つけないように戦っている一護には、疲労が少女の倍以上となって降りかかっていた
そんな一護の努力のかいあってか亜希の体に目立った外傷は見受けられないが、それとは逆に一護自身には決して少なくない怪我が存在していた
だがそれも当然だろう――少女は、少年を殺すために刀を振るっているのだから
「ゲームオーバー、だねお兄ちゃん」
そんな2人の戦いを文字通り高見の見物をしていたミヨはニッコリと楽しげな笑みを浮かべる
斬魄刀が手元になく鬼道も使えない一護は確かに絶体絶命だろう
ガラス玉の瞳に一護が映る
「亜希…、」
これだけ呼びかけても何の反応も示されず、一護の脳裏に嫌な想像が流れたのも一度や二度のことではない
もう、いくら呼んでも意味がないのではないか
少女が言う通り、もう亜希は元に戻ることはできないのではないか――色々な考えが浮かんでは消えていった
それでも諦めきれなかったのは、あの時一瞬だけ自我を取り戻した彼女の声を聞いたからなのだろう
助けてと…泣きそうな顔で手をのばされた
散々酷い目にあっているのを見て見ぬふりをしてきた一護に、それでも彼女は手を伸ばした
救いを、求めてくれた
――ただそれだけで、一護は諦めることができなかったのだ
「さぁお姉ちゃん、ソレを早く仕留めて?そうすればお姉ちゃんはなぁんにも苦しいことはなくなるよ。ずーっと、幸せな夢の中で生きることができるから…」
振り上げられる刀
「ふふ…お兄ちゃんを自分の手で"殺す"ことによって、お姉ちゃんのココロは完全に壊れて私のモノになる……最後に取り払うもの、それは"常識"」
"感情"を消し、"理性"を取り除き、"自我"を奪って"常識"をなくせば――そこにいるのは、ただ息をするだけの人形だ
"殺してはいけない"と無意識のうちに当たり前に刷り込まれているものを根底から覆せば、もう何も残りはしない
「亜希…目ェ覚ませ…っ!」
「いい加減諦めなよ!お姉ちゃんのことも、自分のことも!今ここで、お姉ちゃんによってお兄ちゃんは死ぬんだから!!」
爛々と輝く瞳
「さぁ、終わりだよ黒崎一護!!」
少女の言葉と同時に――亜希の刀が、振り下ろされた
――真っ赤な血が、少女の頬に飛び散った
。
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