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「お姉ちゃんは必死に自分を守ってきた……それこそありとあらゆるものを犠牲にして、ただひたすらに自分を守ってきた」
少女の手にはいつも亜希がかけていたあの眼鏡が握られている
「こんな小細工じみたものでも、十分お姉ちゃんを守る盾だった……"こんなもの"でしか、守ることができなかった」
ぐしゃりと嫌な音をたてて眼鏡は壊れる
ただのゴミと化したそれを地面に落しながらも少女は何かの物語を読んでいるかのように言葉を続ける
「ありとあらゆる角度から自分を傷つけようとしてくる"それ"らに、お姉ちゃんはただ耐えることしかできなかった。だってお姉ちゃんが持っているのは小さな盾だけであり、矛は持ち合わせてないのだから」
「…、」
「もう私が行った時にはお姉ちゃんの心はひび割れて壊れる寸前だった…だから私は、その必死に形作っていた心に、小さな"振動"を与えた……ただそれだけで、お姉ちゃんはあっけなく"壊れた"」
壊れた
何てことないかのようにその言葉を口にする少女に一護は怒りを押さえられない
「佐藤に何をしたんだ……!!」
「何にも。壊れた心に、私の言葉だけを聞くようにインプットしただけだよ?この刀も、この空間隔離も、全部お姉ちゃんが無意識に抑えつけていた力であり私はリミッターを壊してそれを引き出してあげただけ……それに勘違いしてない?死神のお兄ちゃん」
「何を、!」
「お姉ちゃんをここまで"壊した"のはお兄ちゃん達でしょう?お兄ちゃん達が、お姉ちゃんを追い詰めて追い詰めて、壊したのでしょう?まるで私が全て悪いかのようにお兄ちゃんは言うけど……本当に悪いのは、お兄ちゃん達じゃない」
心外だとばかりにその言葉を口にするミヨに、咄嗟に否定の言葉が出てこない
実際少女の言う通りなのだろう。あのクラスでの出来事や、孤独が……亜希を、追いつめた。それこそ簡単に少女に壊されてしまうぐらいに
ずっと一人でいた亜希
もうどれだけ自分は彼女の笑顔を見ていないのだろうか…?それすらももう思い出せない
「…みぃんな、お兄ちゃんのせいだよね」
固まってしまった一護を見て、殊更ゆっくりとその言葉を口にするミヨ
「お姉ちゃんの目の前にいるあの死神は、お姉ちゃんをずっとずぅっと苦しめてきた"敵"。あれを消せば、お姉ちゃんの苦しみはうんと少なくなる」
『……』
「前に私の腕を切り落としてくれた借りも、一緒に返そうね」
『……』
亜希の刀を持つ手に、僅かに力が込められた
「さぁ……目の前の"敵"を殺しなさい、佐藤亜希!!」
その言葉と同時に、亜希は地面を蹴っていた
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