11 伸ばされたその小さな手
「佐藤……、」
目の前にいるのは確かに1週間行方不明だった佐藤亜希だ
珍しい藍色の髪に、空座第一の制服……まず100%の確率で彼女本人だと言えた
だが―――
『……』
まるで人形を前に喋っているような感覚に陥るぐらい、目の前の人間は"生きている"という認識が薄い
ガラス玉のような瞳、というのを生まれて初めて見た
「ふふっ無駄だよ死神のお兄ちゃん。お兄ちゃんの知ってるお姉ちゃんはもういないんだもん」
白い服を着た少女は楽しそうに笑う
「お兄ちゃんたちのおかげで、お姉ちゃんの心を完全に"壊す"ことができたんだよ?ここにいるのは私の言うことをよく聞く"お人形さん"」
「テメェ…何者だ」
斬魄刀を向けられても少女はその余裕を崩さない
ニコニコと楽しそうに笑うその姿は、この切り取られた空間では"異質"だ
「私?私は"ミヨ"。生きてた時と死んでから少しの間はそう呼ばれてたよ。今でもこの名前を使ってる」
「そんなことじゃねェ…!!」
「すぐ怒る人はモテないよ?今この状況は圧倒的に私が有利なんだってこと、ちゃんと理解してるの?」
幼い少女に諭すように上から言われ、一瞬頭の中が真っ白になるも必死に冷静さを取り戻そうと深呼吸を繰り返す
少女が何者か、というのはそれ程重要な事柄ではない。一番大事なことは、亜希をどうしたのかということ
一護が落ち着いたのが分かったのか、ミヨと名乗った少女はまた楽しそうに笑みをこぼす
「ここにいるお姉ちゃんは、生身の体。つまり死んだわけでも何でもない。だけど…見えてるよね?お姉ちゃんが持っている刀」
確かに亜希の手には1本の刀が握られている
構えも何もない、ただ持っているだけといった様子だが……
「感じるよね?この刀……"お姉ちゃんの斬魄刀"を」
ただの刀ではない。それは、死神だけが持っているはずの"斬魄刀"だった
だがそれでは大きな疑問が残る
今少女は目の前の亜希は生身の人間だと言った。霊体ではなく人間だと
「どうして"人間"が"斬魄刀"を持ってるのか…って顔してるね、お兄ちゃん」
ニヤリ、と少女は嗤う
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