08
―――空座町、時刻は夜
すっかり静まり返った町内を、黒い影が駆け抜けている
「ったく……こんな時に虚かよ…」
例の音量が大きすぎる代行証によって叩き起こされた一護だ
死神代行として認められているなら、その役目は果たさなければならない
連日とは言わないがそこそこ頻繁に鳴るこの代行証に殺意を覚えたのは最初だけで、今はもう慣れてしまっている
大きな斬魄刀"斬月"を背に背負い、夜の空座町を勢いよく駆け抜けていく
「たぶんこの辺りからだったけど……」
感じた霊圧を頼りに現場と思われる小さな公園に出るも、周りにそれらしき存在は視認できない
最初から何もないかのように、静かな…いつも通りの、あるべき姿である公園
「……気のせい、か…?」
不良品じゃねぇの、この代行証
小さく文句をこぼし、奪われた睡眠時間を少しでも取り戻そうと家へ帰ろうと後ろを向いた時
「ちょ、ちょっとどうしたんだよクローム!」
「ここに…いるはずなの…!」
公園の入り口付近から男女の声が聞こえ、反射的に一護の足が止まる
一般人からは見えないと分かってはいるが、どうしても一瞬立ち止まってしまう
恋人、というには少しムードが足りないような気もする茶髪の気弱そうな少年を眼帯を付けた藍色の髪の少女が無理やり引っ張っている
見たところ自分と同じくらいの年齢に感じる。だが少なくとも高校生にとってはもう遅い時間なのに……
「ほら、あの人にすごく見られてるじゃん…もう帰ろう、ね?」
「……嫌。無理」
少年が確かにこちらに視線を向け、少女もチラリとだが見て、何事もなかったかのように会話をしていた
「……お前ら、俺が見えるのか?」
その反応に、まさかと思い見知らぬ2人に話しかけてみる
「え!?な、何でですか…?」
「……ごめんなさい…」
声も聞け、姿も見えるとなれば相当な霊力の持ち主だということが分かる
慌てる少年と関わりたくないオーラ全開の少女を前に一護は顔をひきつらせた
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