05
何が"一人娘"だ
自分がお腹を痛めて産んだ子供を"なかった"ことにできるその神経が理解できない
…双子の姉、凪の存在を
自分とは違い少し鈍くさいところがあった凪は、蛇蝎のごとく両親から疎まれていた
存在を認めたくないとばかりに誕生日プレゼントはいつも1人分しか用意しなかったし、外食するときもいつも3人だった
だけど…それでも、私と凪は仲がよかった
大好きな姉だった
それなのに…この関係を嫌がった両親に、引き離された
凪を遠い親戚のところに追い出し、亜希だけを連れてこの空座町に引越した
絶望に心を暗く染め上げても、それでも"完璧な娘"を演じようと努力した
でも…テストでは1回も1番を取ることができず、父を落胆させた
なぜ1番をとれないんだ、と殴られたのも1度や2度ではない
そんな私にとって学校は"外"に出て行けれる、唯一の逃げ場だった
人見知りの激しい性格からなかなか友達はできなかったが、それでも少しずつ増えていた
『――黒崎くんだっけ…』
一番最初に話しかけてくれたのは
「俺、黒崎一護。隣だからよろしく」
オレンジ色の髪に少し怖そうな顔立ちの黒崎くんが、最初は苦手だった
『あ、私は佐藤亜希…』
この頃はお姉ちゃんと引き離された直後だったから、たぶんかなり取っ付きにくい女だったと思う
だから言った直後に少しだけ後悔した
こんな愛想のない言い方したら嫌われちゃう…って
「佐藤、な。これからよろしく」
だけど嫌そうに顔をしかめることなく、極普通に会話を続けた黒崎くんは、怖い人じゃなくて優しいんだと分かった
『うん…よろしくね、黒崎くん』
「……………お前、ぜってー笑ってたほうがいいって」
まじまじと私の顔を見たかと思ったらそんなことを言い出した
「てか前髪もっと短くしてコンタクトにすりゃけっこう変わるんじゃね?」
『わ、私はこれが気に入ってるから…』
変なの、と言いつつも黒崎くんは楽しそうに笑ってて、私もつられて少し笑ってしまった
そんな、入学式
。
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