悲しき詩 | ナノ




08



「……あなたはずっと、彼女を信じてくれてたのですね」


僅かな沈黙の後、そう言葉を発したアレンは自嘲気味に笑う


「冷静になって見れば、彼に…紅蓮に言われなくても、おかしい点はいくつもありました。愛結に裏切られた、その思いだけで全ての事柄から目を背けてしまった…。こんな愚かな過ちは、二度繰り返すわけにもいきません」


視線を逸らさずに言われた言葉からは嘘は感じられず、ツナは安堵のため息をこぼす


「愛結の口からもう一度、真実を聞きたいと思います。そして、今までのことも謝罪を……そのために、僕は愛結を助けなければいけません。力を、貸して頂けないでしょうか…っ」


拳を握りしめ、頭を下げたアレンに、慌ててツナは声をかける


「や、やめてください!俺たちだって愛結ちゃんを助けたいし、むしろこっちがお願いしたいぐらいで…!!」


いやそれでも、いやいやこちらこそ、なんて押し問答を繰り返した後、ようやくアレンは顔をあげた

自分と同年代のように見える、先日の戦闘時とはだいぶ雰囲気が違う不思議な少年

赤子…リボーンに叩かれて涙目になっている彼はどこか頼りないと思う反面、彼なら大丈夫だろうという謎の安心感もある


「…宜しくお願いします、沢田さん」

「こ、こちらこそっ!皆からツナって呼ばれてるので、そう呼んでくれれば…あ、アレンさんが良ければですけど!」

「ではそうさせてもらいますね、ツナ。僕のことも好きに呼んで頂いて結構です。―――リボーン、愛結が連れ去られた時の状況を教えてもらえますか?」


部屋の空気が一気に張りつめたものになる


「"グレン"、"ティキ"。そして名前は知らないが女が一人。グレン以外は肌が黒かったが…コイツらに心当たりはあるか?」

「黒い、肌…ティキ・ミック……なんでノアが愛結を…」


"ノア"――見知らぬ単語が出てきて首を傾げたツナに気付き、アレンは簡単に説明する


「ノアは…そうですね、簡単に言えば僕たちエクソシストの敵です。特徴は浅黒い肌と額の十字架です。"ティキ"はティキ・ミック卿、女の子のほうは恐らくロード・キャメロットでしょう」


つまり、愛結は敵であるノアによって連れ去られたということで――…一気に血の気がひく

しかし、とアレンは思案気に表情を曇らせる


「何故、紅蓮はノアと行動を共にしたのか……」


紅蓮の肌は白かったし、何より彼はエクソシストだ―――裏切ったとしか考えられないが、それは一番あり得ないことだった


「エクソシストは決してイノセンスを裏切れません。逃げようとしたり、ノアに屈したりしたら、それは"咎落ち"になってしまいます」

「とが、おち…」

「えぇ、イノセンスが暴走するんです。持ち主の意思に反して力を放出し続けて…死に至ります。ここにたどり着く前に1人、仲間が咎落ちによって……」


ギリ、と奥歯をかみしめ、辛い思い出を振り返る

スーマンはエクソシストを裏切りノア側についた為咎落ちとなったはずで、それは今の紅蓮の状況そのままのはずだが、裏切ったというのなら何故紅蓮は咎落ちにならない?

彼とスーマンは同じエクソシストのはず……何か根本的な"違い"があるのだろうか?

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