犬的意見
「儂としては、得体の知れない人間を学園の敷地内に置いておくのは反対じゃ」
話しながらも、歩みを止めることはない。
儂にとって天女はその程度。どうでもいい存在。
それはいちいち立ち止まって話すことでもなかった。
「例え天女という奴がくノ一や間者で無くとも、じゃ。事務員として学園で雇うのは、余りにも無防備じゃと思わぬか?
いくら生徒が抗議したといっても、この選択は阿呆すぎる。儂が学園長なら、とっとと追い出すわい。
ま、学園長にも何かしら考えがあるかもしれんがのう。」
「まあ……そうだな」
「他にも色々気になることはあるが……天女本人に関してはまだ何も言えぬな。
儂が想像論が好きではないの走っておるじゃろう?
それにあくまでもここにいる限り、儂の立場は"忍術学園用心棒"。くノ一でも教員でもない。
いわば儂は学園の…………いや、学園長の犬、じゃ。
犬ならば、主人の命に従うのは当然じゃからのう。」
「……お前は、それで良いのか?」
「良いも悪いもあるまい。あったとしても、それは儂が決めることではないぞ。」
半助がいつになく真剣な表情で問うてくるが、自分の立場の良し悪しなんて、それこそ愚問だ。
それに、良し悪し以前にこの選択が自分にとって一番最適だと言える。
儂の言葉に今だ納得していない半助を無視し、丁度見えてきた教員長屋。
儂が自室の襖に手をかけると、半助は首を傾げた。
「食事は?ただのおつかいといえ、かなり離れた市場まで行ったんだ。疲れているだろう。」
「今日は要らぬ……そんな気分ではないしのう。
それに、食堂には恐らく例の天女がおるのじゃろう?
敵かそうでないかもわからぬのに、武器の一つも持たずに近づくなんて愚の骨頂じゃよ」
生憎、今日はただのおつかいで苦無の一本も持っていないのでね────
それだけ言って、儂は半助に別れを告げると、いつものように自室に閉じ籠った。
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