物語開幕



「学園長、暁成秋椰です。頼まれていたものをお持ちいたしました」

「うむ、入れ」


学園長の庵へ入ると、いつもと違う甘い匂いがした。
さっきから気になってはいたが、この匂いは一体何なのだろう?
そう思いながらも学園長にカステラが入ったふろしきを渡すと、学園長はそれを脇に置いて口を開いた。


「秋椰、お主に話がある。」

「話、と言いますと?」


いつもなら真っ先にヘムヘムに茶を出させるはずなのに、おかしい。
すると学園長はいつになく真剣な顔をしていた。
こう見ると、昔天才忍者と呼ばれた面影が見えなくもない。










「天女が降ってきた」









「……は?」








呆気にとられて思わず腑抜けた声が出てしまう。
天女とはお伽話に出てくるあの天女の事だろうか?
とうとう学園長も歳でボケたか……そんなことを考えていると、怒鳴られた。


「コホン……とにかく、お主が学園にいない間に空から人間が降ってきての。それも、女子がじゃ」

「それが天女だと?」

「わからん。が、少なくともそ奴は自分は天女であるとの一点張りじゃ。」

「……学園長ともあろうお方が、そんな奴の戯言を信じたのですか?」


そうだとしたら、この学園はもう終わりだ。


「そんなわけなかろう。じゃがしかし、そ奴は見慣れぬ着物を着ておってのう。
くノ一か間者かも判明しておらぬし、そんな奴を野放しにはできまい。」

「まあ……確かに」


一度でも学園に入ったのだ。そのまま逃がしてしまえばいつ情報を流してしまわれるかわからない。
もしその天女とやらがくノ一や間者でなくとも、だ。
まあ学園のサイドワインダーを潜り抜けて学園に侵入した以上、確かにただの人間とは思い難いが。


「ということで、その天女は名目上事務員として学園で雇うことになった」

「……それは正気ですか?」

「教職員からは抗議の意見もあったがのう……監視するには、これが一番得策じゃろう。
ときに秋椰。今の話を聞いてどう思う?」


突然の質問に儂は首を傾げる。


「どう、と言われますと?」

「天女について、お主の意見が聞きたいのじゃ。」

「……私はまだその天女に会ったことが無いのでわかりかねます。
ただ、私は"忍術学園用心棒"として、学園長の意思に従うまでです。」


失礼します、と頭を下げ、庵から出ていく。
学園長はまだ何か言いたそうだったが、これ以上話を長引かせたくなかったので、儂はそれ以上何も言わずに襖を閉めた。
あまり得意ではない緊迫した空気から解放され、ふう、と息をつく。そして

















「……半助、おるのじゃろう?」


庵近くの茂みに声をかけると、少ししてから隣人――――教員の土井半助が姿を現した。





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