■ 煙は漂わない
照りつける日差しを受けて高い音を鳴らして交わる剣先がきらめく。次から次へ襲いくる海賊は数が勝負なのか休む間もなく向かってきて首筋を伝う汗が甲板の床に吸い込まれた。
「キリないな、もうッ!」
握った剣はわたしの得物ではなく倒した賊から拾ったものだから手になじまず、使い勝手の悪さにいらだちが募る。それに加えてこの切れ味の悪さ。武器として持っていた拳銃の弾はさっき切らしてしまったし、こんなとき覇気がまとえたらどんなに楽なんだろうなんて余計なことが頭をよぎる。
まぁでも数では劣っても武力はこちらが優勢、海賊を全て捉えるのも時間の問題かな。慣れない動きで斬っては次の相手と対峙する中で、白い煙が次々と敵方をまとめて捕らえていくのが目の端に映る。
「スモーカーさん!」
いままでどこにいたんだろう?スモーカーさんがいればもう安心だなぁ、と力を緩めた瞬間、相手が力いっぱい剣を押し出しこちらに吼えてきた。
「よそ見してんじゃねェ、女ァ!!」
「っ!」
防ごうとしても耐えきれず、剣もろとも体が吹き飛ぶ。やばい船から落とされる......!
「ナマエ!!」
バシャン、バシャン。背中から落ちたおかげで大きく水しぶきが立って体が沈む。ん?今スモーカーさんの声がしたような。
「ぷはっ......え、スモーカーさん!?」
ようやく海面に顔を出すと真横に正義のコートが漂う。えっと、なんでスモーカーさんが隣で溺れてるんですか。じゃなくて。
「だ、誰かボート!」
スモーカーさんが海に落ちたからか討伐にほとんど片が付いたからか、甲板からみんながこちらを覗き込んでいる。すぐに緊急時の小型ボートが投げられるけど、誰か手伝いに降りてきてくれてもいいじゃないか。
「スモーカーさん掴まって!」
やっとの思いで自分より大きな彼をボートに無理やり引きずりあげる。
「がはッ......ナマエ、」
「わ、喋んなくていいですから水吐いて!」
「無事か」
「無事ですよ、スモーカーさんこそなにやってるんですか、びっくりしたじゃないですか!」
「......お前が、泳げねェもんだと」
「まさかそれで飛び込んだんですか?」
能力者は海がダメなはずなのに真っ先にわたしを追いかけて飛び込んでくれたの?狭いボートの上、コートを脱いで絞るスモーカーさんからはもう返事は返ってこないけれど、返事の代わり、海水の冷たさに反して赤らむ耳にもしかして、なんて期待してしまう。
白波に隠れて、ほんの少し自惚れてもいいですか。
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