■ 夏の始まり

「あづい......」
「今日は特にな」

   ただでさえ汗がにじむというのに潮風と相まってからだ中べとべとな気がしてならない。夏の爽やかなイメージとは程遠い湿度が鬱陶しすぎる。もっと涼しくなる方法といえば我らが海軍大将青キジさんをお呼びすることくらいしか思いつかないんだけど......。

「そうだ、扇風機出そう!」
「あァ頼む」
「へ、やってくれないんですか」
「去年しまってやったのはおれだろ」
「なんですかそれ。細かい男ですねえ」

   まあでも涼しくなれるし扇風機くらいなら自分でやろう。窓際で風に吹かれアイスコーヒーなんか片手に新聞に目を通すスモーカさんを置いて早速物置部屋に向かった。

「あった、これこれ」

   扇風機のしまわれた箱を何とか廊下まで引っ張り出して組み立てる。

「できた!」

   組み立ては案外簡単で、説明書なんて読まなくても感覚で出来たのだけど、リビングまで運ぶのが重たいし大きいしで面倒くさい。と動きを止めているとスモーカーさんがリビングから顔を出した。

「できたか。助かる」
「運んでくれませんか......」
「ったく、そんなに重くねェだろ」
「重いですよ」

   ぶつぶつ文句を言いつつも一応扇風機を抱えあげその場に留まっていると、スモーカーさんがこちらに向かってくる。お願いします、なんて素直に差し出したわたしが間違ってたのかもしれない。次の瞬間扇風機ごとわたしは宙に浮いていた。

「ちょっ、待って!」
「運ぶんだろ」
「そうだけど......!」
「ほら着いたぞ」

   喚いている間にリビングに到着して、何も無かったかのようにひょいと地面に降ろされた。び、びっくりした......スモーカーさんから逃げるようにコンセントを繋げ電源を入れれば、心地よい風が生まれて新聞紙がペラリと捲れた。外にはまばらな蝉の鳴き声とそよぐ木々。

「夏ですねぇ」
「そうだな。丁度いい、昼飯は素麺にするか」
「やった!」
「夜祭りに行くつもりなら食いすぎるなよ」
「はぁい。スモーカーさんもね」

   扇風機、素麺、夏祭りにかき氷、それから花火も水遊びもいいな。蚊取り線香もそろそろ出さなくちゃ。だけどまだ夏は始まったばかり。今年はスモーカーさんと満喫出来たらいいな。

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