■ 赤旗の理由

   昼下がりソファに2人。珍しくなんの邪魔も入らない穏やかな時間。
   それなのにせっかくの心地よい沈黙は、わたしがどうしてもしばらく聞けずにいた彼の2つ名のことを思い出させる。
   聞くなと釘を刺されているわけではないが、聞いていいものか触れてはいけない傷口なのか、彼の行動から読み取れないからだ。

「ドレーク」
「なんだ」

   静かな声が響く。
   わたしの声がいつもより緊張で硬かったのだろうか、こちらを向いた顔は微妙に眉根が寄っている。

「あのね」

   そこでまた言葉を区切る不自然なわたしにドレークの顔が柔らかいものになる。
   これはわたしの話に耳を傾けてくれてる証。それになんだかほっとしてしまってまた口を開いた。

「“赤旗”ってどういう意味?」

   ドレークの視線が揺れる。

「......すまない、時期が来たら話す」

   曖昧に濁された表現は傷口のほうかだったのかそれとも――

「そっか、分かった。ごめんね変な事聞いちゃって」

   空気が悪くならないようにわたしはぶんぶん首を振って努めて明るく返す。

「悪い。......本当ならナマエに隠し事などするべきではないのだろうが」

   それはわたしが恋人だから?
   済まなさそうな彼の顔に問いかけたくなるのをぐっと堪えて笑顔を作る。

「ううん。......いいの」

   ほら、また物分りのいいフリをして。
   これ以上はなにも聞き出せないのは明らかだったから、わたしは彼との間隔をゼロにして逞しい腕に頭を預ける。
   伝わってくる彼の熱が心地よい。

   彼を困らせたくはない。
   だからこれでいいんだ。今は、まだ。

   わたしは己に言い聞かせるように目をつむった。

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