■ 禁煙キャンディ

「今日は禁煙の日だそうですよ」
「だからなんだ」
「スモーカーさんも禁煙しましょう」
「断る」

   まぁ分かってはいたけど、せっかくの提案は流れ作業のようににべもなく断られてしまう。

「えー、飴ちゃんあげますから。はい」

   ポケットからいちごキャンディを出して難しい顔の彼に差し出すと一応は受け取ってくれ、葉巻の間からまあるい赤が消えていった。

「甘ェ」

   キャンディを口の中で転がして顔を顰めるスモーカーさん、同時進行で葉巻も吸うなんて器用だなあ。

「にしても、禁煙に関して言えばもっといいもんがあるだろ」
「え?なんです?」

   キャンディの包みをいじくりきょとんとしたわたしを見てスモーカーさんが意味深に笑う。それから短くなった葉巻が灰皿に置かれて、ゆっくり彼の顔が近づいて。

「こういうことだ」

   そこからは全部がスローモーションみたいだった。苦い葉巻味の唇が重なって、離れてくれない。驚くわたしの中に甘い舌が侵入して、最後にはスモーカーさんにあげたはずのキャンディが口内に押し込まれた。

「なっ、な......!」
「まだまだお前はお子様だな」

   フッと笑ったスモーカーさんに、もはや叫ぶ声も出なかった。

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