■ おそろい

   部下のナマエは朝から――正確に言えば昨日海賊と交戦があってから上機嫌だった。

「ナマエ、なんだか知らねェが、ちったァ落ち着け」

   にやにやし続けるナマエに呆れて席を立ち、換気でもしようと窓を開け放つ。まだ少し冷たい風が入り込み、白いカーテンと部屋に篭った薬品の香りを揺らした。
   医療棟には昔から世話になっているが、どうもこの床から天井、ベッドに至るまでの白さとこびり付いた薬品の香りはいつまでたっても慣れそうにない。それに、ここではナース達が煩くて葉巻が吸えない。どのくらいここに居たかは分からないが、この部屋と同じ色の煙がそろそろ恋しくなってきた。

「これが落ち着いていられます?」
「傷口から血が吹き出すぞ」
「うっわスプラッタもの苦手なんですよね、わたし」
「知るか」

   へらへらと語るナマエはベッドの中で、その頭部には昨日の交戦中、敵方に成分不明の薬品を浴びせられたとの報告が上がっていた。検査結果に問題はなかったらしいがなるほど、ぐるぐるとミイラのように頭部に巻かれた包帯が痛々しい。

「にやにやしてる理由くらい言え、いつまでもここにいる訳にもいかないんでな」
「ふふ、しょうがないですねぇ」

   たいそう楽しげにくるくると解かれた包帯からこぼれ落ちる栗色の髪――

「ナマエッ!」
「えへへ」

   いつも通りの茶色がかった髪に、脱色したようにごっそり色の抜けた白金の部分が嫌でも目立つ。女の命とも云うそれはあまりにも無残な姿になっていた。

「......薬品か」
「はい。あ、でも髪以外の傷はなくて。全然元気です!」
「それは見りゃァ分かるが」
「それに、スモーカーさんとお揃いなんで!ふふっ」

   ナマエは白金をひと房摘みまた笑う。“お揃い”という単語とその幸せそうな顔がおれの鼓動をわかりやすく早めた。

「あァ......その色も悪くねェ」

   色の抜けた髪が伸びるまではしばらくかかるだろう。まだ立場の低いナマエは嫌な思いもするかもしれない。これはいつも以上に過保護になるな、おれは他人事のように透明の息を吐いた。

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