■ バラに咽ぶ

同棲/現パロ

*
「こんなところでどうしたの?」

   いつも通り改札を抜けて信号を渡る、家への帰り道。駅前の花屋をいい匂いだなぁなんて横切ろうとすると、花屋のレジに向かう彼の姿が目に飛び込んできた。
   まさかこんなところに、とは思うけれど毎日見てるんだ、見間違えるはずがない。
   その後ろ姿に釣られるように近づき声をかけると、彼はかなり驚いた様子で振り向く。

「ナマエ......!」
「お仕事早く終わったの?お疲れ様」
「あぁ」
「バラ?だよねその花束。可愛い!」

   何の気はなしに店員さんが彼に差し出した花束をのぞき込むと、赤いバラを基調としたセンスのいい花束。
   こんな花束誰に渡すんだろう?

「......帰るぞ」
「う、ん」

   いつも通り差し出された手を反射的に握ってわたしたちは帰路につく。
   あれはその花束がよく似合うような綺麗な女の人にあげるのかな。彼のことを疑うつもりはないのについそんなことが頭を過ぎってしまう。
   歩いていていつもより口数の少ないわたしに気づいたのか、彼がわたしの名前を優しく呼んだ。

「ナマエ、言っておくが......別にやましいことはねぇ」
「やましいって?」
「......珍しく定時で上がれた。最近のナマエには疲れが溜まってるように見えた。甘いものでも買おうかと思ったがお前は肌荒れを気にしていた。たまには色気のあるもんでも悪かねぇと思って花屋に寄った......それだけだ」
「え」
「食いもんなら喜ぶのは目に見えてたんだが......花じゃ物足りねぇか」
「......」
「ナマエ?......ったく」

   そっか、そうだよね。
   ちょっとでも疑ったことが恥ずかしい。それに元気なかったの、気づいてたんだ。
   じわりと溢れる涙で視界が滲む。家はすぐそこだから、と我慢したくても涙は止まってくれなくてぽろぽろと落ちた雫はアスファルトに吸い込まれる。
   彼もまさか泣かれるなんて思ってなかったんだろう、一瞬固まってポケットからシワになったハンカチを差し出してくれる。それを遠慮なく受け取って目元をごしごし拭うと、いつもの柔軟剤とスモーカーさんの香りがして妙に安心した。

「ぅ、お花っ、嬉しくて、」
「あぁ」
「スモーカーさ、そんなこと、する人じゃないのにっ、」
「......一言余計だ」
「急に泣いてっごめ、なさ」
「ナマエ、分かったから落ち着くまで黙ってろ」
「っく、これ嬉し泣きだから、ね」

   ふわり、彼の手元からバラの香りが漂う。
   わたしは本当に嬉しいとき、言葉よりも先に涙が出ることを初めて知った。


*
お題:診断メーカーさまより

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