■ いつか伝えたい
買い出しに行っていたクルー達が次々に帰ってきて、あとはキャプテンだけ、という待ち時間。わたしは暇を持て余し、せっかくだからと外に出ることにした。
波打ち際に立つと、天気もいいからか海に入りたくなって、すぐに靴を脱いで足の先だけつけてみる。
「つめた!」
さすがに冬の海は寒い。
やっぱりやめておこう。わたしが足を引っ込めたちょうどその時、上から声が降ってきた。
「おーい! ナマエ!」
声を辿って見上げると、ベポが甲板から一生懸命こちらに手を振っている。かわいい。
「ベポー! 海冷たかったー!」
わたしも負けじと手を振り返すと、風邪ひかないでね!と言い残してベポは船内に入ってしまう。
遊んでくれないのかぁ。残念だなぁ。
また暇になってしまったわたしは、手持ち無沙汰に砂浜にしゃがみこんで足元の小枝を拾って落書きをすることにした。
“Pirates of heart”
うまく筆記体で書けた
“ハートの海賊団”
に満足して手の砂を払っていると、後ろから足音が近づいてきた。
「おい、ナマエ」
「あ、キャプテン! おかえりなさい」
なにしてるんだ、と手元を覗き込まれて、わたしは得意げに落書きを指さした。
「見て!」
「......バカ、御丁寧に名前書くやつがいるか」
冷めた目がわたしをため息混じりに見下ろしている。あ、怖い。
「う......返す言葉もございません」
自信作だったんだけどなぁ。と思っていると、さっさと消せと頭を小突かれる。痛い......!
「キャプテンやめて! バカになっちゃう!」
「とっくになってるだろ」
咄嗟に噛み付くわたしに、キャプテンは呆れたように吐き捨ててすたすたタラップへ歩き出す。
「あ、待って!」
わたしは慌てて落書きを消し、でもキャプテンに見えないように隠していた落書きだけは消さずに、後ろ姿を小走りで追った。
お願い、しばらくはあの落書きが波に呑まれませんように。
タラップの手前で立ち止まったわたしは、祈るように砂浜を振り返った。
“キャプテン だいすき”
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