職場体験はなんとか無事に終了した。
凛の脚の怪我は緑谷ほどではなく、6日目には職業体験に戻ることができた。
お世話になった礼を言うと、エンデヴァーは『卒業後、うちに来ることも考慮しておこう。励みたまえ』と言ってくれた。
凛にとって職場体験は、大変なこともあったがなかなか実りあるものになった。

「ただいま」
「凛ちゃん!おかえり!ヒーロー殺しと遭遇した聞いて肝が冷えたよ。脚は大丈夫かい?」

帰宅すると、オールマイトが本当に心配していたようで、リビングからダッシュで玄関までやって来た。

「ああ。万全とは行かないまでも、十分動ける。明日の朝リカバリーガールに頼んでみるつもりだ」

「それがいいね。じゃあ凛も疲れてることだし、さっそく夕飯にしようか。1週間ぶりということもあって、今日は腕によりをかけて作ったんだよ」

ムキッとトゥルーフォームで渾身の力こぶを作ったオールマイトに凛はふふっと小さく笑った。

「ああ。楽しみにしてる」


―――


「凛ちゃん。ちょっといいかい?話があるんだ」

食事を終えて、一息ついているとオールマイトが話しかけて来た。
彼の表情があまりにも真剣で、凛も思わず姿勢をピンと伸ばし、両省の意味を込めて頷いた。

「ヒーロー殺し。奴は私に少し似ている。奴は周りを圧するほどの強い思想を持っていた。これに感化される人間は必ず現れる。良くも悪くも抑圧された時代だからね。そして奴は凛ちゃんも知っているだろうが敵連合と繋がりがあったんだ。以前までだだのチンピラ集団に思われた集まりが、そういう思想を持った集団だと認知される。つまり、受け皿は整えられていたんだ。個々の悪意が集まり、甚大な大きさになろうとしている。こういうやり方に覚えはないかい?」

着実に外堀を埋めて、自分の思惑通りに状況を動かそうするやり方は十分なほど凛は覚えがあった。
あのUSJで感じた一抹の不安はこのことかと、凛は目を鋭くした。

「オールフォーワンが再び動き始めたということか…生きてたとは…」

「私もあの怪我で生きていたとは、思わなかった。…改めて聞くけど大丈夫かい?」

オールマイトの言葉に凛は、全てを聞かずとも彼が何を言いたいのかよくわかった。
自分の過去にオールフォーワンは強く関係しているのだから。

「このままヒーローを目指せば奴に近づくことになるって事か?大丈夫だ。私がヒーローを目指す気持ちは入学当初から変わらない。今の私は色々な人に支えられ、教えられ、皆がいるから私の強さがある。昔の私と同じ目にあっている人を救うためにヒーローになるんだ。奴のような敵に立ち向かう心はとっくにできてる。皆がいるから大丈夫だ」

凛の言葉に安心したのか、オールマイトは何も言わずに何度も凛の頭を優しく撫でた。
嬉しさ、誇らしさ、信頼、全てを込めるように。

「緑谷少年には明日話そうと思ってる。凛ちゃんも彼を支えてあげてくれ」

「ああ。任せろ」

オールマイトの言葉に凛は、間髪入れて答えた。
しかし、彼にもまだ秘密にしていることがあった。彼を支えて欲しいと言ったのは、一緒にということではない。
自分がきっと緑谷がオールフォーワンと対峙する時には、そばにいられないからだということを。

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