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一夜明け、保須総合病院
男子組は同じ部屋になったらしいが、凛は女子だったため1人だけ個室に入れられていた。
さすがに、寂しいなと思って轟たちのいる病室に行こうかと思った時、コンコンとノック音が鳴った。
誰だろうかと思って返事をすると、入って来たのは話したいと思っていた人物だった。
「グラントリノ!久しぶり!」
「おお!元気にしてたか。と言っても今は怪我人か。ほれ、見舞いのたい焼きだ」
「ありがとう!まさか久しぶりに会うのが病院になるなんて私も思わなかった」
凛とグラントリノは知り合いだったのだ。
もちろんオールマイト繋がりで知り合い、凛の過去を知る1人でもあった。
凛のことをずっと気にかけてくれて、彼女にとっては祖父のような人物で、グラントリノも実の孫のようにかわいがっていた。
「父さんから聞いてたんだ。緑谷の職場体験先になったって。父さんの指導不足やなんやで指名したんだろ?緑谷の動き見違えるように変わっていて驚いたぞ」
「まぁな。でもあそこまで自分で答えを出したのは小僧だ。俊典もなかなか良いやつを見つけたな」
凛は、グラントリノが緑谷を褒めるのをまるで自分のことのように嬉しくなった。
滅多に人を褒めない人なだけになおさら。
「このまま緑谷の見舞いに行くのか?」
「そうだったそうだった。凛も一緒に来い。話がある」
何かを思い出すように話すグラントリノを不思議に思いながらも車椅子に乗り、彼についていくと保須警察署署長・面構犬嗣と飯田の職場体験先のマニュアルがいた。
署長がいるのを見て、なんとなく話の内容を察した凛は黙ってついていくことにした。
着いた先は、轟たちの病室だった。
「おおォ!起きてるな。怪我人ども!」
グラントリノとマニュアルが入って来たことにより、体験先の2人は声をあげた。
その2人の元気な声を聞き、凛は安心し笑顔で後ろからひょこっと顔を出した。
「おはよう」
「おはよう。って八木さん車椅子!?大丈夫なの!?」
凛が車椅子を使っていることに緑谷は心配で慌てたが、彼女は安心させるように微笑んだ。
「怪我はそんな大したことない。ただ、ちょっと急ぎらしくてスムーズに来れるように今だけ車椅子にしたんだ」
急ぎとはと凛の言葉に緑谷が首をかしげると、面構が入って来た。
簡単に挨拶を済ませると彼は早速本題に入った。それは、凛の予想していた内容だった。
ヒーロー殺しは、なかなかの重症らしく現在治療中である。
個性は容易に人を殺められる力だが、ヒーローが公に使えるのは先人たちがモラルやルールを遵守して来たからだ。
つまり今回のように資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えたことは、たとえ相手がヒーロー殺しでも立派な規則違反なのだ。
凛たち4人監督していたプロヒーロー3人には、厳正な処分が下されるのは免れない。
しかし、轟はこれに異を唱えた。
「待ってくださいよ。飯田が動いてなきゃネイティヴさんが殺されてた。緑谷が来なきゃ2人は殺されてた。誰もヒーロー殺しの出現に気付いてなかったんですよ。規則守って見殺しにするべきだったって!?」
「結果オーライであれば、規則などウヤムヤで良いと?」
面構の言葉に轟は正論だったため、一瞬言葉に詰まった。
「ーーー…人をっ…救けるのがヒーローの仕事だろ」
「だから…君は卵だ。まったく…良い教育をしてるワンね。雄英も…エンデヴァーも」
「この犬ーーー…」
「轟落ち着け。もっともな話だ」
面構がなかなかに轟の地雷を踏んだため、彼が怒りで一歩前に出るのを凛は止めた。
彼女自身、面構と会った時から話の内容は予測がついていたものの、彼がそんなに悪い話を持って来てるような顔に見えなかったのだ。
それを裏付けるように、グラントリノが轟を止めた。
「まぁ…話は最後まで聞け」
「以上がーーー…警察としての意見。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン」
公表した場合、世論は褒め称えるだろうが処罰は免れない。
一方公表しなかった場合、ヒーロー殺しの火傷跡からエンデヴァーを功労者と擁立してしまえば、目撃者は限られているため違反は握りつぶせるのだ。
「だが、君たちの英断と功績も誰にも知られることはない。どっちがいい!?1人の人間としては…前途ある若者の偉大なる過ちにケチをつけさせたくないんだワン!?」
凛たちに迷いなどく、頭を下げた。
面構が大人として凛たちを認め、護ってくれようとしてくれていることは十分伝わって来たからだ。
「よろしく…お願いします」
「大人のズルで君達が受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが…せめて共に平和を守る人間として…ありがとう!」
轟は食いかかってしまった手前、気まずそうにしていたが、凛たちは顔を見合わせて遠慮がちに笑った。
―――
麗日との電話から戻って来た緑谷が笑顔で飯田に話しかけるが、病室の空気はどこか重かった。
その場にいなかった緑谷に凛が伝えるために口を開いた。
「緑谷。飯田、今診察が終わったとこなんだが」
「左手、後遺症が残るそうだ」
て指が動かしづらかったり、少し痺れが残るものであるがヒーローにとったら、それがない方がいいのは当然である。
幸い、手術で治る可能性があるらしい。
「ヒーロー殺しを見つけた時、何も考えられなくなった。マニュアルさんにまず伝えるべきだった。奴は憎いが…奴の言葉は事実だった。だから、俺が本当のヒーローになれるまでこの左手は残そうと思う」
飯田が受け入れ決意したことに緑谷は思わず出そうになった謝罪の言葉を飲み込み、代わりに力強く手を握った。
「僕も…同じだ。一緒に強く…なろうね」
しかし、それを見た轟が急に冷や汗をだらだら流しはじめたので凛は不思議そうに見た。
「なんか…わりぃ…俺が関わると…手がダメになるみてぇな…感じに…なってる…呪いか?」
予想の斜め上をいった言葉に、凛たちはツボに入り腹を抱えて笑ってしまった。
「あっはははは。何を言ってるんだ!」
「轟くんも冗談言ったりするんだね」
「いや、冗談じゃねえ。ハンドクラッシャー的存在に…」
轟は真面目なのだが、ハンドクラッシャーというパワーワードにもう凛たちの笑いは止まらなかった。
「轟大丈夫だ。ほら、私の手は壊れてないだろ」
凛は笑いで出て来た涙をぬぐいながら、轟の手を握った。
轟は一瞬固まったかと思うと、恐る恐るその手を握り返した。
何回か彼女の手を確かめるように揉むと、彼はふっと小さく笑った。
「そうだな。八木だからかもな」
轟の言葉に、今度は凛が固まる番だった。
そんな2人の甘い雰囲気を初めて見た緑谷と飯田は見てていいのかだめなのかわからず、気まずそうにしていたという。
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