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最終種目が始まる前にレクリエーションが行われた。
最終種目に参加する16名は参加自由だったため、体操服に着替えた凛は会場外で休もうとスタジアムを出た。
「ん?あれは…」
そこには、一目見て誰だかわかる紅白頭の持ち主、轟が寝ていた。
さすがに初戦で当たる相手ということもあり、あまり接触しない方がいいかのかもしれないと思いその場を離れようと思った。
「う…せいだ…」
しかし、何やら魘されているようで凛は放っておくことができず轟に近づいた。
「おい、轟?」
「せいだ…お前のせいだ…クソ親父…」
とりあえず起こそうと体をを揺らしたが、聞こえて来た言葉に凛の手は止まった。
「う…行かないで…お母さん!」
その言葉と共にパシッと凛の手が掴まれた。
轟もそれと同じタイミングに目を覚まし、呆然と繋がれた手をしばらく見つめていた。
「…轟?」
「あ、悪りぃ」
凛は心配になり彼に声をかけたが、はっと凛の事に気付いた轟はすぐに手を離そうとした。
しかし、離れなかった。
なぜなら、轟の手を今度は凛が強く握ったからだった。
表情少なげにも、困惑する表情を滲ませる轟に凛は、深く息を吐いて意を決して轟を真っ直ぐ見つめた。
「なんで…左を使わないんだ?」
凛は、今まで轟と過ごして来た情報を繋ぎ合わせて、1つの可能性を見出していた。
父エンデヴァー、使われない炎の個性、エンデヴァーが持たない氷の個性、個性は親のが複合するかどちらかが備わるか、母親。
轟は父親であるエンデヴァーと母親の個性を持って生まれ、その父親と何か確執がある。
それに母親が関係していて、だから決して左側を使わないのではないかと。
部外者の自分が介入することはお節介以外何者でもない。
それでも聞かずにはいられなかった。
轟の暗い炎を晴らしたかったからだ。
凛の言葉に轟は目を見開いた。
凛の真剣な表情に、話すという選択もあったのかもしれない。
しかし、轟は漠然と嫌だと思った。
父親とのことを、この黒い感情を知られたくないと。
轟はフッと目をそらし、手を振りほどいた。
パシッと小さく乾いた音が響いた。
「八木には関係ぇねえだろ」
轟はそのまま去って行ってしまった。
凛は、振りほどかれた手をぐっと強く握りしめることしかできなかった。
―――
最終種目が始まった。
1回戦の第1試合は緑谷VS心操
心操の個性『洗脳』にかかってしまった緑谷だったが、土壇場でワンフォーオールを暴発させて指を犠牲にし、洗脳を解いたのだった。
その時の緑谷のどこか困惑した顔が気になった凛だったが、試合はどんどん進んでいき緑谷が勝利した。
2人の間で思うとこがあったのか、終わった2人はどこか満足そうな顔をしていた。
そして、いよいよ第二試合。
凛と轟の試合が始まる。
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