人形姫 番外編1-2*


「あぁ、こんな時間……」

今日中に終わらせなければならない仕事を片付けていたら、こんな時間になってしまった。外に出れば忍犬もカカシも誰もいない。任務できっと忙しいのだろう。
この世界に来たばかりの頃、カカシから夜は出歩いちゃ駄目だと言われている。急ぎ足で名前は家に急ぐ。街灯があるとは言え、住宅街に入れば人も少なく心許ない。
不安がそう勘違いさせるのだろうか。先程から誰かがついてきているような気がする。いつもは視線を感じるだけなのに、今日は足音が重なり、自分が止まると向こうも止まる。

怖い。心臓がバクバクと暴れだし、もつれそうな足を必死に動かした。名前の早歩きに合わせて、やはり足音がついてくる。

「名前ちゃん?」
「り、リンドウさん……」

花屋の店員の男だった。リンドウは名前の顔を覗き込んで、心配そうに眉を下げた。

「大丈夫ですか?」
「は、はい。すいません、暗くて怖くなってしまって……」
「名前さんみたいな可愛い女の子は危ないですからね。送ります」
「ありがとうございます」

リンドウに手首を掴まれ、名前は一瞬驚いたが善意を踏みにじる訳にも行かず、大人しくついて行く。

「あ、あの」
「どうかしましたか?」
「家はあっちです」
「そうですか」

リンドウは優しい笑みを浮かべたまま、名前を無視して家とは反対の道を進んで行く。おかしいと感じた名前は、腕を振り払おうとした。しかし、それ以上に強い力で更に握られる。リンドウの爪が名前の手首に喰い込んだ。リンドウが自分の花屋の前で立ち止まる。

「着きましたよ」
「え?お店……」
「これからは、君を離さない」
「え?」

物凄い力で体を引っ張られた。掴まれた腕が折れてしまったのではないかと思うほどの痛みが走る。抵抗をしようと藻掻けば、ぱっと手を離されて背中から地面に倒れてしまった。
受け身も取れず、硬い地面に背をうちつけ、痛みで呼吸すらままならない。ハッ、ハッと絶え絶えの息をあげる名前をリンドウは優しく細められた目で見下ろす。いつもの優しい笑顔が今の名前には恐ろしく感じた。
再び腕を掴んでくる手に必死に抵抗しようと出来うる限り暴れ、声をあげた。が、それはリンドウにとって小動物が威嚇してくるのと変わらない可愛いもののようだった。薄笑いを浮かべながら、名前の足を掴み店の中に引き摺り込んだ。

「やめて!」
「うん、そうやって悲しそうな声を聞かせて」

今まで聞いた事もないくらいに抑揚のないリンドウの声。

「大丈夫、僕だけのものにしてあげる」

引き摺られた先で、視界が明るくなる。電灯に目が眩み、真っ白な視界が適正な明るさになった時、見たことのない世界が広がっていた。

「どう?綺麗でしょう?」

所狭しと店いっぱいに飾られた花々、その鉢の合間には写真立てが点在していた。リンドウは写真立てをひとつ手に取り、名前によく見えるようにそれを目の前に持ってくる。

「やっぱり、名前は悲しい顔が一番可愛い」

三代目の葬儀で涙を流している名前の写真だった。よく見れば傍らのカカシが見切れている。

「アカデミーの卒業式で花を届けた時、名前、君を見掛けて僕は一目で好きになった。卒業生を見送る君の泣き顔が可愛くて可愛くて、僕はこの泣き顔を一生守って行こうと思ったんだ……ん?僕が怖いの?僕のことが好きなのに?」
「カ、カカシ……」

名前の顎を強引に掴みかかる。

「嫌だなぁ、僕の前で他の男の名前をだしちゃ駄目だよ。僕にヤキモチを焼かせたいの?」
「い、いや……」
「すぐに楽にさせてあげる」
「カカシ……助けて……」
「だから、他の男の名を言うな!」

それまで薄笑いを浮かべていたリンドウの表情が般若のように歪んだ。名前の髪を掴み引っ張り上げた。

「痛い!やめて!」
「うんうん、なんて名前は可愛いんだ。もっと可愛くしてあげよう」

ハサミが収納されている棚から、リンドウはひときわ大きなハサミを取り出す。名前に馬乗りになって、その冷たい刃を名前の頬にペチペチと当てた。恐怖に震えて、名前の歯はガチガチと音を鳴らし、目からは涙が勝手に溢れる。

「どこがいいかな?」

刃先が頬、首筋、鎖骨に触れて、胸の上で止まる。僅かに開いた刃先がブラウスをチョンと切った。

「名前は、きっとどこを切っても可愛いんだろうね」

リンドウの手が名前の口を塞ぐ。目の前のリンドウは、全く名前の知る彼では無かった。口を歪ませながら、名前の泣き顔を喜び、傷付けようとしている。

「決めた」

ハサミが構えられ、先ほど切られた隙間にハサミが差し込まれる。リンドウがハサミの刃を重ねようとした瞬間だった。

体が吹き飛びそうなほどの衝撃が2人を襲う。獣が唸る声と、バチバチと高く鳥が鳴くような音がする。ガラガラと鉢やバケツが倒れて、花とバケツの水が名前に降りかかる。馬乗りになっていた筈のリンドウの姿は消えていた。花が邪魔をして何も見えない。でも、助かった、そんな気がした。

「名前!大丈夫か!?」
「カカシさん……」

名前に覆い被さっていた花を退かしてくれたのはカカシだった。ビショビショに濡れた名前を抱き上げて、大きな胸で包み込んだ。名前も必死に手を伸ばし、ベストに爪を食い込ませた。

「遅くなってごめん」

カカシの胸で涙を拭けば、リンドウの叫び声が聞こえた。

「邪魔をするな!僕と名前は愛し合ってるんだ!」

名前が思わずリンドウの方へ顔を上げようとした。しかし、それはカカシが更に強く抱き締めてくることで阻止される。

「名前は見ない方が良い」

カカシの手によって耳を塞がれる。カカシによって視覚も聴覚も塞がれた。名前には何も聞こえなかった。





リンドウの身柄は拘束され、地下にある牢屋に投獄された。一般人に手を出した元忍、リンドウの身がどうなるかなど、名前には決して知らされることはないだろう。

名前の怪我は、幸いにも痣と擦り傷のみで、病院で消毒を終えると家に帰った。やっと助かったと自覚したのだろう、玄関でうずくまってしまい動けなくなってしまった。カカシは温かい風呂を入れると名前を連れて、髪から体まで甲斐甲斐しく洗ってやる。いやらしい気持ちは一切なく、まるで赤子を世話しているように恭しく世話をしている気持ちだった。
寝間着を着せてやり、髪も乾かしてやり、やっとベッドで寝る態勢にはなったものの、眠気なんてこれっぽっちも出てこないようだ。

「名前……」

泣き出した名前を、カカシは正面から抱き締めた。
カカシは腹の底で、ドロドロとした感情が戸愚呂を巻くのを感じた。警戒していたのに、名前に怖い目に遭わせてしまった。どこの馬の骨か分からない野郎が名前に触れた。その事実がカカシの頭を何度も高速で巡り巡る。

「名前の体を他の男が触れたなんて、正気ではいられないよ」
「ご、ごめんなさい……」
「ううん、名前のせいじゃない。守れなかった俺のせいだよ」

カカシは名前の手首に出来た痣にキスを落とす。

「怖かったね……」
「うん、怖くてたまらなかった」

大した怪我もなくて本当に良かった。カカシは涙でぐしゃぐしゃになった名前の顔に唇を滑らせる。名前の涙は海の底のように重く辛く、カカシの舌を痺れさせた。

「カカシさん……」
「全部、忘れさせる」
「うん……お願い」

名前がどこまで解ってそう答えたのかは分からない。だが、名前の中からリンドウと言うを男を消し去ってしまいたい。その一心だけがカカシを支配する。名前がカカシの言葉を理解していなかったとしても、カカシは名前を優しさで体ごと包み込んでしまおう、そう思ったのだ。

「名前」

横向きで向き合いながら、カカシは名前の唇にキスをした。
すぐに唇を割り、名前の並んだ歯を舌で舐めた。名前は一瞬驚いたものの、すぐに力を抜いてカカシを受け入れた。
これまで何度だって体を重ねたか分からないが、今日はいつもよりも丁寧に優しく優しく、自分の心が名前に注がれるように舌の先まで神経を尖らせて、内側の柔らかい粘膜を刺激する。すぐに名前の口内は熱くなって、舌を離した時には互いの舌先を透明な糸が繋いでいた。

名前の寝間着のボタンを外し、名前を仰向けにさせるとカカシは覆い被さるように名前の上に重なった。
胸元を覆う小さな布地を取り去れば、名前の愛らしい膨らみがカカシの眼前で震えていた。カカシは名前の額に左手で触れ、顔を覗き込んだ。

「怖くない?」

未遂とは言え、男に襲われた彼女を抱くことに抵抗がなかったと言えば嘘になる。自分の行為が彼女の恐怖を思い起こさせるのならば、止めることだって。

「カカシさんだから平気……」

名前の右手がカカシの左手に重なり、ぎゅっと握った。

「俺は全然平気じゃないよ」
「?」
「俺だけの名前なんだ。平気じゃないよ」

もう一度唇にキスをしてから、カカシは舌を顎から首筋、肩に伸ばし、膨らみの輪郭をぐるりと舐めた。チュッと吸い上げながら、何度も舌と唇で曲線を堪能する。唇を離せば、所有痕がたっぷりとついていた。普段よりもしつこくつけられた痕は、自制の利かない独占欲そのものだった。
紅くつけられた痕の真ん中の果実が、カカシに触れてもらいたいかのように硬く熱く膨らんで大きくなっている。
カカシは蛇のように舌をちろりと伸ばし、その真っ赤に膨張した果実の先っぽに触れた。
やっと触れられた刺激に名前の体は震え、甘い吐息が漏れ出る。普段は桃色の果実が今は真っ赤に熟れている。舌と唇でこねくり回せば、名前の腰が捩れた。
カカシは唇を下へ滑らせて行く。指を引っ掛けて、下に着ていたものも脱がしてしまえば名前は両手で顔を覆った。

「恥ずかしい?」
「んぅ、ちょっと、だけ」

名前の片手をどかせば、目が合った。熱を帯びた瞳に、名前も興奮しているのだと分かった。

「大丈夫、すぐに良くなるよ」

カカシの体が名前の上から退いて、足の付け根に舌を這わせた。すぼめさせた舌先で、割れ目を上下になぞる。既に濡れた名前の割れ目から唇を離せば、甘い香りの粘液が、カカシの唇に糸をひく。舌でその糸を舐め取ってから、息を整える。今度は、割れ目の上にある小さな尖りへと舌を伸ばした。
カカシの髪が名前の内腿を擽った。カカシの中指が、唾液と粘液で濡れ切った名前の柔らかな場所に侵入する。ゆっくりと抜かれ、また押し入れられる。緩慢とした動きは、名前のお腹にキュンと淡い疼きを募らせて行く。カカシに呆れられてしまうのかと思うほど、カカシが欲しいと体の奥が求めている。

「カカシ……」

いつもの声よりも、猫みたいに息を含んだ声で名前を呼ぶ。カカシは指の動きは止めずに、顔だけを上げて名前を見詰め微笑んだ。

「可愛いね」

親指が名前の尖りをクニリと潰した。舌から受けた刺激より強い刺激に、名前は甘い悲鳴をあげた。割れ目からは止めどなく蜜が溢れ、名前の内腿とシーツ、それからカカシの指まで濡らしていた。

そろそろ紳士でいられる限界が近付いて来たみたいだ。
カカシは、名前の膝裏を持ち上げて左右に開いた。前に興奮して大きく開きすぎてしまい、恥ずかしいと怒られてしまったのを思い出す。控え目に開いた割れ目に向かって、体を押し付けた。

お互いの口から「あっ」と息が漏れた。

カカシを包み込む熱い名前の内側、体の中に入ってくる大きなカカシ。互いに触れ合う場所に体中の神経が行ってしまったかのように、大きな快感が2人の間を駆け巡った。

何度も重ねた体、カカシは名前の弱い所を自らの体で刺激をする。腰を奥まで押し付けて、奥だけを刺激するように少し強く揺らせば名前の奥から更に蜜が溢れ出た。

「あ……!」

名前の白い喉が仰け反る。カカシの目は、その細く汗の流れる喉に魅せられた。
気持ち良さを必死に耐える濡れた睫毛、誰にも聞かせてやりたくなんてない程甘くて可愛い声を漏らす唇、カカシの腰の動きに合わせて揺れる胸の膨らみとその真っ赤な果実も、全てが魅力的でこの上なく愛おしい。両手で胸の膨らみを掬い上げ、果実を指で転がした。それだけで名前の悲鳴は大きくなり、カカシの体を更に熱くさせた。

「名前」

カカシが名前の名を呼び、名前は必死に瞳を開けてカカシを見た。視界に映ったのはこの上なく憂いを含んだ男の顔。半開きの唇からは、時折男の快楽を含んだ低く響く吐息が漏れる。
名前も答えようと唇を動かしたが、激しいカカシの動きに押されてただの嬌声に変わってしまった。

カカシが両肘を名前の横に着いて、腰を折り曲げると名前の唇に唇を重ね、舌を絡ませた。
そして、カカシの動きが激しく前後に揺れ、彼も限界なのだと名前に知らせる。肉体同士がぶつかり合う音と名前の蜜が掻き回される水音、2人の声にならない息だけが空間に響いていた。

「名前」

悲鳴のようなカカシの声。名前は睫毛越しに見えるカカシを必死に見つめた。カカシは名前にニコリと優しく微笑むと、名前の頭を腕の中に抱き込んだ。

「君を、もう、傷付けさせやしない」

耳元で囁かれた時、名前の体は痙攣とも取れるほど大きく震えた。それを追うように、カカシの体も震え動きを止めた。
名前の内側を流れるカカシの熱が、名前の中を満たしていく。この上なく愛おしい、名前の頭にその言葉が浮かんだ。

「はぁ……」

カカシは大きく息をついてから、名前の隣に寝転がると名前の体を抱き寄せた。
汗で濡れたカカシの胸に、名前は自らの頬を寄せた。舌をチロリと出してカカシの汗を舐めれば、じんわりと頭が甘く逆上せた。

「ちょっと、それは反則」
「ん?」
「名前に舐められたら、何回戦でもいけちゃうよ」

そう言われて、自分が無意識にしてしまったことに恥ずかしくなった。

「カカシさんのことで、頭いっぱいになっちゃったの」
「俺もだよ」

さっきまでの恐怖心が嘘のように消え去って、今はカカシの優しさだけが名前を満たしていた。

「シャワー浴びる?」
「まだ、このままが良いです」
「ん、実は俺も」

もし、あの時自分が間に合わなかったら……。いや、そんなことは考えても仕方ない。

八忍犬を使っている時を狙われてしまうなんて不覚だった。任務を終えた時には既に空は暗くなっていて、急いで帰って来たものの、家に名前はおらずアカデミーの職員室ももぬけの殻。
名前の匂いを辿り、匂いの濃度が高まるに比例して血の匂いもして来た時には、自分が直視できる覚悟があるのか?と自分の心に問い質し続けていた。
花屋の窓の向こうで、名前に馬乗りになる男の影が見えた時には頭が真っ白になって飛び込んでしまった。それからは、影分身がしたこととはいえ、彼女には見せられないような、上忍らしからぬ醜い戦いをしてしまった。

「名前ー」

胸に肌を寄せていた名前の両脇に手を入れて抱き上げる。名前は慌てて、両手で胸を隠した。

「カカシさん!?」
「ちょっと休憩」

カカシは、溜息と言うにはまだ足りない小さな息を吐いてから、名前の胸に頬を寄せた。カカシが知る限り、ここが一番優しくて落ち着く場所だ。名前も手を退かし、カカシの頭を優しく抱き込んだ。

「カカシさん、ありがとうございます」
「ん、いいの」
「私、カカシさんを好きになれて嬉しいです」

カカシは名前の谷間にさらに顔を寄せた。そして、小さな声で、俺もだよ、そんな声が聞こえた気がした。




あとがき


人形姫 番外編1-2* end.
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