俺が君に出来る事1




「ねえ、俺は名前のことが好きだよ」

ああ、まただ。名前は心の中で呟いた。
上忍に昇格して最初の任務でカカシと出会ってからというもの、会う度にカカシから愛の囁きを受けていた。
自分は、お人形のような顔を持っている訳でもなく、豊かに実った胸を持っている訳でもなく、カモシカのようにスラリとした脚を持っている訳でもなく、陶器のように美しい肌を持っている訳でもない。
それなのに、モデルのような長身、優しくあっけらかんとしながらもミステリアスな雰囲気を纏い、天才と幼き頃から呼ばれ、里の全ての人々から信頼される実力と人柄を持ったカカシが何故、自分をこんなにも口説いてくるのか。名前には理解できない。

きっと、からかってるんだ。

色んなことを想定したが、それが一番合点が合う。カカシに似合うのはもっと美しく思慮深い才色兼備の女性なのだから、本気だなんて有り得ない。
カカシの窪んだ彫りの深い瞳でみつめられながら、名前はおずおずと口を開いた。

「そんなに私をからかわないで下さい……」

名前の言葉を聞いて、カカシは左目を覆う額当てに手を当てて、うーんと眉間に皺を寄せた。

「んー、どうしたら信じてくれる?」
「はい?」
「俺が本気だってこと」

正直、こんなに女の子を口説いたことだって、一目惚れをしたことだって初めてなんだ。名前を困らせて本当にごめん。
そう言ってカカシは項垂れた。普段の任務では決して見せないような弱腰を隠す余裕もなくなった様子を、名前に見せる。流石にこんなに落ち込まれてしまうとは想定しておらず、名前は慌ててカカシの項垂れた頭を起こさせた。

「カカシ先輩、本気なんですか?」
「うん、本気で本気。名前が信じてくれるなら何でもやるよ。何でも俺に言って。世界一周して名前が欲しいもの全部持って来てみせるからさ。名前がイエスって言うまで諦めないよ」

カカシの台詞にむず痒くなる。今まで男性にアプローチされたことがないわけではない。だが、こんなに素敵な人にこんなに情熱的にアプローチされたのははじめてのことだ。
それに、大先輩のカカシを試すなんて、名前にはそんな勇気持ち合わせていない。

「私、カカシ先輩を信じます」
「ほんと?」
「はい」

先輩に根負けしました、勝てそうにありません、その言葉はぐっと飲み込んだ。

花が咲いたかのような笑顔を見せたカカシは、そこから更に名前へ愛を囁くようになった。周りに人がいようが、名前に寄り添い今にもキスをしてしまいそうなほどに近い。名前は勿論その度に驚き慌てるが、それ以上にずっと幼い頃からカカシを見てきた同期達のほうが驚いていた。突如大っぴらに愛情表現をしているのだから。

「名前、今日は空いてる?」
「はい。先輩は任務続いてるのに大丈夫ですか?」
「名前ったら俺の心配してくれるの?俺は名前に癒されるから」

同期達の白い目も気にすることなく、おそらくは気付いていないであろうカカシは名前の背中を押して報告所から出て行った。


「今日も美味しかったです!」
「良かった」

名前はごちそうさまでした、と手を合わせる。普段ならここで送るよと言って帰るのだが、折角のふたりきりの時間が終わるのも淋しいものがある。
それに、もうこの関係もそろそろ次の段階を踏んでも良いのではと考える。
お互い成人しているし、手も繋いだし、キスだって既に数え切れないほどした。カカシは、下心を隠すように首元で皺になっていたマスクを上げた。

「ね、名前。今夜は俺の家に来ない?」
「は、はい?」
「いや、名前とバイバイするの淋しいからね、一緒に帰ったら淋しくないかなって」

本心だったが、名前には苦しい言い訳に聞こえたかも知れない。嫌われないだろうかと、内心ドキドキしながらカカシは名前の手を握る。

「先輩のお家、行ってみたいです」
「じゃあ、行こっか」

初めて踏み入れるカカシの家。カカシは鍵を開けて、名前に向かって扉を開けた。

「何もないけど、どーぞ」
「お邪魔します」
「適当に座って」

ソファーに座った名前にお茶を渡し、カカシも隣に座る。他愛のない会話をしていれば、時計が遅い時間を指す。

「風呂入っておいで、シャワーで大丈夫?」
「大丈夫です!カカシ先輩は?」
「名前の後に入るよ」

カカシに手渡されたパジャマと下着を持って風呂場に立つ。

「どうしよう……」

これはこう言うことだよな。頭から熱めのシャワーをかぶりながら高まる緊張をどうにかしようと試みる。カカシと離れるのが寂しくて付いてきて、すっかりそんな事抜けていた。

今夜、私達は一線を超えるのだ。名前は念入りに体を洗った。

「よし!」

意を決して着替えたものの、随分とサイズが大きい。袖と裾を幾重にも折り畳んだ。ズボンが大きくてずり落ちそうになる。腰のゴム部分を掴みながらカカシの待つ部屋に行けば、カカシはソファーに座って本を読んでいた。

「シャワーありがとうございました」
「ん?あ、ああ、俺も入ってくるよ。先に寝てても良いからね」

カカシに言われた通りにベッドに入って目を瞑る。視覚が遮断されて、聴覚が研ぎ澄まされる。カカシがシャワーを浴びる音がする。水がバタバタと落ちて、キュッとコックを捻る音。風呂場のドアが開く音。しばらく無音が続いた後に、ドライヤーの風の音がする。
カカシの足音がして、ベッドがギシリと揺れた。

「寝た?」
「お、起きてます」
「緊張してる?」
「少し……」

少しだけ?とカカシが笑い、名前の上に覆い被さる。顎を掴まれて見つめられる。

「俺はね、凄く緊張してる」

唇が重ねられて、すぐに舌が名前の口内に侵入する。カカシの舌が名前の歯列をなぞり、舌の裏から上顎まで擽る。名前の息が熱くなって来たのを確認して、パジャマの上から胸の膨らみを手の腹で弄り始める。
名前の肩がビクンと跳ね上がり、カカシは胸元のボタンをひとつ外すと中に手を侵入させた。

「ま、待って!」
「いてて」

名前が突然慌て始め、カカシの顎を両手で押し退けた。思わず舌を噛みそうになった。

「どうしたのよ」
「笑わないで聞いてくれますか?」
「なーに?」
「あの、私……まだしたことなくて」
「え?」
「だから、やっぱり勇気が出なくって」

引きますよね、ごめんなさい、と名前は涙目になった。
名前の年齢なら経験が既にあったり、中には色の任務で経験済みの者が多くてもおかしくない。そんな中、名前が処女を大切に守ってくれていたのだ。カカシは名前の初めての男になれる喜びに密かに拳を握る。
名前と付き合えただけでも夢心地なのに、その上名前の初めての男になれるのだ。カカシとしてはこの上ない。

「いくらでも待つから。驚かせてごめんね」
「カカシ先輩、ごめんなさい」
「どうして謝るの。俺は名前が一番大事だよ」

と、かっこつけたものの、かなり苦しいぞ、これは。既に元気になってしまったソコが名前に当たらないように腰を引く。流石の名前でも気付く。

「手、繋ごっか」
「はい」

暫くこれで我慢出来るだろうかと想像をすれば、溜息しか出てこない。

頑張れ俺の理性。カカシは自分を密かに鼓舞し続けた。



2へ続く……




俺が君に出来る事1 end.
prev next

[back]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -