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「海列車は運航中か。昼の便と夜にもう一本出るのか。この悪天候の中を“エニエス・ロビー”行き午後11時。すげェな海列車ってのは……」
「ロビンもしかして……」
「海列車に乗っちゃったのかな。」

アクア・ラグナが来るというのに夜に出発する海列車の事も気になるけれど、それよりもロビンがもうすでに海列車に乗っているかもしれない方が気になった。

「乗ってたら厄介さは最悪のレベルだな。このウォータセブンだけでも広すぎて手に追えねェのに……」
「どこ行ったんだろうな。おれやっぱり本屋で何か怒らせたのかな……」
「バカ……んなわけねェだろ。」
「あ、もしかしてこの仮面を買ったことに怒ったのかもしれない。」
「アミちゃん、それもないと思うけど。というか仮面持ってきたんだな。」

持ってきていた仮面を頭の上に斜めになるようにつけてくれたサンジは何だか嬉しそうだった。

「とりあえず、町の人に聞いてみようよ………すみません、こういう美人見ませんでしたか?」

新聞にあったロビンの手配書を指差して聞いてみた。子供の頃の写真だけど、これの20年後の写真だもっと美人になった姿くらい容易に想像できるだろう。私が声をかけたおじさんは笑顔で答えてくれた。

「見かけたらすぐ新聞社かガレーラに通報してる。暗殺者とはなァ。」

今、麦わらの一味は厄介なことに巻き込まれている。新聞によればアイスバーグさんを打った犯人が麦わらの一味ということになっているんだ。ロビンが打ったとも思えないし、ルフィ達は昨日全員宿にいたし。手配書がない私達三人は無事だけどルフィやロビンやゾロは大丈夫なんだろうか。

「それにしても……だいぶ人影が減ってきたな……」
「風も強くなってきたよ…」
「みんな避難し始めてるんだ。」

人影のない、川の近くを歩いてロビンを探す。ロビンが出てきた夢も確か川の近くだった気がするのを思い出した。もしかすれば、ここかもしれない。

「おーいロビンちゃーん!!」
「………あっ!」
「?、どうしたアミちゃ………」

川の向かい側にロビンが立っていた。やっぱりここなんだ。ここで、ロビンと別れてしまうことになる。

「どこにいたんだよ!探したんだぞ!みんな心配してる!一緒に宿に帰ろう。いやァ、こっちはこっちで色々あってよ!ゆっくり説明するけど、待ってなよ今そっち側へ回るから!」
「いいえ、いいのよそこにいて。」

ロビンがいる方へ回ろうとするサンジはピタリと止まった。

ーーー私はもう…あなた達の所へは戻らないわ…
「私はもう…あなた達の所へは戻ろないわ……ここでお別れよ。この町で。」

夢の言葉と現実のロビンの言葉が重なった。私の悪夢は阻止することができない。こうなる事をわかっていたのに、何もできなかった。

「ロビン!?」
「何、言い出すんだよロビンちゃん…あァ、そうか新聞の事だろ!あんなの気にする事ねェよ!おれ達ァ誰一人信じちゃいねェし、事件の濡れ衣なんて海賊にゃよくある話だ」

サンジが必死に説得するけれど、ロビンの表情は変わらない。固い決意をした後に見えて、これは何を言ってもきっと聞いてくれないだろう。

「そうね、あなた達には謂(いわ)れのない罪を被せて悪かったわ。だけど、私にとっては偽りのない記事よ。昨夜市長の屋敷に侵入したのは確かに私。」
「え……」
「私にはあなた達の知らない"闇"がある。"闇"はいつかあなた達を滅ぼすわ」

私の脳裏にロングリングロングランドで出会った青キジの言葉が過った。"今日までニコ・ロビンの関わった組織は全て壊滅している。その女一人を除いてだ"ロビンの闇が私たちを滅ぼすというのか。

「現に私はこの事件の罪をあなた達に被せて、逃げるつもりでいる。事態はもっと悪化するわ。」
「どういう事だ!何でそんな事!」
「なぜそうするのかも、あなた達が知る必要のない事よ。」

ロビンは何も教えてくれそうにない。アラバスタから一緒に航海を共にしてきて、ロビンは楽しそうに笑ってた。あれも偽りだったというのか。

「ロビン!嫌だよ!戻ってきて、闇なんて私がっ……私達がなんとかするから!!」
「アミ、ありがとう。」
「え?」

なぜ、お礼を言われたのか。それも嘘なのか。もう何が何だかわからない。けれど、信じたい。ロビンの言葉が偽りであってほしい。

「短い付き合いだったけど…今日限りでもう、二度とあなた達と会う事はないわ。みんなにもよろしく伝えてね。」


ーーーこんな私に今まで、良くしてくれてありがとう。
「こんな私に今まで、良くしてくれてありがとう。さようなら。」

また夢の言葉が重なった。未来を変えることができなかった、だけどこのまま黙ってロビンが去るのを見てるわけにはいかない。すぐに川に飛び込もうとしたらサンジに腕を掴まれた。ああ、そうだ私は能力者だ。サンジに任せて、私はただロビンがどんどん遠ざかっていくのを見てるしかなかった。同じく能力者のチョッパーと共に近くの橋で渡ってサンジとロビンを追いかける。だけど、ロビンは見失ってしまった。

「見失った。」
「ああ。」
「チョッパー、アミちゃん。」

名前を呼ばれ、ずぶ濡れの服を絞るサンジに目線を合わせる。

「ルフィ達と合流して、今あった事全部話して来い。一言一句漏らさずな。」
「サンジは?」
「おれは少し別行動を取る……まァ心配すんな、無茶はしねェから。」

チョッパーと共に首を傾げる。サンジは一体何をするつもりなんだろうか。

「アミ、ロビンはおれ達が嫌いになったのかな……」
「そんなはず……」
「チョッパー、一つ覚えとけ。」

サンジは私達に背を向け、スタスタと歩きながら囁いた。

「“女のウソ”は許すのが男だ。」

その凛々しい背中に息を飲む音が聞こえた。チョッパーはかっこいいと思ったんだろう、少し目が輝いていた。そしてすぐにチョッパーと共にルフィ達を探して歩いた。

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