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誰かが屋上に来る音で目覚めた。一緒に寝たはずのルフィがいなくて辺りを見回すと、ゾロとチョッパーがいた。屋上に来たのはサンジみたいだ。あれ、ルフィがどこだろう。

「せっかく宿とったのに部屋に誰もいねェ。みんな揃って眠れてねェんだろ…。ルフィは?」
「あそこ。」

チョッパーが指差した方向をサンジと私が見ると、ルフィはどこかの屋根の上に乗っていた。その背中はどこか小さくて、何かを考えているように見えた。ルフィから視線を逸らしたサンジは柵にもたれ掛り、煙草に火をつける。そこにゆっくりとチョッパーが近づいた。

「サンジ、どこ行ってたんだ?」
「夜中中、岩場の岬を見張ってた。ロビンちゃんが帰って来やしねェかと思ってよ。」
「帰って来なかったの?」
「ああ、アミちゃん起きてたんだね。どこ行ったんだろうな、何も言わずに…」

サンジとチョッパーの近くに移動して、聞いたら驚かれた。眠っていると思っていたらしい。それはルフィも同じらしく、私の声を聞いてピクッと動くのが見えた。

「おれは今日は町中を探してみようと思う。もし何かあってもこの宿を落ち合い場所にしとこう。」
「お、おれも行くぞ!探しに!」
「私も行くよ。」
「そうか……よし。」

ふと昨日ルフィと交わした約束を思い出す。一緒にロビンを見つけようという約束。だからルフィも一緒に、と言おうとした瞬間に屋上の扉が開いた。ナミはルフィを急いで探していたようで、息が乱れている。

「大変なの今、町中この話で持ちきりで!ルフィ!昨日の夜、造船所のアイスバーグさんが……!」

アイスバーグさんとは確か、この島の市長であり造船会社ガレーラカンパニーの社長だったはずだ。ナミの話によればそのアイスバーグさんが昨夜誰かに打たれて意識不明らしい。

「この都市ではこの上ない大事件よ。」
「あんなにみんなに慕われてるおっさんが……ちょっと行ってみる。」
「待ってルフィ私も行くから!」

アイスバーグさんのもとへ行こうとするルフィと目が合った。私と一緒にロビンを見つけてくれるって、私をあんな未来から救ってくれるって言ったのに。と、私は理不尽にも怒ってしまっていた。

「サンジ!」
「あ?」
「アミのこと、頼んだ!」

そう言ってサンジが返事をする間もなくダーッと走り去ってしまった。

「アミちゃん。」
「何?」
「頬膨らんで可愛いね。」
「ふざけないで!サンジ!」

無意識に頬が膨らんでいたらしい。ツンツンとサンジに突かれて私はとうとう怒り出した。ルフィなんて知らない。ナミとのデートを勝手に楽しめばいいのよ、バーカ。

「おれ達はじゃあロビンちゃんを探しに行くぞ。お前は?」
「……いや、おれはもう少し成り行きをみてる。」

成り行きを見てみるらしいゾロを置いてロビンを探しに行こうと屋上から下に降りていく。私はルフィの事で頭がいっぱいだった。こうなったら私もサンジとのデートを楽しんでやる、そう思って気合いを入れた。

「サンジ、チョッパー、着替えていい?」
「うん、いいよ。」

私は急いで部屋に戻り、大きな鞄の中から服を選ぶ。黒シフォンのノースリシャツに白地に黒のドット柄スキニーを穿いて、白のバンプスを履いた。確かルフィが好きだと言っていたコーディネートだ。ルフィが謝るまで絶対に許さないんだから。

「お待たせ!」
「アミちゃん!最高!!」

倒れそうになるサンジをチョッパーが抱えて、いざロビン探しへと出かける。ルフィの事なんて忘れてロビン探しに集中しないと。それから数分経ったらルフィの事なんてすっかり忘れていた。







ウウウーッとサイレンが鳴る音が聞こえる。それと同時にアナウンスも流れた。

『お知らせ致します。こちらはウォータセブン気象予報局。只今島全域に“アクア・ラグナ”警報が発令されました。くり返します。只今……』

「何だ?」
「アクア・ラグナ?」
「何だろう?」

町中を歩きながらさっきから沢山聞こえる“アクア・ラグナ”という単語に耳を傾げる。三人とも聞いたことがなく町の人に尋ねてみると、なんと高潮のことらしい。この町が海に浸かるほどの高潮で、はやく高い場所へ避難しなければならない。

「あァ、まあ別に今すぐってわけじゃねェから大丈夫だ。予報じゃ今夜半すぎと言ってる。まァ毎年の事だ気ィつけなよ!」

親切なおじさんは笑顔で私達に手を振ってどこかに言ってしまった。その直後に三人で顔を見合わせる。急いでロビンを探しに行かなければならないし、もう一つやらなければならない事がある。この事をきっと知らない人物が一人、海の近くにいるじゃないか。

「おいおい!アクア・ラグナっていう“高潮”がここへ近づいてるんだってなァ!」
「そうそう今日の夜中にはこの町は海に浸かっちゃうんだぞ!この海岸だってどっぷりさ!」
「たっ、大変ね!じっとしてちゃダメ!早く高い場所へ避難しないと!」
「そうそう!早く避難しよう!避難避難!」

考えていた台詞を棒読みで叫んだ私達はちらりとウソップがいるメリー号を見た後走って逃げた。もう一味から抜けてしまったウソップに接触するわけにはいかないと、とった行動だったんだけど、これで大丈夫なんだろうか。

「よし。」

満足気なサンジを横目に、また町中へと戻って来た。ロビンはアクア・ラグナの事を知ってるんだろうか。知らなくても知っていても、はやくロビンに会わなければならない。

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