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チョッパーがウソップの治療をする為に船から出て行ったはずなのに帰って来た。「おれとお前はもう仲間じゃねェんだから、船に帰れ!」と言われたチョッパーは泣いていた。ウソップは本気なんだと改めて思った。
男部屋から戻って来たナミは浮かない顔をしていて、ゾロとサンジは喧嘩を始めるし、もうどうすればいいのかわからない。私は何ができるんだろう。

「アミ、ルフィのとこに行ってあげて。」
「え、でも……何て声をかけたら……」
「あいつはアミが必要なのよ。」

必要にされるのは嬉しいけど、何て声をかければいいのか全然わからない。慰める?励ます?笑わせる?どれも違う気がした。よくわからないまま男部屋へと入ればルフィはハンモックで横になっていた。

「ルフィ………」

私のルフィを呼ぶ声だけが響いた。返事はないけど、私はゆっくりとハンモックに近づいた。何を考えているんだろう。船長として、仲間として、男として考えることは沢山あるだろう。私は無意識に彼を抱きしめていた。ドクドクと一定の速度で刻まれる鼓動を耳に、彼の息を飲む音が聞こえた。

「アミ。」
「ルフィ、私の前くらい弱音吐いてよ。だって、一生傍に置いてくれるんでしょ?これからずっと私にも弱音吐いてくれないの?」

ルフィはガバッと起き上がり私を強く抱きしめた。あと少しで仲間だった人と戦うんだ、辛いだろう。それでもルフィは何も言わなかった。ただ、私を抱きしめる手は緩めなかった。

「ありがとな、アミ。」

私とルフィの体は離れ、二人同時に時計をみた。針は10時をさしていた。ウソップが来る、ルフィはゆっくりと男部屋から出ていく。

「最後まで、みててくれ。」
「泣いちゃダメ?」
「泣いてもいいぞ。」

バタンと扉が閉まった。男部屋に残った私の足はなかなか動いてくれない。こんなにも憂鬱なのは生まれて初めてだ。誰が仲間同士の争いを見たいだろうか。私は意を決して男部屋から出た。

「いやだ……こんなの…」
「ルフィ〜!ウソップ〜!」

ナミとチョッパーの声が聞こえて、慌てて船首の方から二人の様子を伺う。ルフィは真っ黒焦げで、倒れていた。ウソップの息は荒い。どうなってるのか全然わからなかった。

「アミ何してたの!」
「どうしても、動けなくて。ごめん、ちゃんと見届ける。」

まだ足は震えているけど、絶対に逃げない。もくもくと煙が上がる中、ウソップは次の攻撃を仕掛けようとしていた。

「お前はこれくらいじゃ、くたばらねェ。知ってるぞ、ルフィ。」

ルフィも立ち上がるのを見て、ホッと息をついた。このまま倒れたままだったらどうしようかと思っていたから。

「必殺!」
「ゴムゴムの!」
「炸裂サボテン星!」
「銃乱打(ガトリング)」

ウソップの射撃とルフィの拳がぶつかり合う。ルフィは吹っ飛ばされ、ウソップが次の攻撃をしかける。ルフィは反撃をするが、衝撃貝(インパクトダイアル)に衝撃を取られてまた吹っ飛んだ。だけど貝を使った分の衝撃が自分にも帰ってきた。

「どうだ畜生ォォォ!」

ウソップが腕を抑える中、ルフィは立ち上がっていた。ゆっくりとウソップに近づき、腕を後ろに伸ばす。

「ゴムゴムの銃弾(ブレット)」

ルフィの拳がウソップのお腹へと打ち当たった。ウソップは静かに倒れた。知らない間に私の頬からは涙が一滴垂れていた。仲間同士の争いなんて、残酷だ。

「ハァ……ハァハァ……バカ野郎…お前がおれに勝てるわけねェだろうが!!!」

ルフィはそう言うと落ちていた麦わら帽子を拾ってメリー号へと歩いてくる。隣でナミが泣く声が聞こえて私の涙も止まらなくなった。

「………メリー号はお前の好きにしろよ。新しい船を手に入れて、この先の海へおれ達は進む!」

頭の中でウソップとの思い出が流れていく。もう嫌だ、こんなの。どうして争わないといけないの。どうして離れていくの。

「じゃあなウソップ、今まで楽しかった。」

ルフィの言葉が終わった瞬間にチョッパーはウソップの元へ走ろうとするけど、サンジが止めた。

「何でだよ!ただでさえボロボロの体なのにあんな目にあって!」
「ケンカやゲームじゃねェんだ!」
「だから何だ!おれは医者だ!治療くらいさせろ!」

サンジはチョッパーの肩を掴み、壁へと押し付ける。すごい形相で睨み合う二人。

「決闘に敗けて、その上同情された男が、どれだけ惨めな気わ持ちになるか考えろ!!不用意な優しさがどれ程敗者を苦しめるかを考えろ!!あいつはこうなる事を覚悟の上で決闘を挑んだんだ。」

サンジの言葉にチョッパーは何も言えなかった。サンジの気持ちもチョッパーの気持ちも痛いくらいわかるのに私は何も言えない。ルフィがメリー号へと戻ってきて、皆の視線が向く。

「重い…!」
「それが船長だろ、迷うな。お前がフラフラしてやがったら、おれ達は誰を信じりゃいいんだよ!」

ウソップとはもう、仲間じゃない。その現実があまりにも辛くて涙が止まらない。

「船を空け渡そう、おれ達はもうこの船には戻れねェから。」

チョッパーは泣きながら治療に使う道具をウソップの側に置いて戻ってきた。私は足に力が入らなくて、座り込んで泣いた。ナミは顔を隠してるけど、泣いてる。ルフィも……泣いていた。

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