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ボロボロのウソップを連れて帰ってきたルフィ、ゾロ、サンジ、チョッパーは真剣な表情をしていた。 「ウソップ!!」 ナミと共にウソップへと駆け寄る。チョッパーはダイニングにウソップを寝かせ、治療した。 「お金は………」 「フランキーが2億ベリー持って、買い物に行ったらしい。あいつが戻って来ないとわかんねェ。」 お金があっても無くても、メリーは直らない。そうはわかっていても、決断するのはルフィだ。ウソップはまだ目を覚まさない。 「船は………乗り換える。」 「!!、メリーとはここで別れるんだね。」 「あんたが決めたことだから、あたし達はどうこう言えない。でも、ウソップがどう思うか。」 「どう思おうが、乗り換えるもんは乗り換える。」 ルフィの言葉には頷くしかない。麦わらの一味の船長だから、この一味にいる以上従うしかない。けれどウソップはどう思うだろう。あっさりと頷くだろうか、そうは思えない。 「カタログでも見よう。」 ルフィは辛い顔をしない。一味のために一番良い方法を選ばなければいけないからだ。仮にも副船長の肩書を持っているのに、何もしていない。私なんかが務まらない。私に何ができる、私はどうしたい。 「おーい!ウソップが目を覚ましたぞ!」 「ホントか!よかった!」 甲板でカタログを見ていた時にチョッパーの声が聞こえてみんなが笑顔になる。 「んー…帰らねェな、ロビンちゃんは……」 サンジがそう呟くのを聞いて、心臓が大きく跳ねた。言わなきゃ、まだ誰にも話していない予知夢の事。ダイニングに入るとウソップは頭を下げていた。 「面目ねェ!みんな…大事なお金をおれは!!」 「おいおい、ちょっと待て、落ち着けよ!」 「だげど…おれァぜっがぐ手に入っだどんでもねェ大金をみずみずあいづらにィ!!」 「ウソップ、まだ寝てなきゃダメだ!」 大金がフランキー達に盗られた事を話せば、ウソップは自分を責めた。それと同時に心配した、残った1億だけでこのメリー号が直せるのか、と。 「いや、それがウソップ。船はよ!乗り換える事にしたんだ。ゴーイングメリー号には世話になったけど、この船での航海はここまでだ。」 「?、」 ルフィの言葉についていけないウソップは首を捻った。何を言ってるんだ、ルフィはという表情に私は心配になる。ウソップは、メリー号が大好きだから簡単に決められないんじゃないか。私たちも大好きだけど、直せないなら仕方ない。もう眠らせてあげたい。それが本音だった。 「ほんでな新しく買える船を調べてたんだけど、カタログ見てたらまァ1億あれば中古でも今よりデカイ船が………」 「待てよ待てよ、そんなお前!冗談キツイぞバカバカしい。何だ…やっぱり修理代足りなくなったって事か!?おれがあの2億奪られちまったから!金が足りなくなったんだろ!一流の造船所はやっぱ取る金額も一流で……」 「違うよ、そうじゃねェ!」 「じゃ何だよ!はっきり言え!おれに気ィ使ってんのか!」 「使わねェよ!あの金が奪られた事は関係ねェんだ!」 「だったら!何で乗り換えるなんて下らねェ事言うんだ!」 おいお前ら、どなり合ってどうなるんだよ。もっと落ち着いて話をしろよ!とサンジが止めに入るもののウソップは冷静じゃない。どんどんヒートアップしていく喧嘩に私は黙って見てるしかなかった。ここで私が入ったところで何の解決にもならないから。 「どうしても直らねェんだ。じゃなきゃこんな話しねェ。」 「この船だぞ……今おれ達が乗ってるこの船だぞ!?」 「そうだ……もう沈むんだこの船は!!」 「……………何言ってんだルフィ。」 「本当なんだ、そう言われたんだ!造船所で!もう次の島にも行き着けねェって!」 造船所で最初言われた時、ルフィは噛み付いてウソップと同じようにメリーは直せると信じていたらしいけど、悩んで悩んでこの一味の為に決めた答えだった。それを知ってか知らずか、ウソップはルフィを睨みつける。今日会ったばかりの他人に説得されて、一緒に旅をしてきた仲間を見殺しにする気か、と叫んだ。 「この船はお前にとっちゃそれくらいのもんなのかよ!ルフィ!……ゲフッ」 「ウソップだめだそんなに叫んじゃ!」 フランキー一家にやられた傷が痛む中、ウソップは叫び続ける。ルフィも負けじと反論した。この船には船大工がいないから、一流の造船所で一流の船大工に見てもらった。今まで色んな船を直してきた船大工達を疑ってこの船で航海すれば沈むのがオチだ。それでも信じられないらしいウソップは今までしてきたように自分がメリーを直すと言い張る。でもウソップは狙撃手だ。船大工なんかじゃない。けれどウソップの意思はかたかった。 「絶対おれは見捨てねェぞこの船を!バカかお前ら!大方船大工達のもっともらしい正論に担がれてきたんだろう!おれの知ってるお前ならそんな奴らの商売口実より、このゴーイングメリー号の強さをまず信じたハズだ!そんな歯切りのいい年寄りじみた答えで…船長風吹かせて何が決断だ!!見損なったぞルフィ!」 つい、ウソップの頬を叩きそうになった。隣にいたゾロに止められなかったらきっと叩いてただろう。ルフィだってそんな簡単に決めたわけじゃないのに。 「これはおれが決めた事だ!今更お前が何言ったって意見は変えねェ!船を乗り換える!メリー号とはここで別れるんだ!」 「フザけんな、そんな事は許さねェ!」 怒鳴り合う二人をまたサンジが止めようとするけど、止まらない。どんどんどんどん熱くなっていく。 「いいか、ルフィ誰でもおめェみたいに前ばっか向いて生きて行けるわけじゃねェ!おれは傷ついた仲間を置き去りにこの先の海へなんて進めねェ!」 「バカ言え!仲間でも人間と船じゃ話が違う!」 ルフィみたいに前向きではなく、少し後ろ向きなウソップはルフィの前向きさに少しだけでも憧れを抱いていたのかもしれない。ルフィは船長の器だ、そんな彼に嫉妬する時はたまにあるからウソップの意見もわかる。 「同じだ!メリーにだって生きたいって底力はある!お前の事だもう次の船に気持ち移してわくわくしてんじゃねェのかよ!上っ面だけメリーを想ったフリしてよォ!」 「!!!、いい加減にしろお前ェ!!」 ルフィはウソップの肩を掴み、地面へと押し付けた。ルフィは全然冷静じゃなかった。ウソップの意見も正しいから動揺してるんだ。
「お前だけが辛いなんて思うなよ!全員気持ちは同じなんだ!」 「だったら乗り換えるなんて答えが出るハズがねェ!!」 「………!、じゃあいいさ!そんなにおれのやり方が気に入らねェんなら、今すぐこの船から……」 「バカ野郎がァ!!」
ルフィの言おうとした言葉は決して一時の感情だけで言ってはいけない。その時だけの言葉でも一度言ってしまえば、もう後には戻れない。そんなルフィに怒ったサンジは思いっきり彼の頬を蹴った。勢いよく飛ばされたルフィは机に当たって地面へと倒れる。
「ルフィてめェ、今何言おうとしたんだ!頭冷やせ!滅多な事口にするもんじゃねェぞ!」 「………あ……ああ…!悪かった今のは……つい」 「いや、いいんだルフィ。それがお前の本心だろ。」 「何だと!!」
ウソップが、真に受けてしまった。もう、この一味は戻れないんじゃないかそんな嫌な予感までしてきた。
「使えねェ仲間は……次々に切り捨てて進めばいい!この船に見切りをつけるんなら…おれにもそうしろよ!」 「おいウソップ下らねェ事言ってんじゃねェぞ!」 「いや本気だ……前々から考えてた…正直おれはもうお前らの化け物じみた強さにはついて行けねェと思ってた!」
ウソップは十分強いはずなのに、彼らの前では弱く見えてしまうのかな。ウソップの笑顔やツッコミ、たまに見せる真剣な顔が頭を流れた。
「今日みてェにただの金の番すらろくにできねェ、この先もまたおめェらに迷惑かけるだけだおれは……弱ェ仲間はいらねェんだろ!」
弱い仲間はいらない、そんなことない。ルフィは強さで選んでるんじゃない、ちゃんとその人の中身を見て気に入った人を仲間にしているのに。ウソップもそのことをわかってるはずなのに。 「ルフィ、お前は海賊王になる男だもんな。おれはそこまで高みへ行けなくていい!思えばおれが海へ出ようとした時にお前らが船に誘ってくれた、それだけの縁だ。意見が食い違ってまで一緒に旅をする事ねェよ!」
バンッと音を立ててウソップが扉を開けてダイニングから飛び出した。少し間が空いて、みんなもダイニングから飛び出す。まさか、本当にウソップはこの一味を……、そんなわけない。頭を冷やしに行くだけだ、そうだ。 「おいウソップどこ行くんだ!」 「どこ行こうとおれの勝手だ、おれはこの一味をやめる!!」 「そんな…!ダメよ!待ってよ!」 「おい戻れ!」 「え!?え!?行かないでくれよォ!ウソップー!!!」
メリー号から下りて歩いていくウソップに戻ってきて!と叫んでも彼は振り返りもしなかった。意志は相当固いようで、もう私では何ともできない。 「お前とはもう……やっていけねェ。最後まで迷惑かけたな。この船は確かに船長であるお前のもんだ……だからおれと戦え!おれが勝ったらメリー号は貰って行く!モンキー・D・ルフィ……」
ウソップは勢いよく振り返ってルフィを睨んだ。もう元には戻れないのかな。ロビンもいないしメリーも直せないし、この一味がどんどんバラバラになっていく気がした。
「おれと決闘しろォ!!!!!今夜10時!またおれはここへ戻って来る!そしたらメリー号をかけて“決闘”だ。おれとお前達との縁もそれで終わりだ!」
そう叫んだウソップはどこかへと歩いて行った。背中が見えなくなるとルフィは帽子を深くかぶって下を向いたまま男部屋へと入って行った。そのあとをナミが追ったけど、私は足が動かなかった。自分が無力すぎて、何も言えなくて、悔しい。
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