ドラム王国(007)

痛み止めを飲んだフミの頭痛と心臓の痛みはマシになり、歩くことができるようになった。二人に礼を言って共にナミの眠る部屋へと向かう。

ナミは"ケスチア"という虫に刺されたようだ。高温多湿の密林に住んでいる有毒のダニで、刺されると刺し口から細菌が入り体の中に5日間潜伏して人を苦しめ続ける。
症状は40度以下には下がらない高熱、重感染、心筋炎、動脈炎、脳炎。
刺し口の進行から、ナミは感染から三日が経っていた。並の苦しみではなかったはずだが、放っておけば五日で楽になる。
なぜか、それは五日後には死ぬからだ。ナミは生死の境を彷徨っていたのである。ここにきたおかげでナミの命は救われた。
彼女はまだ眠っているようで、フミは側で座り優しく頭を撫でた。ナミが命の危機だったと知り、ゾッとする反面、助かってホッとした。

「チョッパーくん、何してるの?」

「お、お前は何してんだ!」

まだフミに慣れていないのか、態度がぎこちない。

「お前じゃない、フミだよ。」

「フミ……フミっていい名前だな!」

「そうかな?ありがとう。」

フミの笑顔にチョッパーの心はまた暖かくなる。そんな声を聞いて、ナミが目を覚ました。黒い瞳がフミの姿を捉えると嬉しそうに笑う。

「フミ!大丈夫なの!?あんた、倒れたのよ!?」

「うん、もう苦しくないよ。ナミちゃんの方が危なかったんだから」

「私も、もう平気みたい」

ナミの方が危なかったというのは、本当だ。だが、今から危ないのはフミ自身。それはまだ言えない。

ナミの声にチョッパーは驚き、転んだ。その衝撃で机の上から何かの器具が落ちたがチョッパーは気にせず、壁に隠れる。が、先ほどと同じく身体は出ていて頭が少し壁に隠れているだけだった。隠れているはずが隠れていない。

「だれ?………逆なんじゃない?」

そう言われてやっと気が付いたのか、身体を全部壁に隠すチョッパーの可愛さにフミは笑った。

「遅いわよ。隠れきれてないし、何なのあんた」

「う……うるせェ!人間!それとお前熱大丈夫か?」

「喋った!?」

「ぎゃあああああ!!!」

ナミの驚く声に、チョッパーはもっと驚いて喚き散らす。その声にドクトリーヌは怒った。

「ヒーッヒッヒッ!熱ァ多少ひいたようだね小娘!ハッピーかい!?」

フミと話したあの真剣な表情ではなく、いつもの調子で話すドクトリーヌ。余命宣告をする時にはさすがにふざけないらしい。

「あなたは?」

「あたしゃ医者さ。"Dr.くれは"ドクトリーヌと呼びな。ヒーッヒッヒッ!」

「医者…じゃあここは…」

「ここはそうさ、山のてっぺんにある城さね。」

「だったら私とフミの他にあと二人いたでしょう?」

「ああ、となりの部屋で寝てるよ。ぐっすりとね、タフな奴らだ。」

今すぐにフミはルフィの無事を確かめたくて、ソワソワしているとそれに気が付いたナミが小さく笑う。

「フミ、行ってきていいわよ。会いたいんでしょう、ルフィに。恋人だもの」

「なんだい、そうだったのか。フミ、伝えるのは早くした方がいいよ」

伝えるというのは、悪感症のことだ。ドクトリーヌの言葉をナミは特に気にとめることはなくヒラヒラと手を振った。
フミはみんなに話すべきか迷う。きっとルフィは受け入れず、治る方法を探して目的地なんて忘れて船を出すだろう。自惚れているかもしれないが、ルフィからの愛をきちんと受け取っているフミはその大きさも理解していた。海賊王の道のりも遠くなってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
そう考えたフミは言うのをやめることを決意する。

「あ、チョッパーくん!」

ルフィとサンジが眠る部屋の前にいたチョッパーにフミは声をかける。いつの間にナミの部屋から出ていたのだろう、と疑問だった。

「フミ!!」

フミに話しかけられて嬉しいのか、チョッパーは照れたように笑う。そんな彼が可愛くて優しく頭を撫でた。

「こいつら、仲間なのか?」

「うん、仲間。とっても強くて優しくて楽しくて面白くて大好きな仲間。」

フミについていくと決めたチョッパーだったが、もし目の前にいるルフィとサンジが差別するようなら薬だけ渡してこの城に残ろうと考えていた。この城に残りながらでも、治療法は考えられる。

「………んー」

むくりと突然起き上がったルフィに驚いたチョッパーはまたわかりやすい隠れ方をする。

「フミ……?」

一番にフミを見つけたルフィはじっとその顔を見つめた。

「だ、大丈夫なのか?頭とか胸とか!」

「うん、薬を貰ったから大丈夫。」

「良かった〜!」

近づいてくるフミをルフィは優しく抱きしめた。苦しそうにしているフミをみているだけで、自分も苦しくなったことを思い出す。

「ほんと、よかった。おれ、どうしていいか分かんなくて、焦った」

「ここまで連れてきてくれてありがとう、ルフィ。」

ふんわりと笑ったフミが愛しくて、ルフィは頬に手を添えてゆっくりと顔を近づけていく。フミも目を閉じて、ルフィのそれを待った。
するとルフィはピタリと止まって、あるものに気がついた。

「なんだあれ………」

キスをするんだと思っていたフミは自意識過剰だったかもしれない、とショックを受けつつ目を開ける。ルフィはゆっくりと立ち上がり、チョッパーに近づいた。

「………ん…ん?……んん!?ナ、ナミさん!フミちゃん!」

「サンジくん、大丈夫?」

「フミちゃんこそ!無事で何よりだ。」

サンジも目覚めたらしい、まずはフミが無事であることを確認してホッと息をついた。
そこでルフィと同様、チョッパーを見つけて近寄っていく。

「そういえば、腹減ったよなァサンジ。」

「ああ、そうだな。あの山を登れば腹も減る。」

二人の狩りをするような目にフミは気づいて止めに行こうとするがもう遅かった。

「おれが捕まえる」

「で、おれが調理する」

「ギャアアアアアア!!!」

チョッパーは一目散に駆け出した。それを追いかける2人を止めに行こうとするが、やはり追いつくはずもなく体力が切れてフミはハァハァと荒い息を整える。
追いかけられたチョッパーはヒトヒトの実の能力をつかって人間型になり、二人を殴りかかったのだった。

全員を見失ったフミは城の中を歩いて探す。今普通に歩くことができるこの身体が1年後には使えなくなるなんて誰が想像できるだろうか。いや、できないだろう。トボトボと歩くフミの背中はいつもよりも小さかった。

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