ドラム王国(006)

フミが目を覚ますと見知らぬ天井があった。

山道で戦意喪失となったサンジ、サンジにおぶられたままのナミ、そしておぶっていたフミを何とか連れてルフィが1人山を登り切り、頂上で倒れたのは少し前のことだった。
そんな四人を助けたのはフミが目覚めた部屋にいる毛むくじゃらの小さな生き物と、魔女と呼ばれていた年老いた女の人だ。
フミが起きた事に気付いた生き物は本来隠すはずの体を隠さずに頭だけ隠し、こちらを見ている。

「目!覚めたか!!」

「…たぬきが……喋った…?」

「おれはたぬきじゃねェ!トナカイだ!!」

トナカイと言い張るその生き物は見た目はたぬきそのものだった。フミが素直に謝り、「可愛いね」と褒めると、照れたように怒って変なダンスをし始める。

「あ……ルフィたちは………」

辺りを見渡しても自分がいるベッド一つしかない。
最後の記憶は、ナミを連れて行くための言い合いの途中。目眩がひどくなり、そして、恐らく倒れた。

「お前、あいつらの仲間かい?」

女の人の問いにフミは頷く。すると喋るトナカイも真剣な表情になり、何かの紙を見つめた。

「……フミっていいます。」

「ドクトリーヌでもくれはでも好きに呼びな。こいつはトニートニー・チョッパー。今はこんな自己紹介どうでもいいんだよ。」

くれはと聞いて、フミは聞き覚えがあった。この島でたった一人しかいない医者であり"魔女"と呼ばれていた人だと。でもなぜ、ナミのところではなく自分のところにこの人がいるのか、とフミは不思議に思った。
何か嫌な予感がして、フミは持っていたくまのぬいぐるみを力一杯抱きしめる。これは幼少期からのフミの癖だった。怖かったり悔しかったり泣きたかったり、そんな時は気が付けば母が作ってくれたくまが胸の中にいる。

「フミ……あんたの余命はあと1年だ。」

「よ、余命……?ど、どういう……」

何を言っているのか、理解できないと言った様子にドクトリーヌは症状の書かれた紙をフミに手渡す。

「お前は、悪性心胃感骨粗生症、悪感症と略されることが多い病気だ。チョッパー、症状を言ってみな。」 

「まず腹痛や頭痛が頻繁におきて、心臓が痛むようになる。そして少しずつ骨がボロボロになっていくんだ……」

チョッパーと呼ばれた喋るトナカイは酷く驚いているフミの顔を見れず、地面を向いて答えた。

「私……死ぬの………?」

人間はいつかは死ぬ、がそれが一年後と宣告されても実感が湧かない。フミはまだ17歳だ。本来ならあと何十年も生きられたはずだ。

「痛みのショックで半年で死ぬやつもいる。」

「痛み………。」

「悪感症は症状がでるのが遅い。もう今の状態じゃ痛みを抑えることしかできない。」

「………死にたく……ない…」

最近頭が割れるくらい痛かったのはこの病気のせいだったのか、と今になって気がつく。
泣き虫なはずが、涙は一切出なかった。けれど体は小刻みに震えている。

「船医は?」

「……いない……お願いします、助けてください!!!」

もう助からない、そういう意味でドクトリーヌは首を横に振った。フミは絶望的な顔をする。

「ドクトリーヌ!何とかならないの!」

もう、自分の目の前で人を失うのがチョッパーは怖かった。

「チョッパー、お前は今まで何を勉強してきたんだい。ここで何とかなるならもうしてるさ。嘘をつくのが、1番酷だよ。」

「でもっ、」

チョッパーはフミに視線を向ける。その縋り付くような瞳は「助けて」と必死に叫んでいるようだった。

「チョッパー、行きたいんだろう」

「ドクトリーヌ……」

「助けたい、そう思ったんだろう?」

初めて会ったはずで、しかも人間が嫌いだったはずの自分が目の前にいる少女を救いたいと思っている。チョッパーは自分に一番驚いていた。

「こいつは、化け物なんて思わないだろうさ。」

チョッパーが抱える暗い暗い過去。それをここで全て話すには時間がかかり過ぎる。チョッパーは意を決して能力を使い、まるで熊のように大きな身体へと変貌した。

「フミ……おれのこと化け物だと思うか?」

「化け物?……チョッパーくんは不思議だけど、化け物とは思わないよ」

今までルフィや他の人の化け物じみた強さを見てきたフミにとって、チョッパーなんて可愛いものだった。
しかも可愛いものが好きなフミにとっては尚更だ。
チョッパーの心が暖かくなる。今まで沢山人間に傷つけられたが、フミなら信じられると直感した。

「フミ…おれ、お前をなんとか助けたい!!」

「チョッパーくん…ありがとう!!!」

ゆっくりと近づいてくるチョッパーにそっと手を伸ばす。その毛並みは柔らかくフワフワとしていた。たぬきに見える形に戻ったチョッパーを引き寄せて抱きしめた。
フミの瞳ではなく、チョッパーの瞳から涙が溢れ出していた。治療法は今の段階ではないのかもしれない、けれど放っておくことはチョッパーにできるはずもない。






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※悪感症という病気、症状などは存在しません。私が都合良く考えたものです。

こちらは本編での1話です。本編では主人公目線で書いてあります。
二度書いてみて、ここのシーンが私は一番悲しいと実感しました。死ぬ寸前よりも、もうすぐ死ぬよと言われた方が辛くて悲しいです。
そして、チョッパーにとっても。また大切な人を目の前で失ってしまうかもしれないって残酷だ、私。

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