ドラム王国(005)

「窓の外に山が見えるだろう…」

「ああ…あのやけに高い…」

ほぼ直角に上がった山々が険しいのは一目見ただけでわかった。サンジはその山を見て眉間にしわを寄せる。

「あの山々の名前は"ドラムロッキー"真ん中の一番高い山の頂上に城が見えるか?今や王のいない城だ。」

「ああ、確かに見える。あのお城が何か…?」

「人々が"魔女"と呼ぶこの国の唯一の医者。"Dr.くれは"があの城に住んでいる。」

「何!?よりによって何であんな遠いとこに…。じゃあすぐに呼んでくれ!急患なんだ。」

「そうしたくても通信手段がない。」

「あァ!?それでも医者かよ!?一体どんな奴だ!?」

医者としての腕は確かだが、変わり者で歳も140近い高齢な、老婆と言った方が正しい人物。彼女が気まぐれに山を降りてきた時に、患者を処置して報酬にその家の欲しいものをありったけ奪って帰っていく、そんな医者にナミを診てもらうのかと思うと一味は不安にかられた。

「でもそんなおばあさんがどうやってあの山から…?」

ビビの問いにドルトンは真剣な表情になる。
噂では、月夜の晩に魔女が見たこともない奇妙な生き物と一緒にそりに乗って空を駆け降りてくるところを数名が目撃したという話だ。そんな有り得ない話にウソップは頭を抱える。

「ぐあ!やっぱりか!出た、ほらみろ。雪男だ雪山だもんなー!いると思ったんだ魔女に雪男だと。ああ、どうか出くわしませんように!」

ウソップの「山に登ってはいけない病」が発病するのもそう時間はかからないだろう。

「次に山を降りて来る日をここで待つしかないな…」

「そんな…」

「だいたいよ、国中で医者が一人なんておかしすぎるぜ」

医者が一人いればその人に医術を習い、広がっていくのが普通だ。
突然ペチペチという音がして、音がする方に視線を向けるとルフィがナミの頬を強めに叩いていた。全員が"何をやってんだー!"と叫ぶ。

「…………ん」

「お。起きた。あのな、山登んねェと医者いねェんだ。山登るぞ」

ルフィの提案にサンジとビビは叫ぶように猛反対する。

「無茶いうな!お前、ナミさんに何さす気だ!」

「いいよ、おぶってくから。」

「それでも悪化するに決まってるわ!」

「何だよ、早く診せた方がいいだろ」

「それはそうだけど、無理よ!あの絶壁と高度をみて!」

「てめェが行けてもナミさんへの負担はハンパじゃねェぞ!」

「でもほら…もし落っこちても下は雪だしよ」

「あの山から転落したら健康な人でも即死よ!」

「常人より6度も熱が上がった病人だぞ!?わかってんのか、お前っ」

三人の言い合いを見ていたナミは笑顔を浮かべる。ナミ自身、ビビの歩みを止めたくないが大前提だった。

「…よろしくっ」

「そうこなきゃな!任しとけ!」

弱々しく伸ばされた手にルフィはハイタッチし、得意げに笑った。パチン、と手が触れ合う音と同時にバタンという何かが倒れる音がする。

「フミ!?」

突然床に倒れたフミに慌てて部屋にいた者は駆け寄る。息が荒く、動悸も激しい。胸を抑えて顔には汗をかいていた。

「……くる、しい」

心臓を誰かに握り潰されているような感覚で、酸素がきちんと入って来ない。

「さ、さっき頭いたいって言ってて、でも今は胸が苦しいって……どうしよ!どうしよ!!」

「まさか…2人も…」

「ルフィ、落ち着け。フミちゃんも医者に診てもらう。」

「おれ二人もおぶっていけねェよ!」

「おれもいく。」

サンジの眼差しは真剣そのものだった。二人のレディが苦しんでいるというのに、黙って待っていることなんて出来ない。先ほどまでは反対だったが、一刻を争うことは明確だった。

そしてルフィはフミを、サンジはナミをおぶって落ちないように紐で固定した。

「フミ、しっかり掴まってろよ!」

「…ハァッ……う、ん」

「ナミさん、もう少しだからな!」

「うん」

二人は小さな声で頷いた。一刻も早く山を登らなければならない。二人は一斉に駆け出し、サクサクと雪の上を走っていった。その二人の背中をビビは心配そうな顔で見つめる。今は、信じることしかできない。

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