空島(56)

マッキンリー率いるホワイトベレー部隊は、静かに去っていった。裁くのはその“ゴッド・エネル“達の出番らしい。
メリー号に乗っていたロビン、ウソップ、チョッパー、フミ、ナミは一度浜辺へと下りる。

「私達ハメられたんだわ!あのおばさん言ってたじゃない。“通っていい“ってそれで通ったら不法入国!?詐欺よ!こんなの!!」

ご立腹のナミにウソップは大きく頷いた。

「まったくだぜ。まァあそこでもし“通っちゃダメだ“って言われてもどうせ力づくで入国しただろうって事は置いといてよ」

「おだまり!!」

ウソップの言葉にナミは目を細めて見つめ返すが、ルフィは通っていただろうなとナミも頭では同意だった。

「とにかく、大変な事になりました。第2級犯罪者となってしまわれては、私達はお力には…」

「何でそんな離れて話すの!?」

パガヤとコニスは10m以上離れてこちらを見ている。ナミは叫ぶように言うが、近づいてくる様子はなかった。

「まあでもいいじゃねェか別に!追われるのには慣れてんだしよ!ししし!」

ルフィは笑って言う。思い返せば今まで追われ続けているのだった。海賊になった時点で仕方がないことだろう。ナミとウソップはこの状況を諦めるしかなかった。

「そんな事よりお前何で帰ってきちまったんだ?」

「は??」

「ルフィ!ナミちゃんになんて事言うの!?」

真顔でそんなことを言うルフィの隣にいたフミはその腕を軽くつねった。

「フミ、だってよ。せっかくこれからあの“絶対に入っちゃならない場所“へ大冒……いやお前を探しに行くとこだったのに。」

フミはルフィの横で大きなため息をついた。ナミよりも大冒険なんだろうか。
ただ、それはナミへの信頼から成り立つ言葉だ。ナミではなくフミだったらルフィはきっと、すぐに助けに向かっただろう。信頼していないわけではないが、フミは危ないとルフィは考えている。

「ホンットにあんたは分かり易いわね。何が大冒険よ!!だから教えたでしょ!?あの島にどんな恐ろしい奴らがいるのか!見てないからあんたそんな事が言えるのよ!!確かに神だか何だか知らないけど神がかったわけわからない力だけは本物なのよ!!私は絶対二度と行かないからねあんな島!!!」

ナミがルフィの額を叩きながら、一息で叫んだ。
ナミが見たものは、天から何か衝撃が落ち、人が多数死ぬところだ。確かに神がいると言われれば信じてしまうほど、大きな衝撃を目の当たりにした。

「じゃあおれ達行くからお前ここで待ってろよ」

「い・やっ!!!追手が来るもの!出るのよこの国から!」

「出るだとーー!?アホ言えお前は冒険と命とどっちが大事だァ!!」

「命よ!!!その次はお金」

ルフィとナミの喧嘩はいつものことなので、他はただ見守っていた。だが、結局はルフィの決めたことが一味の通る道だ。

「でもそうだ。そういやおれ達、この空島へ来る事に必死で下へ帰ることなんて全然考えてなかった。安全に帰れる道はあんのか!?おれ達“青海“へ帰れるのか!?」

いつの間にか近くに寄っていたコニスとパガヤにウソップは問う。コニスの顔色はさっきの出来事からずっと青いままだった。

「青海へ下る道はあります。その為には一度下層の“白海“へ下りて遥か東。“雲の果て(クラウド・エンド)“と呼ばれる場所へ行かなければなりません。」

コニスはその後「逃げる事はお勧めできない」と言った。神から逃れることなど、できるはずがないとコニスは思っている。ずっと顔色が悪いのもその証拠だ。

「この国のどこに居ても同じ事よ。とにかくここに居ちゃ2人に迷惑かけるし。居場所がバレてる!船を出しましょう!コニス!おじさん!色々ありがとね」

「あ!!そうだおっさん!さっきのメシ一品残らず全部持ってっていいか?」

「ええ、勿論どうぞ」

空島の絶品を忘れられないルフィは、急用だとしても弁当だけは譲れなかった。後で戻って食べようと思っていたのに、今すぐ出なければならない。

「おれも一つ頼みが!おっさんエンジニアなんだろ?船の修理の為の備品少しわけて貰えねェか?」

「ええ、構いませんよ。では、もう一度ウチへ」

ウソップはボロボロのメリー号を見つめて、眉間にシワを寄せる。メリー号への想いが誰よりも強いのは仕方のないことだ。
ルフィ、サンジ、ウソップはもう一度パガヤの家へと戻ることになった。

「野郎共、先に冒険準備を整えとけ!!」

「ぬ!!アイツ完全に行く気でいるわ!ホント恐いのよ!?」

「知るかよ」

青海へ下るのではなく、神の島へ行く気満々のルフィにナミは恐怖を抱かざるを得ない。ナミはゾロを睨みつけるが、ゾロは知らん顔だ。
三人の背中を見送り、メリー号へと他は戻ることにする。

「おれァどっちでもいい。おれに当たるな」

「フミー?あんたは私の味方よね?あ!そうよ、フミが止めてくれたらアイツも止まるはずだわ!」

「確かに神の島は恐いけど…ルフィの、船長の決定が絶対だから、諦めるしかないよナミちゃん」

フミは一味の誰よりもルフィといる時間が長い分、ルフィの意思が簡単に揺るがないことを知っているし「船長」の意見には逆らえないと考えていた。その心はルフィと海に出ると決めた日から変わらない。
そこで、知らん顔していたゾロがフミの前に割って入る。

「フミをオドすな。わかってんだろ!?ルフィを説得できねェんじゃ全員でデモをおこそうが聞きゃしねェ。」

「いいわよ。じゃ私行かない」

「あァ、そうしろ」

「ちょっと、ゾロさん、ナミちゃん…!」

「そうしろってアンタ私追っ手に殺されるじゃない!!」

「あァ…じゃそうしろ。グーーー」

ゾロは面倒臭くなり、目を閉じて眠りにつく。ナミはフミにあたることが出来ず、怒りを収束できない。次はロビンを見た。

「ロビン!二人でルフィを倒さない!?」

「ムリよ」

即答するロビンにナミは落ち込み、女部屋へと消えていった。Tシャツを着に行くついでに頭を冷やすようだ。

「フミ」

片目を開けてフミを見つめるゾロは嘘寝だったらしい。名前を呼んだのは来いと言う意味だろう。フミはすぐにゾロに近づく。

「さっきの」

「さっきの…?」

「船長の決定が絶対って、心意気。変わってねェんだな」

変わってねェ、と言うのはそのままの意味で、ゾロが仲間に入るときにフミが言った言葉だった。
東の海。そこでルフィの恋人だと言うフミはお世辞でも強いとは言えず、足手纏いなのではとゾロは思っていたが、その時言ったフミの言葉でゾロは「邪魔」などと感じなくなったのだ。
海賊として、ルフィを海賊王にする身として一番持っていなければならない志をフミが持っているからだ。後は文句を言いようがない。どれだけ強くてもその心意気が無ければ麦わらの一味に必要ないというのがゾロの考えだ。

「ルフィを海賊王にするのが、私の夢だもん」

「いい度胸だ」

ゾロはそれだけ言うと、また目を閉じてしまった。フミはとりあえずゾロの隣に腰掛けて、ルフィ達を待つことにした。
ナミがTシャツを着て女部屋から出てきた頃。ゾロがそれと同時に目を開け、フミの手首を掴んで立ち上がった。
突然、揺れ始めたメリー号は一人でに移動し始める。そう、誰も舵を握っていないのに。

「ちょっと待って!何これなんなの!?」

ナミが叫ぶもの無理はない。メリー号は後ろに下がっているのだ。船が後ろ向きで走ることなんてあり得ない話。
ザザザザザザと、海面から何かが顔出し、メリー号を持ち上げる。正体はメリー号の何十倍もある大きさのエビだった。メリー号を軽々と持ち上げたまま、雲の海を泳いでいき島から離れていく。

「どこかへ連れて行く気だおれ達を!!おい!全員船から飛び降りろ!まだ間に合う」

ゾロが状況を把握し、声を上げた。

「だって船は!?船持っていかれたら」

「心配すんな!おれが残る!!」

「そんな!アンタ一人残ってどうなるの!」

「…いいえ、そんな事もできない様にしてあるみたい」

ロビンが指差す方向。大型の空魚達がメリー号を追いかけていた。飛び込んでも食べられて終わりだろう。

「エビをやっつけたらどうだ!?」

「何をしてもきっとムダね。おそらくもう始まっているのよ」

チョッパーの言葉をロビンは否定した。
始まっているのはーーーー「天の裁き」

「追っ手を出すんじゃなくておれ達を呼びよせようってわけだな。横着なヤローだ」

「じゃあまたあの島へ!?」

ゾクっ、とナミの背筋は寒くなる。どうしても行きたくなかったあの島へ、連れて行かれてしまう恐怖は計り知れない。

特大エビに連れて行かれたのは「神の島(アッパーヤード)」内にある雲の湖。その真ん中に祭壇があり、メリー号はそこに下ろされた。エビたちは知らぬ間に消えてしまった。

湖に入ろうにも、大きいサメがウヨウヨと泳いでおり、泳いで渡ることはできそうにない。そこでゾロがサメを倒すべく、湖に飛び込んだが………苦戦していた。

「空サメにゾロが負けてる!!」

ゾロはサメに湖へと引きずり込まれてしまう。
シーン、と音が無くなりナミ、チョッパー、フミは恐怖で顔を青くさせた。

「あ、あがって来ない…食べられちゃったのかな…!」

「ギャーーー!!ゾロが食われたァーーー!!」

「ゾローー!!」

「食べられたんなら雲が赤く染まる筈」

「何コワイ事言ってんの!?ロビン!!」

こんな状況でも冷静なのはロビンだけのようだ。

「あァウザってェ!!!」

そう声を荒げながら、ゾロが水面から顔を出した。剣を咥えたゾロはサメを一頭殴り倒した。だが、水面からはまだまだサメの背鰭が見えている。全部倒すのは水中だとゾロでも至難のわざだろう。

「ハァ…ハァ……まいったな。これじゃ岸へも渡れねェ…一体どこなんだここは…」

「間違いない事はアッパーヤードの内陸の湖だって事。まるでここは生け贄の祭壇ね…」

青海の木々よりも成長している、大木に囲まれており日差しは葉の間から差し込む程度。神秘的な雰囲気だが、それがより一層恐怖を連想させる。

「えらいトコに連れて来てくれたもんだ。あのエビ…」

「ゾロさん、タオル」

びしょ濡れになった服を絞るゾロにフミはタオルを渡した。

「あんたサメ殴り飛ばしたわね。剣士のくせに」

「ゾロは強いなー」

「ここで飢えさせる事が天の裁きかしら」

ナミ、チョッパー、ロビンが口々に喋る。ゾロはフミから受け取ったタオルで濡れた体を拭いた。

「そんな地味な事するもんなのか?神ってのは」

「さァ…会った事ないもの」

「船底がこのあり様じゃ船降ろすわけにもいかねェし。とにかく船をなんとか直しとけチョッパー」

「え!?おれ!?わかった」

突然指名され、チョッパーは驚くがゾロに頼まれたのが嬉しく頬が緩んでいる。
メリー号の船底は引きずられ、板が剥がれてしまっている。今、水面に浮かばせても沈んでいってしまう。

「直しとけって…あんた何かする気?」

「どうにかして森へ入る。とりあえずここは拠点にしといた方がいいと思うんだ。きっとルフィ達がおれ達を探しにここへ向かってる。言うだろ『道に迷ったらそこを動くな』」

「あんたが一番動くな」

よく道に迷うゾロが言ってはいけないセリフだと、ナミは冷たい目で見つめた。

「この島には神がいるんだろ。ちょっと会ってくる」

「やめなさいったら!あんな恐ろしい奴に会ってどうすんのよ!」

「さァな。そいつの態度次第だ」

にっと笑いながら言うゾロの言葉にナミは震えた。

「神官だってこの島にいるのよ!?とにかく神は怒らせちゃいけないもんなの!世の中の常識でしょう!?」

「悪ィがおれは、神に祈った事はねェ」

堂々と言うべきことではないが、その姿にチョッパーは憧れを抱く。

「ああ神様。私はコイツと何の関わりもありません」

ナミは天に向かって祈りを捧げた。ゾロはそれを無視してキョロキョロと辺りを見回す。

「あのつるが使えそうだな」

「あ…ホントね。いい考え」

大木からぶら下がっているつるをゾロは指差した。ロビンも頷き「一緒に行っていいかしら」とゾロに同行するようだ。

「フミ、行くぞ」

「え、私も行くの?」

「お前に何かあったらルフィに顔向けできねェだろ。近くにいた方が守りやすい」

ゾロは水を絞った服を着ながら軽く言うが、フミはそれでも嬉しかった。ゾロはハッキリ言う性格なので「邪魔」だと言われてもおかしくはない。でもゾロにそれを言われた事は今まで一度もなかった。

「フミは危ないでしょ!?あとロビンまでどこ行くの!?」

「これ見て…この祭壇作られてから軽く1000年を経過してるわ。こういう歴史ある物って疼くのよね体が…宝石のかけらでも見つけて来たら少しはこの船の助けになるかしら」

「私も行きマス!!」

「ええ!?あんなに恐がってたのに…」

「歴史探索よ!」

目がベリーだ、とチョッパーは小さくため息を漏らした。
チョッパーをメリー号に残し、一行はアッパーヤードの地へ足を踏み入れることに決めたのだった。

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