空島(55) 食べかけの料理を一旦放置し、ルフィたちはまた浜辺に戻ってきた。古いウェイバーをメリー号から降ろしてパガヤに見せる。 「本当に古いものですね」 「直るかな?」 「さァ、解体してみなければ何とも…」 「おい、ルフィ行くぞ!早く乗れ!」 ルフィ以外はメリー号に乗り込んでいた。ナミを探しに行かなければならない。 「ん?おっさん、あれ何だ?」 ルフィは何かに気がつき、自分たちが降りてきた雲の階段を見据える。こちらを怒りの形相で見ている集団。ルフィは眉を顰め、物珍しく彼らが近づいて来るのを見つめた。なぜなら、彼らは匍匐前進で進んでいる。 ルフィとパガヤ、コニスの目の前に到着したのは数十人の男たち。ずりずりと、浜辺をゆっくりと進んできた。 「全隊、止めれーーーー!!!へそ!!!」 「へそ!!」 「どうもへそ!」 「いや、何言ってんだお前ら!」 へそ、と返すパガヤとコニスにルフィは言葉を投げた。 メリー号からその様子を見ていたサンジたちも不思議そうな顔で見守っている。 「何で匍匐前進してたんだあいつら」 「わからねェ…多分あいつら変態だ!」 「へーあれが変態か」 「顔怖いね」 サンジ、ウソップ、チョッパー、フミが順につぶやいてまたルフィを見守る。 「あなた達ですね!?青海からやって来られた不法侵入者8名というのは!」 「ええ!?不法入国!?」 男の言葉に、パガヤはルフィの方をふり向く。ルフィは意味がわからず首を傾げた。 「弁解の余地はありませんよ。天国の門監視官アマゾンより、ビジョンダイアルによる写真が届いていますので!」 その男は写真を一枚突き出した。それを見てパガヤが慌てて口を開く。 「まさか!そんなバカな!何かの間違いでは!?マッキンリー隊長!彼らはそんな悪い人たちでは!」 少ない時間だったが、ルフィたちと話して笑い合い、信頼していた。不法入国するような人はもっと、悪いはずだと。彼らと交わした言葉を思い出し、パガヤは否定するようにマッキンリーと呼んだ男に話しかける。 サンジとロビンは"不法入国"と聞いて思い出すことがあった。確か、入国料1人10億エクストル払わずここに入国したこと。でも通っていいとあの時老婆は言っていたはず。 「言い訳はおやめ下さいまし、認めて下さい。ですが、まだそう焦る事もありません。不法入国、これは天の裁きにおける第11級犯罪でしかありません。罰を受け入れればあなた方はその場で安全な観光者となれます。」 「何だ、それを早く言えよ。心外にゃ変わりねェが罰ってのは一体何なんだ?」 マッキンリーにサンジは問う。通っていいと言われたので通ったが、不法入国と言われれば心外だろう。だが、この国のルールであるなら無理に反発すべきではない。 「簡単な事です。入国料を払ってくださいまし。1人100億エクストル、つまり8人で800億エクストル。この場でお支払い下さればあなた方の罪は帳消しにさせて頂きます!」 「は、800億エクストル!?だからそのエクストルってのはベリーで言うといくらなんだ?」 「ベリー…青海の通貨ですね。ベリーだと「1万エクストル」で「1ベリー」になります」 計算しようとしたが、ウソップはすぐにロビンの顔を見つめる。計算してくれ、と意思を込めて。 「だったら、800億エクストルは800万ベリーね」 「高ェよ!米何トン買える額だコラァ!!何で命懸けで空へ上ってきて入国だけでそんなに払わなきゃならねェんだ!!」 サンジが金額を聞いて、叫ぶ。詐欺に等しいルールに従おうとは思わない。 「何をおっしゃるのですか!ならば本来の入国時に80万ベリーお支払いくださればよかったのです」 「それでも高ェっつうんだよ!!」 それでなくても食費がかさむのに、と言おうとしたが言っても無駄だとサンジは飲み込み、呆れたため息を漏らす。 「おい、もういいよ。放っとこうぜ。早くナミさん探しに行かねェと今頃どっかで泣いてるかも」 マッキンリーは表情を崩さず、一歩踏み出してルフィを見た。 「先に言っておきますが。我々ホワイトベレーは神官の直属にある部隊、反論は罪を重くしますのでご注意を。ところで、そのウェイバー。みた所壊れていますがもしあなた方がやったのならば第10級犯罪。青海人による空島での器物損害罪に当てはまり…」 眉間に皺を寄せるマッキンリーと、その前に立つルフィの間にパガヤは入って口を開く。 「いえいえ、すいません。これは彼らの元々の持ち物でして…」 「そうだ、おれのだぞ」 「元々の?怪しいですね。青海のウェイバーは存在しないはず。もしこれが空島での窃盗臓になると罪は第9級犯罪」 「うっさいなーお前、ぶっ飛ばすぞ」 ルフィは腹立ちを抑えられず、拳を握る。パガヤの優しさを無下にするマッキンリーが許せなかった。 マッキンリーの眉間にも皺がよる。 「ちょっと待って!!!!」 「ああっ!ナミさん!無事だったんだね!!」 海の方からナミがウェイバーに乗って向かってきていた。焦った様子でルフィを引き止め、サンジはナミを見つけると目をハートにさせてその姿に手を振った。 「ルフィ!その人たちに逆らっちゃダメよ!!」 「だってよ、コイツら…」 「逆らうなって、おいナミ!じゃあ800万ベリーの不法入国料払えるのか!?」 ウソップはナミに向かって叫ぶ。 一味のお金の管理はナミが行っているためウソップはこの船の持ち金を知らないでいた。 「よかった…罰金で済むのね………800万ベリーって…」 浜辺が近づいてくる。 ナミの頭はどんどん冷静になり、そしてーーーー。 「高すぎるわよ!!!!」 そのまま浜辺に乗り上げ、ウェイバーでマッキンリーの身体に突撃した。その身体は吹き飛び、転がっていく。 「「オイ」」 ゾロとウソップは思わず、声を上げた。ルフィに手を出すなと言ったのはナミだ。その本人が、手を出すどころかマッキンリーを吹き飛ばしてしまったのだ。フミは声に出して笑ってしまう。ナミらしい、と。 「ぐあ!!!」 「隊長ーーーーー!!!」 「ハッ!しまった!理不尽な多額請求につい!!」 ナミはウェイバーから降りて、自分を正当化する。ナミの得意技だ。 「あ、おじさん。ウェイバーありがとう。楽しかったわ!」 「いえいえどうもすみません。そんな事よりあなた方大変な事に…!!」 「さァ逃げるのよルフィ!」 パガヤの言葉にナミは頷き、ルフィの手首を強く掴んでメリー号へと急いで歩く。雲の浅瀬をバシャバシャと音を立てて。 「わ!何でだよお前ケンカ仕掛けたんじゃねェのか!?」 「神とかってのに関わるとヤバイのよホントに!今のは事故よ!」 ウェイバーで轢いておいて“事故“で済ませるのもどうかと思うが、ナミに関してはいつものことだ。 ナミは神の恐ろしさを見てきたかのような口ぶりだったが、ルフィはそれに触れることはなかった。 「待てーい!!!逃げ場などすでにありはしない!我々に対する数々の暴言。それに…今のは完全な公務執行妨害第5級犯罪に値している!“ゴッド・エネル“の御名においてお前達を“雲流し“に処す!!」 「“雲流し“そ、そんな…!!」 マッキンリーの"雲流し"という言葉にコニスの顔が一気に青ざめた。ルフィはその顔色の変化にいち早く気がつく。 「何だそれ。雲流しって気持ち良さそうだな」 「良くありません!!逃げ場のない大きさの島雲に船ごと乗せられて骨になるまで空を迷い続ける刑です!!!」 逃げ場なく、海に落ちると待つのは死のみ。空を彷徨い続けるしかないのだ。想像するだけで残酷だが、ルフィの顔色が変わらないのでコニスは驚く。 「成程…それで何もない空から船が…」 「何だ?」 「例の空から降ってきたガレオン船。200年前にその刑を受けたんじゃないかしら。」 ロビンの推測にウソップはゴクリと息をのんだ。200年迷った末に、やっと海に落ちてきたのだろう。次に骨になるのは……。 「引っ捕えろ!!!」 マッキンリーの指示で、ホワイトベレー部隊の男達は弓を構える。的となるのはメリー号へと向かっていたルフィとナミ。 「逃げて下さい!!敵いません!」 「よしなさいお嬢さん。それは犯罪者をかばう言動に聞こえますよ」 マッキンリーは細い目でコニスを睨みつけた。 その間に男達はルフィとナミ目掛けて矢を放った。ゾロとサンジも戦闘態勢に入り、メリー号から下りていく。 「ナミ!!邪魔だ!!船に行ってろ!」 ルフィがナミの背中を強く押し、転びそうになるもののナミは一目散にメリー号へと走った。 男達の矢は、常識的な矢ではなかった。細い雲が伸びてきただけで、攻撃性は感じられない。 「何だアレ」 その無数の細い雲に男達が乗ってくる。矢ではなく、彼らの通り道らしい。スケートをするようにスピーディーにルフィの元へ向かって滑ってきた。 「なーーーるほど!!」 その勢いのまま刃物を切りつけてくる男達をルフィはゴムの腕で軽やかにかわし、空へと跳んだ。 「えェ!?手が伸びた…」 「なァんと!!」 コニスとパガヤは空を見上げ、驚きの声を上げた。 「ゴムゴムの……花火!!!」 足と手をまるで花火のように、空から男達に振り落とす。何度も殴られ蹴られ、男達は簡単に倒れた。 ゾロとサンジは花火が当たらなかった男達を軽々と倒してみせた。 「ところで、ナミ。ウチの今の経済状況は?」 ゾロは刀を収めながらナミに問いかけた。 「残金5万ベリー」 「5万!?そんなにねェのか!?」 「そうよ。もってあと1日2日ね」 ナミの答えにルフィは腹が立った。ナミの管理不足ではないかと。 「何でそんなにビンボーなんだ!?船長として一言言わして貰うけどな…おめェらも少し金の使い方ってもんを考えて…」 「お前の食費だよ!!!!」 サンジは怒りの形相で叫んだ。人よりもよく食べる船長の食費が一番高いことは、ナミとサンジ以外でも察しがつく。 そんな中、暗い表情で俯く少女が一人。 「私の薬代…」 「フミ!!違うぞ、薬は安い薬草で作れるんだ!だからそんな顔しないでくれ!」 ボソッと呟いたフミの言葉をチョッパーは聞き逃さなかった。自分の薬代が船の負担になっているのでは、とフミは心配になったのだ。 チョッパーの言葉は優しい嘘ではなく事実だ。特効薬はないが、症状を和らげる薬は安い材料で済んでいる。そんなことで、余命宣告された少女を悲しませてはいけない。チョッパーは明るく振る舞った。 「ハ…ハハ…バカ共め。我々の言うことを大人しく聞いていればよかったものを…我々ホワイトベレー部隊はこの神の国の最も優しい法の番人だ。」 マッキンリーの“最も優しい“という言葉が当てはまるのかどうか、わからないがこれ以上の何かがあると言うことだ。 「彼らはこう甘くはないぞ!これでもはや第2級犯罪者。泣こうが喚こうが…ハハハハ!“神の島(アッパーヤード)“の神官達の手によってお前達は裁かれるのだ!!へそ!!」 マッキンリーは一味を指さして、笑う。その笑みは不気味でウソップは嫌な予感しかしなかった。 prev next 戻る |