空島(54)

「フミ好きだー!」

「ルフィ!?」

コニスに渡された貝殻に向かって、ルフィが叫んだのは突然のことだった。不意な告白にフミは顔を赤くして驚く。ルフィとフミが恋人だと知る一味とは違い、何も知らないコニスは口元に手をやり驚いたあと、優しく微笑む。

「ふふっびっくり。じゃあ、その貝の殻頂を押してみて下さい」

コニスとパガヤの家に入り、案内された部屋で不思議な貝の説明を受けることになった。先ほど、コニスが「ダイアル」と言っていたものだ。
サンジとパガヤは別でキッチンに先ほど向かっていった。
ルフィは手元の貝に視線を落とす。一見ただの貝にしか見えないが。

「押したってどうなるもんでも…」

「うわ!へコんだ!ここだけやわいぞ」

殻頂を押し、その柔らかさに驚いているルフィ、それを側でウソップとフミは見守っている。コニスは終始、微笑んでいた。
直後、貝から声が聞こえてきた。

『フミ好きだー!』『ルフィ!?』

「うわ!!!フミが貝に告白された!」

「違うだろ!お前の声じゃねェか!!」

「すごい!!」

貝殻から発せられる声は正真正銘ルフィとフミのものだ。さっき2人が話したトーンそのままで、まるで貝が声を記録したようだった。

「この貝がダイアルか!?」

ソファに腰掛け、傍観していたゾロも驚いた声を上げた。ルフィは面白がって何度も声を再生する。

「はい、それは“音貝(トーンダイアル)“音を録音・再生する習性がある白々海産の貝殻です。主に音楽を録音して使うんですが」

「成程!コリャスゲェな!」

ウソップの声にルフィも同意して、もう一度貝の声を聞いた。

「フミの声ずっと聞けるぞ」

「ちょっと!ルフィ!!」

フミが手を伸ばしてルフィから貝を奪おうとするが、身長差があるため届かない。ウソップは笑うだけで手伝わなかった。あとが怖いからだ。

「白々海の貝って…海底がねェのにどうやって生きてんだ?」

「浅瀬の漁礁で取れるんです」

自分の問いの返事にゾロは半分納得した。まだ雲の海について頭が追いついていない。青海の常識など一切通用しないようだ。

「これがダイアルなら…でも、これでウェイバーが動くとは思えないけど」

音を記録するだけの機能で、帆を持たない船を動かせるのかとロビンは疑問を口にする。

「いいえ。ウェイバーの動力はこっちです。これは小さめですけど“風貝(ブレスダイアル)“」

コニスはその小さな貝を、手に持ちたがっているルフィに手渡した。トーンダイアルとは違い、渦を巻いた貝だった。

「例えば、30分風に当てておけば、30分分の風を自在に排出できるんです」

コニスの説明を聞かず、ルフィはその貝を振りまわし、先ほどと同様殻頂を押してみる。すると、貝から風が吹き出した。麦わら帽子が浮くほどの威力だ。

「大きさにより風を蓄えられる容量は違いますけど、これを船尾に取り付ける事で軽い船なら動かせます。」

「そうか、これで風を吹き出して走ってたのかアレは!」

「私はウェイバーが精一杯なんですけど、本当は他にもいろいろあるんですよ。スケート型のものやボード型のものや…」

センスがあればすぐに乗りこなせるだろう。ルフィはコニスの説明を聞いて、バルコニーからオレンジ色の髪の女性を見つめる。軽々と白い海をウェイバーで移動していた。

「いいなー!ウェイバー乗りてェなー!あいついいなーせっかく一個持ってんのになー」

「持ってるったってありゃボロボロじゃねェか。それに100年経ってんだ、動くわけねェよ」

ウソップが言っているのは、今ナミの乗っているパガヤのウェイバーではなく、サルベージで手に入れた古いウェイバーのことだ。

「それは分かりませんよ?元々ダイアルは貝の死骸を使いますから、殻自体が壊れていない限り半永久的に機能するんです。」

「本当か!?ほら!!」

キラキラと目を輝かせてルフィは言うが、フミは呆れた笑みを浮かべる。

「でもルフィ乗れないじゃん」

「いいなーーーーーー」

フミの言葉にルフィは肩を落とすしかなかった。乗れないのなら、100年前のウェイバーが使えようとも意味はない。

「他にもまだ種類がありそうね。この照明もそう?」

フカフカの雲のソファに腰掛けるロビンは机の上にあった、貝の照明を見ながら呟いた。

「ええ“灯貝(ランプダイアル)“です。光をためて使います」

チョッパーもソファに座りながら、淡い光を放つ貝をキラキラした瞳で見つめていた。

「直接の資源じゃないですけど、空島の文化は“ダイアルエネルギー“と共にある文化ですから。他にも炎を蓄える炎貝(フレイムダイアル)や香りをためる匂貝(フレイバーダイアル)映像を残せる映像貝(ビジョンダイアル)色々あります」

「面白いなー!面白いなー!!」

コニスの未知の言葉にチョッパーはソファで跳ねながら、胸をワクワクさせた。

「ビジョンダイアルがあれば、フミの映像を残せるのか」

「おめェどんどん変態になってるぞ!」

「ルフィに渡しちゃダメだね。」

「後でコニスに聞こ」

「「ダメ」」

ウソップとフミから反対され、ルフィはまた肩を落としたが、すぐにその肩は跳ね上がった。鼻をくすぐる、いい匂い。

「さァ出来たぞ!空島特産フルーツ添えスカイシーフード満腹コースだ!」

「んまほーーー!!」

テーブルに並べられた料理の数々にルフィの口からは涎が溢れる。見たことがない、魚がたくさんあり、他も珍しそうに料理を見た。

「おい!ナミさんはどこ行ったんだ!?」

サンジは一人、バルコニーから海を見つめる。他はソファに座り、料理を口に運んでいた。
サンジの目線の先には白い海のみ。あるはずの女性の姿が見当たら無い。

「いるだろ、海に」

「うめー!このエビ!何て表現したらいいんだ!?」

「いや、いねェ」

「じゃ、ちょっと遠出してんだよ、放っとけって!」

ルフィは海の方には目もくれず、エビに夢中だった。

「ち、父上…大丈夫でしょうか?」

「ええ、コニスさん。私も少し悪い予感が…」

「何だ?どうした?」

コニスとパガヤは食べる手を止め、深刻そうにお互いを見合った。

「このスカイピアには何があっても絶対に足を踏み入れてはならない場所があるんです。その土地はこの島と隣接しているので、ウェイバーだとすぐに行けてしまう場所で…」

コニスの顔色が一気に悪くなる。どれだけ恐ろしい場所か、ウソップはすぐに想像できた。

「何だそれ?」

「聖域です…神の住む土地“アッパーヤード“」

「神がいるのか?絶対に足を踏み入れちゃならない場所に…!!」

そこでウソップは考えた、ルフィがなぜこんなにもコニスに聞き直しているのか。

「はい、ここは神の国ですから、全能の神“ゴッド・エネル“によって治められているのです」

コニスの顔色とは真逆で、どんどん目の輝きが増しているのをウソップは見逃さなかった。ルフィの胸ぐらを掴み、体を揺らす。

「おいルフィ!てめェ今何考えてる!!話をよく聞けよ!足を踏み入れちゃならないっていうのは絶対にそこに入っちゃならないって意味なんだぞ!ルフィ!?」

「あーそーーーー…入っちゃいけねェ場所があるのか!!」

ウソップの言葉は逆効果に終わった。余計にルフィの“行きたい病“を悪化させている。

「そうか…絶対に入っちゃいけねェ場所かァ!」

入るな、と言われればよりその冒険心を駆り立てる。ウソップ、サンジ、ゾロは心の中で呆れた。ルフィと過ごす時間が長ければ、ここで止めるのが無駄だということは理解できる。

「ん?でも神様なら入っちゃいけねェとことか入っても許してくれんじゃねェのか?優しいだろ?」

「いえ…でも神の決めた事を破るのは神への冒涜ですし…」

「そうか、まあいいや。どっちでも」

どっちみち、そこには行くのだから。神が許さないということが行かない理由にならない。

「おし!とにかくナミを探しに行こう!あ、でもちょっとこれ食ったらな」

「そんな悠長な事言ってる間にナミさんの身に何か起きたらどうすんだお前!置いとけ、すぐ戻って来るんだからよ」

「…ですけど彼女が本当にそこへ向かったかどうかも分かりませんし、くれぐれの無茶だけはなさらないで下さい!“ゴッドエネル“の怒りに触れては本当に大変な事に…」

コニスの言葉を遮るように、パガヤが口を開いた。

「ああ、そうだ。さっきからあなた方がおっしゃっている古いウェイバー。よろしかったら私見ておきましょうか。直せるものなら直しますし」

「あ、父は貝船(ダイアルせん)のエンジニアなんです」

「本当か!?頼む」

パガヤは信じていた。
ナミを純粋に探しに行くと信じているからこそ、コニスの言葉を遮ったのだ。だが、ルフィの目的は最早ナミではない。知るよしもない親子は、ナミを探しに行く事を認めざるを得なかった。

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