空島(51)

メリー号は高く高く飛んでいき、雲の中に入っていく。

突然、全員息ができなくなった。感覚で言えば海に潜った時のように、酸素が存在しない。
もう我慢できないーーーーそう思った矢先、船は雲から抜け出した。突然吸い込まれた空気に耐えきれず、咳き込む者もいれば、大きく呼吸をする者もいた。
いち早く回復したのは、ルフィだ。

「おい!みんな見てみろよ!船の外!」

ルフィの声に、他は立ち上がり辺りを見渡す。そこに広がっていたのは、一面の「白」

「雲!?」

「雲の上!?何で乗ってんの?」

雲の上に浮かぶメリー号。上を見上げても雲で覆われており、真っ白な世界が広がるのみ。未知すぎる世界に賢い者ほど頭が追いつかない。

「そりゃ乗るだろ。雲だもんよ」

「「イヤ乗れねェよ!!」」

雲が何なのか知っていないのはルフィだけだった。雲は乗れるものと思っていたらしいが、この光景を見てしまえば、あながち間違ってもいない。

「つまり、ここが空の海ってわけね」

ーーー空の海。
矛盾した言葉であるがそれ以外の言葉は見当たらない。

「でも見て。ログポースはまだこの上を指してる!」

「どうやらここは積帝雲の中層みたいね」

「まだ上へ行くのか?どうやってだ?」

ナミとロビンの話し合いにチョッパーは疑問を抱く。上を見上げれば雲があるのでこの上もあるのだろうか。

「第1のコース!キャプテン・ウソップ泳ぎまーす!」

「おう!やれやれ!」

「オイオイ無茶すんな。まだ得体の知れねェ海だ!」

「海は海さ!」

サンジの制止は聞かずウソップは笑い、勇敢に空の海へ飛び込んだ。地上の海のような感覚で泳ごうとするが、かなり抵抗は少なく前に進みやすい。ただ、透明度はなく視界は悪かった。共通点は息ができないところだけだろう。抵抗が少ないため、ウソップはスイスイと潜っていく。

「顔…出さねェぞ…」

なかなか上がってこないウソップに皆心配の目を空の海へ向けた。

「思うんだけど…ここには海底なんてあるのかしら」

ロビンの疑問に少し考えたあと、ルフィは慌てて腕を伸ばす。地上の海のように、悪魔の実の力のせいで力は抜けていくが、必死に伸ばした。

「だから言ったんだあのバカ!」

「できるだけ腕を遠くに伸ばして!」

「でも下は見えねェから勘だ!」

「大丈夫。任せて」

ロビンの任せての言葉を信頼し、ルフィは腕を伸ばし続けた。

「目抜咲き(オッホスフルール)」

ロビンは悪魔の実の能力でルフィの腕に自身の目を咲かせた。海の世界を見ながらウソップを探す。腕は雲を抜け、視界が広がった瞬間に叫びながら落ちていくウソップを見つけた。

「六輪咲き(セイスフルール)」

ルフィの腕からロビンの腕6本を咲かせて、ウソップを掴む。

「OK!引き上げて!!」

「うおっ!?っぷ!」

腕1本でロビンの腕6本とウソップの体を引き上げようとするのは、中々の力が必要だ。ルフィは踏ん張りながら全力で引き上げる。

「ルフィ、頑張って!」

フミの声に返事をしたかったが、その余裕は今のルフィになかった。

「おお!」

「やったァ!上がっ…!?!?」

「何かついてきたぞォ!!!」

ウソップと共についてきたのは、メリー号の何倍も大きな生き物達であった。見た目は地上と同じく海王類にそっくりだ。

「いやあああああ!」

「ウソップを食う気だ!!」

「「っあああああアアアア!!!」」

ナミとチョッパーの叫び声と同時にゾロが船から飛び出した。
タコのような生物の足を斬ると、それはパァンッと風船のように弾ける。もう一匹ヘビのような生物も、サンジが蹴り付け、とりあえず倒した。

「…さて、妙な生物だぜ?こりゃ…魚類かどうかも疑わしい」

「風船みてェだなあのタコは…」

「一応生物だろ。動いてた」

「雲の中に生物がいるなんて…」

「やはりここは雲というより海と考えた方がよさそうね」

「この平べったいヘビは何だ?」

サンジ、ゾロ、ナミ、フミ、ロビンは思ったことを口にする。ここにきてから皆の疑問は絶えないが、誰も答えは知らないので残るだけだった。

「ギャアアアアアア!」

「うるっせェな!今度は何だウソップ!」

ウソップの叫び声にサンジは怒りが込み上げる。

「ズボンの中に…なんかいた…」

薄い水色の魚のような生き物が入っていて、ウソップは震えながら倒れ込み涙を流した。

「ウソップー!!」

「空島コワイ…空島コワイ…」

「これが空魚(くうぎょ)じゃない?ノーランドの日誌にあった“奇妙な魚“恐らく海底のない空の海に対して生き残る為に色んな形で進化を遂げたんだと思うわ」

ウソップのズボンに入っていた魚も、ヒレが羽のように見える。
その魚をサンジは受け取り、ダイニングキッチンへ向かった。ルフィはワクワクして後ろをついていく。そんな2人に気づかずロビンとナミは話し合いを続けた。

「それで風船になったり平たくなったりか?」

「より軽くなる為ね…地上の海の水より浮力が弱いのよ」

「鱗が羽毛みたいだし…」

「でも肉食っぽいよ、口が」

ロビンの予想にナミとフミも納得する。
今までの麦わらの一味ならば疑問が浮かびっぱなしだが、ロビンが入った事により“予想“ができるようになったし話も進みやすい。スムーズに会話ができることに、ナミはストレスが減った。

「ソテーにしてみた」

「こりゃうめェ!!」

「まだ検証中でしょ!?」

魚について話し合っていたのに、貴重なその魚はもうルフィの胃の中にあった。ナミのストレスが減ることはやはり無さそうだ。
怒りながらも気になったナミはルフィから魚を奪い、食べてみる。

「あっ!ホントおいしー!初めての食感!」

「フミちゃんも食べてみて!」

「うん!……すごい!フワッフワ!」

「あのでけェのも食ってみよう!」

地上のものとはまた違う食感に、ナミとフミの頬も自然と緩む。サンジはその2人を見ているだけで満足だった。
そんな会話にいつもなら入ってくるはずのチョッパーは、双眼鏡で辺りを見回すのに夢中だった。

「お!船…!おーい!みんな!船……と…人?え……わ!?」

「おい、どうしたチョッパー」

「え…わァ!!!」

顔色を悪くしたチョッパーは双眼鏡を落としてしまう。

「チョッパー船か?船がいるのか?」

「いや…うん…いたんだけど…船はもういなくて…」

チョッパーは確かに船を見ていたはずだ。その船が、燃えてしまうまで。

「そこから牛が四角く雲を走ってこっちに来るから!大変だー!!!」

「わかんねェ。落ち着け!」

「何だっつーんだ」

ゾロとサンジがチョッパーを見ながら困惑する中、メリー号に近づく影が見えた。

「人だ!誰か来る!」

「雲の上を走ってるぞ!」

船にも乗っていないのに、人が1人にメリー号に近づき、飛び跳ねた。

「おい止まれ!何の用だ!」

「排除する…」

「やる気らしい」

「上等だ」

「何だ何だ?」

敵と思わしき人物の言葉に、サンジゾロルフィは戦闘体制に入る。
が、いつものようにはいかなかった。3人はいとも簡単に蹴られ、倒されてしまう。その姿に、他は驚きを隠せない。麦わらの一味で最も強いのはこの3人だ。それが敵わないともなれば、他では太刀打ち出来ない。

「え!?ちょっとどうしたの3人共!」

「ギャーギャー!!」

敵は宙を舞い、バズーカらしきものを構える。絶対絶命のピンチにナミとフミは声すら出ず、チョッパーは喚いていた。

「そこまでだァ!!」

「何!今度はだれ!?」

宙にいた敵を槍てついた人物がいた。鳥に乗り飛んできたその男は敵を空の海に沈める。

「ウーム。我輩“空の騎士“」

「ピエー!!!」

空の騎士と名乗る男は鎧を見に纏い、白髪に白髭を生やした所謂老人だ。
空の騎士と大きな鳥はメリー号へと降り立ち、真顔で一味を見つめたのだった。

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