ジャヤ(50) 「いいか?現在午前7時だ!現場付近に到達するのが恐らく午前11時頃。おやっさんが話した様に“突き上げる海流(ノップアップストリーム)“の立ち上がる位置は毎回違うからそれ以前に到着してその位置を正しく探索しておく必要がある!少し予定より遅れちまったから…オイ!聞いてんのか!?」 話を全く聞いていないルフィとウソップにマシラは呆れた笑みを浮かべた。 2人はと言えば、南の方向を向き続けるサウスバードに夢中だ。フミが連れ去られた時、一味はきちんとサウスバードを一羽捕獲していた。 「オイお前らァー!大園長を怒らせんじゃねェぞォ!」 「まーいーからいーから!ハラハラするぜあいつらのシカトっぷりには!」 「まーそんなに焦ってもしょうがねェからさ!楽に行こうぜ!」 ルフィは間抜けと言われんばかりの顔でマシラ達に向かって笑ってみせる。 「だが、そりゃそうだ何時間も緊迫し続けたってしかたねェ!」 「なるほどな…よーし野朗共気を抜きながら全速前進ー!」 ルフィに習い、マシラとショウジョウも気を抜くので、勿論マシラとショウジョウの部下達も気を抜き始めた。 突然気を抜き始めた皆にゾロは呆れてため息をつく。が、気を抜いていないのはゾロくらいだ。 一味は残り4時間ほど、メリー号の上で過ごす事になった。 「フミ、お風呂に入ってきた方がいいんじゃないか?」 「チョッパーくん一緒に入ろうよ」 「おう、いいぞ!」 フミは女部屋に着替えを取りに行き、チョッパーとお風呂へ向かおうと歩き出す。そこにナミが心配そうな顔で駆け寄ってきた。 「フミ大丈夫なの?何されたの?傷は残らないの?」 「ナミちゃん落ち着いて!殴られたけど、もう痛くないよ」 「あいつ…だから殺せって言ったのに!ルフィ!!どこ!?」 ナミは大慌てでルフィを探しに行ってしまった。きっとルフィがとばっちりを受けてしまうが、フミは苦笑いを浮かべることしかできない。 「フミ早く行こう。濡れたままだと風邪ひくぞ」 「そうだね。あとチョッパーくんに聞きたいことがあるの…」 「?、なんだ?」 「お風呂で聞くね!」 2人は手を繋いで、お風呂へと向かった。 その頃、ナミはルフィを見つけ一発殴っていた。 「なんだよナミ!いきなり!」 「フミの代わりに殴ったのよ!」 突然背後から殴られたルフィはナミを軽く睨みつける。 「なんでおれなんだよ!あいつならおれが倒した」 「それでも気が収まらないのよ!」 「理不尽…」 「何よウソップ!あんたも殴られたいの!?」 「逃げろー!」 ウソップはそう言って走って逃げてしまった。逃げ足だけは早い彼にナミは追おうともしない。その代わり、ナミはイライラとした様子でルフィを睨みつけた。 「あ、そうだナミ」 「何よ!!」 「キスの続きってどうやるんだ?」 「……………は?」 ナミの動きが止まり、パチパチと瞬きを繰り返している。ルフィが真顔なので冗談ではないようだと察するが、すぐに言葉が出てこない。突然すぎやしないか、フミと何があったのか、どこまで進んでいるのか、ルフィはどこまで知っているのか、と脳裏にはハテナばかり浮かぶ。 「…え、あんた知らないの?」 「知らねェ!子供の作り方は知ってるぞ。けどまだ子供はいらねェし…」 「はぁ…説明するわ。フミの為にも。」 ナミはため息をつきながらも少し楽しそうだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 3時間後ーーーー 「園長マズイ!」 「どうしたァ!?」 「南西より夜が来てます!積帝雲です!」 「本当か!?今何時だ!?」 「10時です!予報よりもずっと早い!」 「ウータンダイバーズ!すぐに海へ入れ!海流を探る!」 船の先の空は真っ黒な雲で覆われていた。一度体験したが夜になったのかと錯覚するほどの暗さだ。 「何だ何だァ!?」 「予想より早く積帝雲が現れたって!まだ海流の位置もわかっていないのに!」 マシラとショウジョウの部下が海へと潜り海流を探しにいく。予定より1時間も早く積帝雲が現れてしまっては、探索が間に合うか分からない。 「10時の方角に海流に逆らう波を確認!巨大な渦潮では無いかと!」 「それだ!船を10時の方角に向けろ!爆発の兆候だ!渦潮を捉えろ!退くなよ!」 突然波が高くなり船が大きく揺れ始める。皆船に捕まり、海に投げ出されないように備えた。ルフィがいつも通りフミの体を引き寄せて支える。 「ん?フミ…顔赤いぞ」 「い、いや…何もないよ…ルフィちょっと近い!」 「何言ってだ、危ねェだろ」 なぜフミの顔が赤いのか。それはお風呂でチョッパーからキスの続きを教わったのだ。医者であるチョッパーは勿論知っていたし、恥じることはなかったがフミはルフィとの接し方が分からなくなった。自分たちがキスの続きをするのだと考えるだけで恥ずかしくなる。 フミの考えを他所に、波はどんどん高くなっていき、それどころでは無くなった。余計なことを考えてはダメだと、フミは今の状況に専念する。 「航海士さん!ログポースはどう?」 「ずっとあの雲を指してる!風の向きもバッチリ!積帝雲は渦潮の中心に向かってるわ!」 「おい何だ渦って!?そんなもんどこにあるんだ!?」 「どうやら今回当たりの様だぞ兄弟」 「ああ爆発の規模も申し分なさそうだ」 マシラとショウジョウは顔を合わせてニヤリと笑う。ショウジョウの船からイカリが伸びてきて、メリー号に繋がった。 「渦の軌道に連れて行く!」 「そしたらどうしたらいいの!?」 「流れに乗れ!逆らわずに中心まで行きゃなる様になる!」 メリー号の何百倍もありそうな巨大な渦潮へと入っていく。ゴゴゴゴゴゴと聞いたことがないような音が響いていた。ここから先、どうすればいいかなどマシラとショウジョウにも分かるわけがない。まだ誰も空島へ行ったことがないのだから。 「飲み込まれるなんて聞いてないわよォ!」 「大丈夫だ!ナミさんとフミちゃんとロビンちゃんはおれが守る!」 「こんな大渦初めて見たわ」 「船潰れちゃう…?」 「やめだァ!やめやめ!引き返そう帰らせてくれェ!」 「観念しろウソップ…手遅れだ一人すでにノッちまってる」 「行くぞー!!!!空島ー!!!!」 ナミ、サンジ、ロビン、フミ、ウソップ、ゾロ、ルフィがそれぞれ大渦の上で口にする。大渦の中では巨大な海王類が1匹泳いでいるが、海流の勢いに負けて沈んでいった。その光景にナミ、ウソップ、チョッパー、フミは顔色が悪くなる。静かに沈んでいく海王類はそのまま見えなくなった。 「じゃあおめェら!あとは自力で何とか頑張れよォ!」 「ああ!送ってくれてありがとうなー!」 マシラとショウジョウの2隻は大渦に入る前に、遠下がった。ルフィが大きく手を振ってお別れする中、ナミ達の心中は穏やかではない。 「待ってーーーっ!!!」 「も!勘弁しでぐれェ!恐ェえっつうんだよ!帰らせてくれコノヤロー!即死じゃねェかごんなモン!」 「おァあああああー!!!!」 「こんな大渦の話なんて聞いてないわよ!サギよサギー!!!」 もしも、この渦にメリー号が飲まれてしまったら。そんな事考えたくもないが、現実になるとすれば待ち受けるのは死のみだろう。 大渦の中心へ進んでいく中、辺りは真っ暗になる。 「うわァああああ!夜になったァああ」 「渦にどんどん吸い寄せられるぞォオオオ」 「引き返そうルフィ今ならまだ間に合う!見りゃわかるだろ!この渦だけで充分死んじまうんだよ!空島なんて夢のまた夢だ!」 「夢のまた夢…そうだよな…」 「そうよルフィ!やっぱり私も無理だと思うわ!」 「夢のまた夢の島!こんな大冒険逃したら一生後悔すんぞ!」 夢のまた夢と言ったのがいけなかったのだろう。寧ろルフィの好奇心を駆り立ててしまった。キラッキラの笑顔で言うルフィにナミとウソップは黙るしかない。 「ホラ、おめェらが無駄な抵抗してる間に…」 「間に…何だ?」 そう。 抵抗している間に、メリー号はとうとう渦の中心に飛び込もうとしていた。船が浮かび、中心へと落ちていく。重力で体が浮かぶのを捕まって抑えながら、いずれ訪れる衝撃に備えてー… ザザー…ン 突然、渦が消える。 あんなに巨大な大渦が一瞬で音が無くなった。 「何だ!?消えた!?」 「何が起きた!?」 「あんなでっけェ大渦の穴が!?どういうこった!?」 静まり返った海に疑問が浮かぶが、空は暗いままだ。ナミが船から顔を覗かせて海を見つめる。 「違う!始まってるのよ!もう…渦は海底からかき消されただけ…」 「まさか……」 ゴゴゴゴゴゴと低い音が海から聞こえ、ナミの眉間に皺が寄ったのと同時に声がした。 「待ァてェーー!!!」 「おい、ゾロ」 「あ!?」 「あれ」 ルフィがゾロを呼び、声がした方を向かせる。そこには大樹4本ほどで作ったイカダに海賊旗がつけられた見窄らしい海賊船ー…と呼んでいいものかも分からない船があった。 「ゼハハハハハ!!追いついたぞ!麦わらのルフィ!」 「あれはモックタウンにいた!」 モックタウンに上陸したルフィ、ゾロ、ナミだけがその人物に心当たりがあった。黒髭を生やした、男がどうやら船長のようだ。他3名ほどイカダー…船に乗っている。 「てめェの一億の首を貰いにきた!観念しろやァ!」 「おれの首!?一億って何だ?」 「やはり知らねェのか…ん?何でこの辺暗いんだ?…まぁいい。おめェの首にゃ一億ベリーの賞金が懸かってんだよ!そして海賊狩りのゾロ!てめェにゃ6千万ベリーだ!」 「本当だ!新しい手配書だ!ゾロ、賞金首になってんぞ!」 ウソップが双眼鏡でイカダを見てみると、二人の手配書を持っているのが見える。サンジは自分のものがないかウソップに確認するが、無いのでショックを受ける。 「聞いたか!?おれ一億だ!」 「6千万か、不満だぜ」 「そうか…アラバスタの件で額がハネ上がったんだわ!」 喜ぶルフィだったが、ゾロは少し不満の様子だ。賞金首が増えた時点でナミは嬉しくもない。狙われる確率がどんと増えるからだ。 「おいおめェら!他所見するな!来るぞノップアップストリーム!」 マシラの声に、ハッとした一味は黒髭の男たちを無視し、船体にしがみ付いた。 ゴゴゴゴゴゴッッ 低い大きな音が段々と近づいてくる。海が騒がしくなった。海底から膨らんで膨らんで…そしてー… ズドォオオオン!!!! と耳が割れるような大きな音と共に、海流が天に向かって突き上がる。地響きと共に、巨大な波が見ていたマシラたちを襲う。ひっくり返りそうな船にしがみ付きながら、マシラとショウジョウは笑った。 「「行けよ空島!!!」」 突き上がっていく海流はメリー号を連れて天へと登っていった。 「どうなってんだこりゃ!?」 「水柱の上を船が垂直に走ってるぞ!」 「うほー!面白ェー!」 「どういう原理だァ!?」 凄まじい勢いで海流が登って行く中、一味は船体に捕まることしかできない。死ぬんじゃないかと目をつぶっていたフミだったが、薄らと目を開ける。巨大な海流と平行に船は進んでいた。 「ちょっと待った!そうウマイ話でもなさそうだな。船体が浮き始めてる!」 「ええ!?」 「このままじゃ弾き飛ばされるのがオチだぞ!」 船体が少しずつ浮いてきている中、上から海王類が降ってきた。メリー号の真横を通り、海面へと落ちていく。その海王類は先ほど渦に巻き込まれたものと同じだ。 「みろ!おれ達だってああなるのは時間の問題だ!」 海面に叩きつけられですれば、メリー号共々即死である。 「オイオイそんな事言ってもよ!こんなもん爆発の勢いで昇っちまってんだから今更自力じゃ…」 「うわぁ!色んなもんが降ってくるぞ!」 「おれ達ももうお終いだこのまま落ちて全員…海に叩きつけられて死ぬんだよ」 「帆を張って今すぐ!!」 そこでナミが指示を出した。立ち登るこれは"海流"だということにナミは気がついたのだ。 「下から吹く風は地熱と蒸気の爆発によって生まれた上昇気流!相手が風と海なら航海してみせる!この船の航海士は誰!?」 ナミの頼もしい言葉に全員が笑顔を浮かべる。聞かれなくても彼女しかこの船に名航海士はいない。 「んナミさんですっっっっ!!!」 「右舷から風を受けて舵はとり舵!船体を海流に合わせて!」 「イエッサー!」 「わァ!ヤバイぞ!水から船が離れそうだ!」 「ううん!いける!!」 心配そうなウソップ達をよそに、ナミは自信あり気だ。 船が水から離れる。落ちるー…と思ったが、船は浮いたまま、落ちることがないので海面に叩きつけられなくて済む。 「飛んだァー!!!」 「マジか!!」 「ナミさん素敵だー!」 「この風と海流さえつかめば、どこまででも昇って行けるわ!」 飛ぶ船に一味はワクワクが止まらない。ウソップもなんだかんだ楽しくなっていた。 「おいナミ!もう着くのか!?空島!」 「あるとすればあの雲の向こう側よ!」 「雲の上か!あの上に一体何があるんだ…!?積帝雲に突っ込むぞォー!!!」 ルフィの言葉に全員が「うおおおォー!」と返した。浮かんだままメリー号は黒い雲へと進んでいく。 prev next 戻る |